未来の子どもたちに綺麗な海を残したい〜株式会社SUSTAINABLE JAPAN

 

「子どものころに見た海とはまったく違う……」。約7年前、母の実家がある熊本県の港を約20年ぶりに訪ねたところ、海面にペットボトルや得体のしれないゴミが無数に漂っていたことに衝撃を受け、「未来の子どもたちに綺麗な海を残したい」という思いに駆られ、行動を起こした人がいます。株式会社SUSTAINABLE JAPANの東濱孝明社長です。

 

深刻化している海洋ごみ問題

“海洋ごみ”“マイクロプラスチック”の問題はここ数年、大きく取り上げられています。世界の海には、すでに1億5000tのプラスチックごみがあり、そこへ毎年800万tが新たに流入しているといわれています。生物がポリ袋を餌と間違えて飲み込んだり、プラスチックごみが魚網に絡むなど、さまざまな悪影響や経済的損失も問題視されています。

 

一度海へ流入したプラスチックごみは、波や赤外線により小さなプラスチックの粒子となり、そのうち5mm以下のプラスチックは、マイクロプラスチックと呼ばれます。これらは自然分解することはなく、数百年以上もそのまま海に残り続けると考えられ、海の生態系にも大きな影響を与えます。(WWFジャパンホームページ参照)。

 

その対策の一つとして、身近なところではレジ袋やストローなどプラスチック製品の削減があります。雨が降ったときに路上のごみが川や水路に流れ、海に至ることが多く、海洋プラスチックごみの7〜8割は陸地から発生。このまま放置しておくと、2050年には、魚より海洋プラスチックごみの量が多くなるとも言われています(日本財団ジャーナルホームページ参照)。

↑海面に浮いた無数のプラスチックごみ(左)、浜辺に打ち上げられたごみ(右)

 

使命感から脱サラし起業

現在、海洋ごみ削減に取り組む企業も増えていますが、SUSTAINABLE JAPANもその一社。

 

「地上ではごみ回収業者がいるのに、なぜ海にはいないのか。どうすれば海洋ごみを回収できるのか。そんな疑問から始まりました。元々はIT企業の会社員でしたが、脱サラをして2019年1月に起業。事業内容としては、SEABINという海洋浮遊ごみを回収する機器の販売とリース、海や湖のごみの回収作業を行っています。

↑株式会社SUSTAINABLE JAPAN 代表取締役社長・東濱孝明さん

 

熊本にある祖母の海がごみだらけなのを見て、悲しかったんでしょうね。とくに社会課題に興味があったわけではありません。“海に浮かぶごみが外洋に出たら、2度と回収できない。僕らの子どもや孫の時代に大きく影響してくる。すぐにでも行動しなければ”という使命感に駆られたんだと思います。だから当時は、社会貢献という意識はありませんでしたし、SDGsという言葉も知りませんでした」

 

海洋浮遊ごみ回収機SEABINとは

ゼロからのスタートだったため、まずは海外を含め、インターネットや書籍で海洋ごみ問題について徹底的に調査。そして出合ったのが、オーストラリアのサーファーが開発した、海洋浮遊ごみ回収機SEABINでした。SEABINは、直径約60㎝、高さ約80㎝の円筒で、水中ポンプにより、吸い込み口が上下します。この動作により、海面に浮いたごみを引き寄せ、ポット内にごみだけを回収します。1度に最大20kgの浮遊ごみを回収でき、約2mmまでのマイクロプラスチックは年間約1.4t(天候とごみの量に応じて)を回収できるそうです。日本ではまだあまり知られていませんが、39の国と地域で約860台が稼働しています(2021年現在)。

↑オーストラリアのサーファーが開発したSEABIN
↑SEABINによるごみ回収の仕組み(株式会社平泉洋行のホームページより)

 

