英国では、比較的新しいショッピングイベントであるブラックフライデー。この米国発の“お祭り”は英国人の間でも人気を広げつつありますが、環境問題や多様性が重視される現代では、割引率だけでなく、企業の価値観にも消費者は注目。本稿では、社会的なメッセージを展開して話題を集める2社を取り上げながら、英国でブラックフライデーがいかに変化しつつあるのかを見てみます。

↑ブラックフライデーでクリスマスムードが増す英国

 

英国では、クリスマスは家族や親戚が集まるビッグ・イベントで、一人一人にプレゼントを渡す習慣があります。そのためプレゼント選びはこの時期の大仕事で、予算も全国平均で国民1人当たり420ポンド(約6万3100円※)とかなりの額に達しますが、当然ながら小売業界も一年で最大の商戦を展開します。

1ポンド=約150円で換算(2021年12月3日時点)

ブラックフライデーは米国を起源としており、感謝祭の翌日の金曜日に行われる一斉セールですが、感謝祭の習慣がない英国において、このイベントの意味はクリスマスショッピングの開幕戦。小売店やブランドはセール開始をさらに前倒しにして11月初旬からプレセールを始め、購買ムードを盛り上げていきます。

特にコロナ禍とブレグジット(EU離脱)の影響が残る2021年は、ショッピング街の人出や配達遅れなどのトラブルを避けて、早めに買い物の準備を始める傾向が見られました。

 

そんな中、英国では2つのブランドが大きな注目を集めています。

 

1: ダイバーシティで勝負する「ジムシャーク」

↑多様性を全面的に打ち出すジムシャーク(画像提供/同社の公式サイト)

 

ブラックフライデーをスポーツ大会になぞらえて、スポ根風のコミカルなCMを公開したのが、英国のフィットネス・ファッションブランドの「ジムシャーク(GymShark)」です。ナイキ、アディダスの2大ブランドがマーケットを席巻する中、同ブランドは人気フィットネス・ブロガーを起用したインフルエンサー戦略で、一気に人気ブランドへと成長しました。

 

ブラックフライデーのCMコピーは「You know the Drill(やることは分かっているね)」。スポーツコーチがアスリートたちに「セール開始はいつか」「割引率は」「サイズ選びのコツは」「ウィッシュリストの新機能は」など、「勝つ」ための情報をチームに叩き込むという内容で、視聴者もセールにまつわるQ&Aが頭に入るという構成になっています。また、昨年のロックダウン中にはセール開催の24時間前にウェブサイトを故意にダウンさせ、サスペンス感を生み出す戦略でも話題を呼びました。

このCMは英国の多様性を反映して、さまざまな人種の俳優を起用しているのが特徴。同ブランドのファンはフィットネス好きなだけでなく環境・社会問題への感心が高い10代から20代前半のZ世代が多いため、同社では社内の男女比率や人種比率を公開したり、各商品のカーボンフットプリント(商品のライフサイクル全体を通して温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの)をアップデートしたりしてファンの心をつかんでいます。

 

2: 「買わないで」と訴える「パタゴニア」

一方、毎年「むやみに買わないで」という反ブラックフライデー・キャンペーンを繰り広げて人気を呼んでいるのが、米国アウトドア・ブランドのパタゴニアです。同ブランドはブラックフライデーセールを行わず、大量消費文化によって引き起こされる環境問題について訴える広告で支持を得ています。2016年にはブラックフライデー売上高の全額を環境保護団体に寄付すると発表し、大きな反響を呼びました。当初の予想を5倍も上回る1000万ドル(11億円以上※)の売り上げを記録したことは、多くの人たちが共感した結果といえるでしょう。

1ドル=約113円で換算(2021年12月3日時点)

 

2020年には、逆から読むと環境保護メッセージになる詩を使ったユニークな広告を発表し、米国だけでなく英国でも多くの支持を集めました。現在は世界の環境保全団体とブランドのファン・コミュニティを繋ぐ世界規模のプラットフォーム「パタゴニア・アクション・ワークス」の活動を加速させています。

 

“グリーン”フライデーへ

↑この自然こそが最大の贈り物

 

英国では2022年消費トレンド予測の一つとして「気候主義(climatarianism)」が挙げられました。これは地球環境や気候への影響を基準にして消費を行うライフスタイルを指します。ユーザーが自分の信念や価値観に沿ったブランドから商品を購入する傾向は、今後ますます高まっていくでしょう。

G7首脳会議と国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催されたばかりの英国では、環境意識がこれまでになく高まり、特に若い世代では「サステナブルでなければクールでない」という意識が強まっています。英国の独立系小売店が集結し、ブラックフライデー割引は行わない代わりに当日の売り上げの一部を慈善団体に寄付して植樹を行うという「グリーンフライデー」活動のニュースも報じられたばかりです。

企業の社会的な責任が強く問われるようになった今日の英国では、もはや商品のデザインや価格だけで消費者の支持を得ることはできません。ブラックフライデーに限らず、ブランドのサステナブルなビジョンを明確に打ち出すことでファンの信頼を得るという戦略こそが、これからより一層重要になっていきそうです。

執筆者/ネモ・ロバーツ