2022年2月、フランスのソフトウェア企業「ダッソー・システムズ」が、恒例の年次イベント「3DEXPERIENCE World」を開催しました。昨年に続きオンラインで行われましたが、今回もさまざまな分野の最前線を走る人たちが講演。彼らはどのような仕事観や人生観を持っているのでしょうか? 3回シリーズの第1弾では、スポーツ用の義足などを手掛ける工業デザイナーの働き方を紹介します。

↑働く意欲やひらめきはどうやって生まれるのか?

来る仕事は断らない

本稿で取り上げるのは、米国・Center for Advanced Design(CAD)社の共同オーナーであるMarc McCauley氏とJesse Hahne氏。彼らは、モトクロスバイクからスノーモービルへと変身するバイクなど、現在まで2500もの革新的な工業デザイン製品を開発してきたエンジニア兼工業デザイナーです。

 

2人は10年ほど前に同社を立ち上げたときから、「来る仕事は拒まずに全力で取り組む」というスタイルを貫いてきました。そんな真面目な姿勢は現在でも変わっていません。

 

「仕事を受託するには意欲と情熱が必要ですが、私たちはいつも中堅から大手まで多くの企業と仕事ができる素晴らしい機会に恵まれてきました。プロジェクトには、さまざまなアイデアを持った発明家みたいな人たちが参加しますが、そんな人たちと考えや意見を共有し、同じ目標に向かって協力することがこの仕事の醍醐味です」と彼らは言います。

↑3DEXPERIENCE World 2022で登壇したCAD社のJesse Hahne氏(左)とMarc McCauley氏

 

エンジニアは実際に製品がどのように機能するかを考えたうえで、3Dプリントしたプロトタイプを作り出します。しかし、2人は技術的なデザインだけでなく、市場に送り出すまでの工程や製品化するために必要なことを含めた、デザインだけにとらわれない包括的な提案も積極的に行ってきたそうです。

 

「仕事をするうえで私たちがまず意識しているのは、誰が提案したものであっても、果たしてそのプロジェクトが実現可能かどうかということ。もちろん、最大の問題といえるコストについても、常に気を配ることが必要です」と両氏は言います。

 

CAD社がある地域では冬はスノーモービル、夏はオフロードとモータースポーツが盛んなため、一輪車型のホバーボードのようなアクティビティに使える製品の依頼が多いとのこと。しかし同社は、ほかにもさまざまな製品を生み出しており、最近ではコロナ禍ならではの製品も作ったそうです。

 

「コロナ禍で生きる私たちにとってまさに必要だった発明品が『LID Boss』。これは私たちが数年間、環境のために取り組んでいたプロジェクトの1つでもありますが、カフェなどに置くと便利なマシンで、タッチレスディスペンサーの前で手を振ると飲み物用に清潔で新品のふたが1つだけ出てくる仕組みになっています」とMcCauley氏とHahne氏は説明します。

 

「飲み物のカップのふたは人が口をつける部分ですが、カウンターにいるバリスタでさえ、どうしてもふたを触らなくてはなりません。また、客が自分でカップのふたを付けるタイプの店の場合、1つだけ取るのが難しくて落としてしまったり、欲しい数よりも多く取ってしまったり、自分の前に誰が触れたかわからないふたを使ったりすることがあります。しかし、このマシンがあれば、ふたからのウイルス感染を防げるだけでなく、廃棄量を約30%削減することもできるのです」と両氏はその意義を語ります。

↑CAD社の「LID Boss」

 

もちろん良いことばかりではありません。彼らが発明した、波の上を自動で走るボード「Hydrofoil」を使ったプロジェクトでは、ちょっとした試練を味わったとか。

 

「これはCF-12ナイロン素材でできていて、私たちはこれを使ってマーケティング資料の作成に協力していました。私たちの仕事は30日以内に同ボードを3台作成して、ビデオ撮影するというもの。ところが、ビデオクルーが来る前夜に行ったテストで、ボード3台のうちの1台で技術的なトラブルが起きてしまいました。間一髪で大きな事故にならずに済みましたが、コントローラーが足元で吹っ飛んでしまうなど、ひどい事態に。スケジュールがギリギリだったのでハラハラしましたが、徹夜で原因を突きとめて復旧させ、さらに、ほかの2つのボードでも同じ問題の部分を改良して、翌日のビデオ撮影に間に合わせました」と両氏はそのときのことを振り返ります。

 

仕事で遊ぶ感覚

このように、一般的に仕事にはアクシデントが付きもの。真面目に働き過ぎるとストレスも溜まりますが、McCauley氏とHahne氏は創造的な仕事をするために、どのように時間やストレスを管理しているのでしょうか?

 

「実は、LID Boss やHydrofoilのような案件はとても楽しくて、常にワクワクしているので、仕事とは思っておらず、働いている感覚はないのです。その意味で、私たちがしていることは趣味や遊びに近いかもしれません。私たちはデザインや製品開発が好きなので、時間を費やすことは嫌ではありません。幸いなことに、それが仕事になっているということですね」と語る両氏。

 

「ストレスが溜まることも当然ありますが、そんなとき私たちはお互いに顔を見合わせます。そこで大事なのは『何にストレスを感じているのか?』を掘り下げること。ストレスの原因や問題点がわかれば、それを乗り越えていくように心がけています」

 

自分が本当に好きなことを仕事にしたMcCauley氏とHahne氏。ビジネス感覚と“遊び”感覚を混ぜた彼らのスタイルはうらやましい限りですが、創造力は「没入感覚」から生まれるのかもしれません。