2021年秋にスコットランドで開催されたCOP26(第26回気候変動枠組条約締約国会議)を経て、気候変動問題への関心や環境意識がより一層高まっている英国。その首都ロンドンでは、フードマイレージ(食料が生活者に届くまでの輸送距離)をとことんカットした都会育ちの野菜がグルメ界の注目を集めています。

↑ロンドンで話題の「CRATE TO PLATE」

 

英国ではプラスチック包装を使わない量り売りの店が急増し、スーパーやパブ、ファストフード店などあらゆるところでビーガンメニューが見られるようになりました。それと同時に、果物と野菜の7割を輸入に頼っている英国では、フードマイレージをカットすることも大きな課題です。輸入の通関手続きを省くことは、ブレグジット(英国のEU離脱)とパンデミックやウクライナ情勢による急激な物価上昇の抑制にもつながります。そのため、最近では国産の食材に注目が集まっています。

 

2020年の長期ロックダウン中に誕生したスタートアップ企業の「クレート・トゥ・プレート(CRATE TO PLATE)」は、ロンドン市内で貨物コンテナを使った垂直農園を展開しています。都会の隙間を使ったコンテナ農園を各地に設置することで、限られた土地を有効活用でき、地元産の新鮮な野菜を消費者に提供することができるようになります。

 

最初のコンテナ垂直農園ができたエレファント&キャッスル駅前は、現在再開発が進むロンドン南部の中心地。さらに最近では金融街アイルオブドッグズに3か所、そして北部ケンティッシュタウンに2か所と合計6農園に拡大しています。分散型にすることでフードマイレージ「ほぼゼロ」のデリバリー体制を実現しており、2022年はロンドンから飛び出してストラットフォードやマンチェスターといった地方都市へ拡大する計画が進んでいます。

 

最小限の資源で栽培

英語で「Vertical farming(バーティカル・ファーミング)」と呼ばれる垂直農園は、未来の食料供給法としても注目を浴びています。その名前の通り垂直に積み上げた階層構造の室内で、AIによって光・温度・養分などを細かくコントロールされた環境下で農産物を育てることが特徴。

 

従来の農業とは異なり、天候に左右されず、限られたスペースで、農薬を使わずに1年中効率よく栽培できるのが大きなメリットです。水の使用量も非常に少なく、照明などの電源も太陽光や風力といった自然エネルギーで賄うことができ、栽培にかかる資源を最小限に抑えることが可能。

 

このような垂直農園は狭い土地でも作れるため、都市部での食糧生産に向いています。クレート・トゥ・プレートのコンテナ農園も、駅前やビルの間のちょっとした空きスペースに設置されています。人口集中エリアに効率よく農園を設置することで、食品輸送によって発生する排気ガスを大幅にカットできるのです。

↑ロンドンのグルメ界でも注目を集める食材に

 

米国でも2022年1月に、チェーンストア最大手のウォルマートが国内スタートアップ企業と提携し、この手法で生産された野菜を広く取り扱うと発表しています。

 

クレート・トゥ・プレート社の野菜はレタスやバジルなどの葉野菜やハーブが中心で、収穫後24時間以内にEV車や自転車によって注文先に届けられます。

 

すでに老舗ラグジュアリー百貨店の「フォートナム&メイソン」やミシュラン星レストランの「ハイド」、チェルシーの高級八百屋「アンドレアス」など、多くの高感度ショップへの卸売りが行われています。新鮮かつサステナブル、そして配達方法もエコな無農薬野菜というアイデアは、パンデミック規制解除で活気を得たロンドン市民の関心を集めているようです。

 

大手スーパーマーケットからの問い合わせも相次いでおり、宅配サービスを利用する個人のサブスクリプション契約も人気です。

 

エコフード都市へ 

もともと英国ではスローライフを楽しむためのレンタル菜園や、室内でフレッシュなハーブが育てられる家庭用の水耕ハーブガーデンが人気でした。そこにクレート・トゥ・プレートのような商業用・マス向けのローカル農園が増えることで、自然エネルギーはもちろんのこと、都市部で生じる排熱や雨水、食料廃棄物を分解した肥料などを活用し循環させる「エコフード都市」の実現も夢ではないでしょう。

 

現在の英国では貨物コンテナを店舗やオフィス、研究所として利用することがトレンドになっていて、オフィス賃貸価格が高いロンドンでスモールビジネスが成長する足がかりとしての役割も担っています。将来的にはそこに住む人たち全体の食料を生産できる、垂直農園付きの集合住宅も登場してくるかもしれません。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