廃棄物や副産物などに新たな付加価値を付け、商品として販売するアップサイクル。これまでアパレル関係などで注目されてきましたが、食品業界でもその動きが活発になっています。食品のサブスクリプションサービスを展開するオイシックス・ラ・大地株式会社は、チョーヤ梅酒株式会社とのコラボで、商品化されなかった梅酒の梅果実をドライフルーツに生まれ変わらせました。

 

食に関する社会課題をビジネスの力で解決

まだ食べられるのに捨てられてしまう食品、いわゆる「フードロス」の量は、令和2年度で年間522トン。うち53%の275トンが事業系フードロスです(農林水産省・環境省推計)。この課題に対して、「“これからの食卓、これからの畑”という企業理念を明示し、食に関する社会課題をビジネスの力で解決することに取り組んできました」と話すのは、オイシックス・ラ・大地の三輪千晴さん。同社は2020年11月に「グリーンシフト施策」を定め、食に関わる社会課題に向き合っています。

 

「そもそも当社のビジネスモデルは、お客様からの注文を受けてから商品をお届けするサブスクリプションのため、一般的な小売業と比較してもフードロスは少なく、食品廃棄率は約0.2%です。主力商品のミールキット『Kit Oisix』も、使用分だけ食材をカットしてお客様にお届けしているので、ご家庭でのフードロス削減にもつながっています。また、コロナ禍で学校が休校になった時、給食の停止にともない余剰となった牛乳が問題視されましたが、その際は、キャンペーンを組むなど生産者支援に積極的に取り組みました。こうした土壌がある中で、社会やお客様のサステナビリティへの意識の高まりを受け、経営戦略に落とし込んだのが『グリーンシフト施策』です」

↑オイシックス・ラ・大地株式会社 経営企画本部 グリーン戦略室 Upcycle by Oisix ブランドマネージャー 三輪千晴さん

 

「本施策は、農業生産でのグリーン化の推進、配送車のグリーンエネルギー実証実験の開始、商品パッケージのさらなるグリーン化、フードロス削減の取り組みの強化、そしてフードロスを価値に変えるという5本柱から成り立っています。その中でとくに力を入れているのがフードロス削減です」

 

フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」を展開

同社が注力しているというフードロス削減。その一環として、これまで製造過程で廃棄されてきた原料をアップサイクル商品として販売する、フードロス解決型ブランド「Upcycle by Oisix」を、2021年7月に立ち上げました。例えば、冷凍ブロッコリーのカット工場で出る茎を活用した商品「ここもおいしく ブロッコリーの茎チップス」や、大根の漬物工場で廃棄されていた大根の皮を使用した商品「ここもおいしく だいこんの皮チップス」など、畑や加工工場から出た廃棄食材を活用し、アップサイクル商品を開発、販売しています。

↑アップサイクル商品を展開する「Upcycle by Oisix」。ネット販売のほか、ナチュラルローソンなど一部店舗でも販売している

 

「やむを得ず出てしまう未活用の食材を目の当たりにし、フードロスは自社だけでなく、食品業界全体の社会課題だと強く認識していました。フードロス削減のためには、産地や加工メーカーの方たちと手を取り合いながら新しい商品を生む必要があり、強いてはそれがお客様の意識変容にもつながると考えたのです。そこで、環境負荷が低く、新しい価値を加えたアップサイクル商品事業をスタートしました。立ち上げ時は、当社と取り引きのある方たちと展開していたのですが、食のアップサイクルの世界観を広げられることへの期待感と、お客様へ与えるインパクトを考え、今年の1月、チョーヤ梅酒様と共同開発し、アップサイクル商品『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』を開発したのです」

↑チョーヤ梅酒との共同開発による商品「梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ」。香料、酸味料未使用で、梅本来の味を楽しめる

 

