モップがけで部屋をきれいにするつもりが、実は自分自身の身体の内側を汚していた……。そんなギョッとする研究結果が最近、発表されました。ある成分を含む洗剤を使う結果、クルマの交通量が多い市街地と同じくらい室内の空気が汚れてしまうとか。一体どういうことでしょうか?

↑汚れた空気に要注意

 

室内空気に関するこれまでの研究では、洗剤の中に人間にとって危険な粒子を生み出すものがあることがわかっていましたが、まだまだ多くのことが明らかにされていません。そこで、アメリカのインディアナ大学、パデュー大学、フランスのリール大学などの共同研究チームは、モップを使った床清掃が室内空気にどんな反応をもたらすのかを調べることにしました。この実験では、家庭用洗剤を使って家の中を12〜14分間モップがけした後、空気中の分子と粒子を90分間観察し、空気のサンプルを採取しました。

 

モップをかけている人が掃除中に超微粒子をどれくらい吸い込んでいるのかを分析したところ、毎分10億から100億もの超微粒子を吸っていることが判明。これは交通量の多い欧米の市街地で吸い込むのと同程度であると言われています。

 

このとき発生したとみられる超微粒子が、「二次有機エアロゾル(SOA)」と呼ばれるもの。大気中に浮かぶ固体もしくは液体の微細な粒子(精選版 日本国語大辞典)は「エアロゾル」と呼ばれ、そのうち粒子の大きさが2.5μm以下のものを「PM2.5」と言います。PM2.5は肺の奥まで届くことから、私たちの健康に悪い影響を与えることが知られていますが、その主成分となるSOAは、主に野外を走るクルマの排気ガスから発生します。しかし今回の研究では、SOAが実は室内でも大量に生じていることがわかりました。

 

そこで、同研究チームは「家庭用洗剤からSOAが発生したのではないか」という仮説を立て、家庭用洗剤を調べることにしました。すると、洗剤の多くに、油汚れを落とすためにレモンのような香りを持つ「リモネン」という成分が含まれていることを突き止めます。リモネンを含んだ洗剤を使って室内をモップがけすると、空気中に放出されたリモネンや、それと似た「モノテルペン」という成分が、自然界に存在するオゾンと相互作用を起こし、結果的に高レベルのSOAが生み出されていたのです。

 

掃除用洗剤は、クリーンでフレッシュな香りがついているものが多いもの。でもそんな香りの成分が、空気中に存在するオゾンと反応してSOAを発生している可能性があったのです。

 

室内空気を清潔に保つためには

では、SOAが発生しないように防ぐ方法はないのでしょうか? 一番に思いつくのが、掃除している間や後に窓を開けて換気を行うこと。しかし同研究チームは、換気について「諸刃の剣」の可能性があると指摘しています。発生するSOAを取り除く効果が期待できますが、屋外から空気中のオゾンをより多く取り込んで、SOAがさらに発生しやすくなる可能性もあるというのです。

 

研究者たちはSOAを予防する方法として、リモネンやモノテルペンが含まれていない洗剤を使用するか、オゾンレベルが低くなる朝や夕方に掃除すること、さらに携帯用のエアフィルターを使用することを挙げています。

 

これまで知られていなかったモップがけのマイナス面を明らかにした本研究は、建物の設計や構造、管理にも影響を与えるかもしれません。

 

【出典】Colleen Marciel F. Rosales, Jinglin Jian, et al. (2022). Chemistry and human exposure implications of secondary organic aerosol production from indoor terpene ozonolysis. Science Advances, 8(8). DOI: 10.1126/sciadv.abj9156