スマートフォンのナビゲーションアプリは、出発地から目的地まで効率的に行く最短経路を表示してくれるもの。経路を外れてしまっても、すぐにその地点から目的地にたどり着ける最短ルートを即座に計算し直してくれます。しかし最近の研究で、そもそも私たちの脳は最短ルートで進むという行為が苦手であることが判明。一体どういうことなのでしょうか?

↑目的地から遠ざかっているようなのに、本当にこれが最短ルート?

 

米国・マサチューセッツ工科大学の都市研究計画を専門とするチームは、ボストンとケンブリッジの1万4000人の携帯電話から、匿名化したGPS情報を取得。このデータをもとに、人が都市をどのように歩いているかを分析しました。

 

その結果、人はある地点から別の地点まで歩くとき、最短ルートを選んでいないことが判明。むしろ多くの人は、多少長い道のりになっても、目的地にできるだけシンプルかつ「ダイレクト」に行くことができるルートを選んでいました。都会では、直線の最短ルートで目的地まで辿りつけないことが多いですが、直線ルートからそれて進まなければならないとき、人は最短ルートを計算するより、「目的地の方角との差ができるだけ少ないルート」を選ぶ傾向があることが判明したのです。

 

同研究チームはこの経路のことを「pointiest path(狙いを定めたルート)」と表現していますが、この行動パターンは道路が複雑に入りくんだボストンやケンブリッジのほか、碁盤の目のように街が作られているサンフランシスコでも見られました。それと同時に、出発地と目的地を往復する場合、人は行きと帰りは違うルートを選ぶ傾向があることも明らかにされ、人間がいつも合理的な選択をしないことが浮き彫りにされました。

 

目的地からそれないほうがいい

このような人間の行動には、「ベクトルベース・ナビゲーション」と呼ばれる能力が働いているようです。最短経路を考える際には頭を使うことが多いですが、ベクトルベース・ナビゲーションはそこに使う労力を減らす代わりに、ほかのタスクにエネルギーを分散させることが特徴。

 

これは霊長類や昆虫などの動物でも見られます。動物の場合、移動するときは、ライオンといった危険な獣から自分自身や家族を守ることが大切なので、頭で最短ルートを「計算」する代わりに、周囲の安全に気をつけながら、あまり頭を使わずに、できるだけシンプルかつ割と速く目的地に辿り着くルートを選ぶようになっていったのではないかと考えられています。同研究チームの教授によれば、人間についても「ヒトの脳は『トレードオフ(必要な妥協)』や『ほどほどで良い』という考えに行きつくことが多い」とのこと。

 

カーナビやGoogleマップといったコンピューターは、コードで指示されたとおりに実行し、最短ルートを計算して人間に提示します。でも今回の研究で明らかになったように、人間の脳は機械と違って、非合理的なことがたくさんあります。大事なことは、両者の違いについて理解を深めること。今回の発見は人工知能の開発に何らかの示唆を与えると見られます。