ポーランドとロシアの間に位置する国ベラルーシには「スターリン・ライン」と呼ばれる軍事博物館があります。このスターリン・ラインで展示されている戦車の多くがレプリカではなくなんと本物で、第二次世界大戦時に激戦地となった周辺の沼地から拾い上げてレストアしたものです。泥沼に沈んでいた戦車を回収し、実際に動かして弾を撃つことも可能な状態にまで修復する「戦車ハンター」が、BBCで紹介されています。

BBC - Future - The salvagers who raise World War Two tanks from the dead
http://www.bbc.com/future/story/20180312-the-salvagers-who-raise-world-war-two-tanks-from-the-dead

20年前から戦車を沼から引き上げては回収し、修理しているウラジーミル・ヤクシェフさんはスターリン・ラインの主任修理技師を務めています。息子のアレクセイさん・マキシムさんも同じくスターリン・ラインの修理工場で働いているとのこと。自宅からスターリン・ラインまでおよそ270kmも離れているため、ヤクシェフ一家は修理工場で9日間寝泊まりして働き、その後自宅に帰って5日間過ごすというローテーションで生活しているそうです。ヤクシェフ一家は戦車を回収してレストアする「戦車ハンター」を仕事としています

ベラルーシにはヤクシェフ一家以外にも戦車ハンターはいますが、失われた戦車を探してレストアできる技術を持ち、さらに大統領が発行する軍用機捜索と修復の許可証を与えられているのは、ヤクシェフさん一家とその仕事仲間であるアレクサンドル・ミカルツキさん、そして戦車の回収・レストアを行うアマチュア団体「ポイスク」のみです。

ウラジーミルさんがこのスターリン・ラインで働き始めたのは今から9年前のことで、それ以前はポイスクで活動していたとのこと。ポイスクに所属していた時は趣味だったのでほとんど給料は出なかったそうですが、今は趣味が仕事に変わり、ウラジーミルさんも公務員として固定給をもらって生活しています。

回収される戦車は主に沼地から引き上げられます。BT-7やKV-1のようなソヴィエト連邦の車両もあれば、38(t)戦車やIII号突撃砲のようにドイツの車両が引き上げられることもあります。戦車を探す前に、周辺住民から目撃情報の収集を念入りに行い、沼地を歩き回ります。泥沼を歩く時には化学防護服を着用し、8メートルもある特注の探査器で沼の中を探ります。

捜索に何日もかかる時は車で寝泊まりするそうですが、冬は特に厳しい寒さでなんとマイナス33度に達したこともあるとのこと。一方で、夏はとにかく虫が沸くために、どんなに熱くても厚手の長袖ジャケットと長ズボンの着用は欠かせないようで、環境はかなり劣悪な様子。

戦車が見つかると、不発弾が爆発しないように内務省の役人が弾薬を回収し、さらに戦車が沈んでいる沼を排水します。周辺には地雷が埋められている可能性もあるため、地雷も全て排除します。ウラジーミルさんは地雷や不発弾の暴発をよけるおまじないとして、毎回近くにある木を3回ノックするとのこと。戦車は鉄製の網にひっかけられて、修理工場までトラックでけん引されます。

一例として、以下のKV-1は2015年11月にベラルーシのセンノという町の近くで引き上げられました。このKV-1は1941年7月のスモレンスクの戦いで退却する際に湿地へはまってしまった一台とのことで、47トンという重さで湿地を抜け出すことができず、やむを得ず爆破されたにも関わらず形をとどめていたもの。砲塔の側面には乗組員の名前がペイントされています。

なお、こうした戦車の中には、チョコレート・ヘアブラシ・双眼鏡・靴下など、戦車に乗っていた兵士の持ち物もそのまま残っていることも多いそう。ミカルツキさんは引き上げたドイツ戦車の中から出てきたチョコレートを食べたこともあるとのこと。

戦車を修理するのは、戦車を持ち上げるよりもずっと時間がかかります。例えばKV-1は修復するために5カ月必要だったとのこと。なぜなら軍用車両は作られた年や工場によって部品や設計が違うことも多く、特にソ連の戦車は専門工ではなく徴用された子どもによって組み立てられたものもあり、仕組みやパーツの精度がバラバラだからです。幼い頃から機械工として訓練していたウラジーミルさんは回収された戦車を修理する方法を知る唯一の人物で、色んな車両からパーツを調達したり、一から作るなどして修理します。

こうして修理された戦車はスターリン・ラインで展示されます。実際に動き、弾を撃てるまでにレストアされているので、その一部はパレードや映画の撮影などにも使われ、PCゲームの「World of Tanks」で使われている戦車の音にはウラジーミルさんが修理した戦車で録音されたものもあるとのこと。

スターリン・ラインでは年に15回ほど、第二次世界大戦の戦争を再現するイベントが開催されています。そのため、以前はソ連軍のものを主に修理していたそうですが、今ではドイツ軍の車両も修理するとのこと。もちろんイベントではソ連軍のKV-1が、ドイツ軍のIII号戦車や38(t)戦車を撃破する内容となっていますが、ウラジーミルさんやミカルツキさんは複雑な気持ちを抱くそうで、「ドイツ軍の戦車でも私たちのお気に入りです。ドイツ戦車を修理するのは幸せで、修理が終わったドイツ戦車が工場を離れると思わず涙がこぼれます」と語っています。