2022年3月初旬、栃木県那須町に祀られていた「九尾の狐」に由来する「殺生石(せっしょうせき)」が割れました。この出来事はSNSを含めメディアを通じて全国で話題になりましたが、実は海外の一部メディアも取り上げていたのです。外国人にとって殺生石にはどんなニュースバリューがあるのでしょうか?

↑世界から注目を集める殺生石(画像は2020年に撮影したもの)

 

まず、九尾の狐と殺生石について簡単に説明しましょう。九尾の狐とは日本や中国などの伝説の1つで、現代では「多くの年を経て、尾が九つにわかれ、変幻自在で人をだますという狐」(広辞苑)とされています。日本では、平安時代後期の鳥羽天皇(在位: 1107-1123年)に寵愛された伝説の女性「玉藻前(たまものまえ)」が九尾の狐の化身で、陰陽師の安倍泰成に見破られて下野国那須野へ逃走し、武将の上総広常と三浦義純に追い詰められた結果、石に姿を変え、毒を発しながら生き物の命を奪い続けたと言い伝えられてきました。この石が殺生石です。

 

一説によれば、中国では九尾の狐の起源は古代王朝、殷の時代(紀元前17世紀頃)まで遡るそうですが、日本で九尾の狐は平安時代中期の法典である『延喜式』(927年)に「神獣」として登場しています。神獣と言われるように、この狐は「古くは、平和な世に出るめでたい獣」(精選版 日本国語大辞典)でした。

 

そんな殺生石が割れたことを、イギリスの高級紙『ガーディアン(The Guardian)』が2022年3月7日に報じたのです。同紙は創刊200年以上を誇る同国の有力紙の1つですが、他国の文化や伝承をニュース面に掲載することはあまり多くありません。殺生石のような歴史や文化、伝説は、他国の国民性を理解するために大切ですが、世界では日本に関する知識を持たない外国人が私たちが想像している以上に多く存在します。筆者は国際メディア戦略を専門としていますが、たとえ日本が世界3位の経済大国であったとしても、日本にまつわる文化や伝承などが海外の有力メディアで記事として取り上げられることは稀と言えます。

 

殺生石の伝説は、芸術的にも高い価値を持っています。殺生石は日本の芸術や文学に長い影響を与えてきました。例えば、俳句の松尾芭蕉や浮世絵師の葛飾北斎、歌川国芳、文学界では滝沢馬琴らが、それぞれの作品でこの伝説を描いています。また、ニューヨークのメトロポリタン美術館には、江戸時代の浮世絵師・屋島岳亭が1835年に制作した『Tamamo no Mae and the Archer Miura Kuranosuke』が保存されており、欧米諸国の一部の人たちは以前からその価値を知っていたと考えられます。

↑屋島岳亭作『Tamamo no Mae and the Archer Miura Kuranosuke』(画像提供/The MET Collection. Gift of Estate of Samuel Isham, 1914)

 

では、殺生石が割れたことにはどんな意味があるのでしょうか?  かつて玄翁が殺生石を杖で一打すると、石は2つに割れて、なかから石の霊が現れて成仏されたそう。また、上述した通り、狐には妖怪としての一面だけでなく神獣としての性格もあります。しかしメディアの観点から見れば、殺生石が割れたことは、世界に向けて日本文化を大きく飛躍させる時期の到来を告げるメッセージである、と読み解けるかもしれません。