厚みのある物体を簡単に出力できる3Dプリンターは、家や車の部品、体の一部などを作り出すことが可能で、日常生活だけでなく軍事分野でも大きな可能性を持っています。「オランダ海軍は保有する船舶全てを3Dスキャンする」というニュースが報じられる一方、「アメリカ海兵隊には、空前の3Dプリンターブームが訪れている」という記事が、アメリカの国防に関するニュースを取り上げるメディアのBREAKING DEFENSEに掲載されています。

Marines’ Love Affair With 3D Printing: Small Is Cheap, & Beautiful « Breaking Defense - Defense industry news, analysis and commentary
https://breakingdefense.com/2018/03/marines-love-affair-with-3d-printing-small-is-cheap-beautiful/

「ほとんどの恋と同じように、海兵隊と3Dプリンターのロマンスも、『2セントのプラスチック製ボタン』という小さな部品から始まった」とBREAKING DEFENSEは述べており、3Dプリンターに関する海兵隊の興味は、ヘリコプターの搭乗員が装着するインカムのボタンからスタートしたことを伝えています。ヘリコプターの搭乗員は、インカムの操作時にボタンを強く押す傾向があり、インカムのボタンはよく壊れるとのこと。ところが、海兵隊の総司令官ロバート・ネラー将軍によると、「ヘリコプターのインターコムが壊れた場合、ボタンだけの修復をペンタゴンと取引のあるメーカーが行っていないため、インカム全体を交換しなければならない」そうで、インカムの交換には1万1000ドル(約120万円)を要します。

ネラー将軍は最近、3Dプリンターで壊れたインカムのボタンを印刷した下士官と面会したそうです。インカムは3Dプリンターで印刷すれば、わずか2セント(約2円)で調達できるのですが、唯一の障害となるのが「3Dプリンターで作った部品を軍の飛行機に持ち込むことが許されていない」という点でした。ネラー将軍はペンタゴンに掛け合い、3Dプリンター製ボタンの持ち込みを許可するように要請したとのこと。

ネラー将軍の部下であるグレン・ウォルター将軍も、3Dプリンターに魅了されている一人です。ウォルター将軍は3Dプリンターの素晴らしさを説くために、海兵隊の戦車隊が所有するM1エイブラムス戦車6台のエアフィルターが故障した際のエピソードを話しました。ペンタゴンが運用してきた通常のシステムでM1エイブラムスのエアフィルターを交換すると、1台当たり1400ドル(約15万円)の費用と18カ月もの期間を要するそうです。ところが、海兵兵站軍のメンテナンス部隊の女性軍曹は「3Dプリンターの業者に依頼すれば、1台当たりわずか300ドル(約3万2000円)の費用で、たった7日で供給できる」として、補給計画を主導しました。ウォルター将軍は「私にはエンジニアとしてのバックグランドがあるが、21歳や22歳の若者のほうが私よりはるかに進んだ知識を持っています」と述べ、若い海兵隊員が考えるアイデアを注視しています。

ネラー将軍も「若い海兵隊員は非常に賢い頭脳といいアイデアを持っている」と評しており、海兵隊が注力する「イノベーション・チャレンジ」という若手海兵隊の育成プログラムでも、多くの斬新な発想が見られたとしています。イノベーション・チャレンジでは、海兵隊員だけでなくロボット工学やエネルギー学を専攻する大学生たちとも協力し、より海兵隊の運用を合理的にするイノベーションを生み出そうとしているとのこと。

3Dプリンターはイノベーション・チャレンジに配置されただけでなく、各ユニットへの配備も進められており、ウォルター将軍によると海兵隊全体で69台もの3Dプリンターが配備済みとのこと。ネラー将軍はペンタゴンに軍事製品を納入している国防工業協会のメンバーに対し、「3Dプリンターは部品に必要な分だけ樹脂があればOKで、大きな金属板から削り出すよりも効率的だ」として、軍事製品の製造業者に対しても3Dプリンター導入を検討するように働きかけています。

「3Dプリントに必要なデータは全てハードディスクの中にそろっていて、3Dデータを提供する準備もしています」とネラー将軍は述べており、3Dプリンターを部品供給システムに組み込むことを強力に主張しているようです。

ネラー将軍もウォルター将軍も、海兵隊のユニットが3Dプリンターを所持し、日常的に細々とした交換部品や小型機器をプリントすることを想定しています。ネラー将軍が全てのライフル部隊に配備している小型ドローンに関しても、非常に多くの消耗品を必要とするため、部品の安定供給に3Dプリンターが活躍するのではないかと考えているとのこと。

もちろん、3Dプリンターを全ての部品に適用することは不可能で、特に航空機の金属部品は安全性が高く保証された金属でないと難しく、3Dプリンターで扱える樹脂で代替することはできません。また、3Dプリンターで作った部品同士を組み合わせて1つの製品を完成させることも、必ずしもうまくいくとは限らないとのこと。しかし、海兵隊において3Dプリンターが活躍する大きな可能性があるということは、間違いありません。

「なぜ海兵隊では、これほどまでに3Dプリンターという新しい技術の移入に熱心なのか?」という理由として、BREAKING DEFENSEは海兵隊の文化が関係していると述べています。海兵隊は非常に小さい組織であり、個々の人員が自分の裁量でイノベーションを図ることを受け入れやすい風土があるとのこと。海兵隊は長期間にわたって小規模な単位で世界各地に分散して活動するため、自分たちの裁量でより合理的に、より効率的に動けるように考える海兵隊員が多いのです。BREAKING DEFENSEは海兵隊以外のアメリカ軍組織においても、各ユニットの分散的な運用が行われるようになれば、3Dプリンターに夢中になる可能性があると報じています。