地上約600km上空を周回するハッブル宇宙望遠鏡は、地上からでは困難な精度の天体観測が可能な「宇宙の天文台」ともいえる設備です。そんなハッブル宇宙望遠鏡の姿勢を制御するために使われているジャイロスコープが故障したため、「ハッブル宇宙望遠鏡がスリープモードに突入してしまった」と報じられています。

Hubble Space Telescope in ‘Sleep Mode’ After Gyroscope Failure - Motherboard
https://motherboard.vice.com/en_us/article/mbdxxb/hubble-space-telescope-in-sleep-mode-after-gyro-failure

ハッブル宇宙望遠鏡はジャイロスコープを利用することにより、地球の上空600kmの軌道を周回しつつ姿勢を維持しています。搭載されている6個のジャイロスコープはそれぞれ長さ6インチ(約15cm)で、重さは約6ポンド(約2.7kg)。ジャイロスコープの内部では1分間に1万9000回ものスピードでガス動力のホイールが回転しており、ハッブル宇宙望遠鏡はジャイロスコープの軸に沿って位置を補正しているとのこと。

ジャイロスコープは、広大な宇宙の領域のある一点に長時間焦点を合わせ続け、天体を撮影するハッブル宇宙望遠鏡にとって欠かせないものです。もしもジャイロスコープがなければ、ハッブル宇宙望遠鏡は長時間同じ場所に焦点を当て続けるための姿勢制御ができず、長時間露光でわずかな光をとらえてきれいな写真を撮影することができません。

そんなハッブル宇宙望遠鏡のジャイロスコープのうちの1個が、2018年10月6日(土)に故障してしまいました。ハッブル宇宙望遠鏡の副ミッションディレクターであるレイチェル・オステン氏は、「非常にストレスの多い週末になってしまった」と述べ、壊れたジャイロスコープの対処が行われるまではハッブル宇宙望遠鏡がセーフモードになっていることを明らかにしています。
It’s true. Very stressful weekend. Right now HST is in safe mode while we figure out what to do. Another gyro failed. First step is try to bring back the last gyro, which had been off, and is being problematic.— Dr. Rachel Osten (@rachelosten) 2018年10月8日

ハッブル宇宙望遠鏡は常に6個全てのジャイロスコープを使用していたわけではなく、故障発生時には6個のジャイロスコープのうち4個が作動していたとのこと。欧州宇宙機関(ESA)によると、ハッブル宇宙望遠鏡が最適効率を達成するためには、6個のジャイロスコープのうち少なくとも3個が動作している必要があるそうです。

オステン氏らハッブル宇宙望遠鏡のスタッフはジャイロスコープの復旧作業を休むことなく続けていますが、たとえジャイロスコープが復旧できなかったとしても、それでハッブル宇宙望遠鏡が使用できなくなるわけではありません。ハッブル宇宙望遠鏡はたった1個のジャイロスコープでも動作するようにあらかじめ設計されており、ジャイロスコープの不足は望遠鏡が観測できる宇宙の領域を制限するに過ぎないとのこと。

事実、1990年に打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡は、2005年から2009年までの間、2個のジャイロスコープのみで制御されていました。そして同期間中、完全にハッブル宇宙望遠鏡が停止することがないように、2個のジャイロスコープは予備として保持されていたとのこと。2009年には、国際宇宙ステーションの宇宙飛行士がジャイロスコープの交換作業を行ったため、再び3個のジャイロスコープでハッブル宇宙望遠鏡を制御し、残りの3個を予備として保持するようになりました。


オステン氏は今回のジャイロスコープの故障について、「ジャイロスコープの故障は2018年の春から予想されていたことであり、こちらの予測よりも6カ月以上長く動作し続けました」とツイートしており、ハッブル宇宙望遠鏡が本当に危険な状態にあるわけではないと語っています。

もしもジャイロスコープの修理がうまく行かなかった場合、オステン氏は1個のジャイロスコープでハッブル宇宙望遠鏡を制御すると検討しています。ジャイロスコープが1個の状態と2個の状態ではそれほど大きな差がないそうで、「1個のジャイロスコープしか使用していない状態であっても、世界中の天文学者がハッブル宇宙望遠鏡の使用を求めてくるでしょう」と語りました。

Photo by Marc Van Norden