実証実験で効果を実感

SEABINが設置されるのは、漁港や湾内など、ごみが流れてたまりやすい波の穏やかな場所です。湖や河川でも活用できますが、設置するためには管轄する自治体や漁港組合の許可が必要。東濱さんも実証実験を行うために、まずは自治体に相談したそうです。

 

「最初に実証実験を行ったのは、熊本県水俣市にある丸島漁港でした。SEABIN1基を17日間稼働させ、約42kgのごみを回収しました。次に熊本県宇城市の松合漁港でも行い、16日間で約60kgのごみを回収しています。また昨年は熊本市から依頼を受けて、江津湖でも実証実験を行いました。実証実験の好結果から、実は今年の春から市の事業として本格的に稼働する予定でしたが、新型コロナの影響で先送りとなってしまいました。でも、熊本だけでなく、全国の自治体や企業から問い合わせをいただいています」

 

また、写真家からの打診で、長崎県五島列島の福江島で高校生と共にビーチクリーンを実施。SEABINで実際に海洋浮遊ごみを回収し、講演も行いました。

 

「高校生たちの環境に対する意識の高さに驚きました。3日間だけの設置だったのですが、長崎県の環境シンポジウムでSEABINを利用した海洋浮遊ごみの回収について発表もしてくれました。がんばらないといけないと、身が引き締まる思いでしたね」

↑実証実験での様子。落ち葉や枯れ枝が大半だが、ペットボトルなどプラスチックごみも多く混じっている

 

用排水路の浮遊沈殿ごみも回収

東濱さんの取り組みは海や湖だけにとどまりません。用排水路用に浮遊沈殿ごみ回収機を約1年かけて開発し、今年9月から実証実験を始めました。

 

「熊本県内のJGAP(食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられた認証)を取得している米農家さんからの依頼がきっかけでした。実は、肥料をコーティングしている樹脂の膜はプラスチックでできていて、肥料が溶け出たあとに殻だけが残り、海に流出しているそうです。いずれはマイクロプラスチックになる可能性が高く、殻を流出させないためにSEABINを利用できないかというお話しでした。しかし用排水路ではSEABINの設置は難しく、ポンプの使用を改良した用排水路専用の機器を開発することを決めたのです。システムの開発には、地元の工業高校の生徒さんたちに協力をしていただき、この夏、ついに完成。1mm以下のマイクロプラスチックから、ペットボトルやレジ袋などの生活ごみも回収可能で、来春の稲作シーズンに間に合うように販売・リースを行いたいと考えています」

 

↑用排水路浮遊沈殿ごみ回収機の実証実験。回収機の使用前(左)と使用後(右)

 

まずはたくさんの人たちに知ってほしい

海を綺麗にするために日々奮闘している東濵さん。しかし現実には課題は多いそうです。

 

「用排水路用のごみ回収機は農協や組合の許可ですみますが、SEABINは自治体や漁港組合の協力がなければ設置できません。自治体は予算が年単位なのでどうしてもスピードが遅い。待っている間にもごみは蓄積されていくので、そのジレンマはあります。また、SEABINの日本での知名度がまだまだ低いのもネック。多くの人たちに知っていただき、応援してくれる人が増えれば、自治体の対応もスムーズになるのではないでしょうか。そのためにも、今は、できるだけ多くの人たちに、SEABINを、そして弊社の取り組みを知ってもうらうことに力を入れています」

 

今後は回収プラスチックの二次使用も検討

単純に“海を綺麗にしたい”“未来の子どもたちに綺麗な海を残したい”という思いから始まったこの事業。

 

「もちろんSDGsの必要性や重要性は感じていますし、機会があれば関わっていきたいと思っています。しかし、すべての海洋ごみを回収するのは不可能ですし、海洋環境問題を私一人の力で解決しようなんて大それたことは考えていません。ただ、目の前のできることをコツコツとやっていくだけです。また、今は回収したごみの処理は産廃業者に委託していますが、今後は、回収した廃プラスチックの二次製品製造も考えています。私の取り組みが、数%でも課題解決に役立っているのであれば意義のあることだと思っています」