「チョーヤ梅酒様は、梅酒に漬けた梅を製品に入れたり、実だけを販売をしていますが、製品化できなかった余剰の梅は、家畜の飼料や農業の肥料として使用していました。その余剰の梅を当社が買い取り、梅の産地で生産者が自らドライフルーツに加工することを提案。今回、他社との協業ははじめてでしたが、事業化することで、産地での新たな雇用の創出と、フードロス削減を同時に叶えることができました」

 

廃棄食材だからこその商品化の難しさも

本来は食品として使用し(でき)ないものも多いため、商品化には苦労も多いそうです。

 

「共同開発する企業様の協力は不可欠です。例えば、これまでは廃棄物なので衛生面を気にする必要はありませんでしたが、食材となると話は別。衛生面をケアした上で輸送していただかなければなりません。また今回の場合、梅の実に染み込んでいるアルコールをどう飛ばすか、種をどうやって取るか、どんな加工を施せば美味しい商品になるのか、乾燥させるための温度や時間をどうするかなど、いろいろ試しながら商品化しています。その間、チョーヤ梅酒様にもサポートいただきました。『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』に限らずアップサイクル商品は、廃棄されていた食材を活用するため、味や食感の面など、通常の食材を加工するよりも難しさがあります。食材ごとに課題があり、それを1つずつ解決しながら、どうすれば美味しくなるか、企画開発しているのです」

 

2月には早くも共同開発第2弾として、飲食チェーン「PRONTO」を展開する株式会社プロントコーポレーションとコラボレーション。「PRONTO」の店舗で出る抽出後のコーヒー豆かす(コーヒーグラウンズ)を活用し、「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」「コーヒーから生まれた チョコあられ」を販売しました。

↑「コーヒーから生まれた 黒糖あられ」(左)と、「コーヒーから生まれた チョコあられ」。コーヒーグラウンズには食物繊維が含まれていて、健康志向の人にも好評だとか

 

「アップサイクル商品は、未活用食材が原料ということで、お客様に受け入れられるかどうか、正直、不安もありました。しかし、『梅酒から生まれた しっとりドライフルーツ』にしても、『コーヒーから生まれた チョコあられ』にしても、お客様に味を評価され、反響も上々。通常の商品と比べて全ての面で遜色なく、それどころか“地球に優しい”“サステナブル”というプラスアルファの要素があるため、リピーターも増えています。

 

確かに、当社の商品を食べることで削減できるフードロスの量は大したことないかもしれません。ですが、アップサイクル商品の存在を知ったり、食べたりすることで、普段の生活でもなるべくフードロスを出さなくするなど、お客様の意識の変化こそが重要だと考えます。アンケートを見ても、お客様の意識の高まりを実感できますし、それだけでも意義のある取り組みだと思います」

 

80トンのフードロス削減を達成

現在、「Upcycle by Oisix」で誰でもご購入できるようにオンライン販売しているのは12~13商品ですが、2021年7月の立ち上げからこれまでに66商品が開発されました(2023年3月末現在)。それにより、約80トンのフードロス削減を達成したそうです。

 

「次の協業はまだ検討中ですが、多くの企業や自治体から、相談や問い合わせが来ています。今後も、自社だけでなく、製造業や小売業とのコラボにより、新しい食の楽しみや、気付きを与えられる商品を展開していく予定です。その際は、例えばチョーヤ梅酒様なら梅酒、プロント様ならコーヒーというように、協業先企業様の強みと当社の商品開発力・販売発信力を活かしてこそ、協業する意味があると考えています。強みをどう活かすかという難しさはありますが、この輪を広げ、少しでも社会課題解決につなげたい――。そしてお客様についても、アップサイクルという言葉が珍しくない世界を作っていきたいです」

 

見栄えや食感の悪さなどの理由で捨てられていた食材に、新たな価値を加えたアップサイクル商品。同社の取り組みは、フードロスへの意識変容のきっかけになることはもちろん、次にどんな商品が登場するのか、そんな楽しみも感じさせてくれます。