規格外の熱さとバトルがギッシリと詰め込まれた映画『プロメア』を無事完成させ世に送り出した監督・今石洋之さんと脚本・中島かずきさんに、完成しての率直な感想や、完成までの苦労などについて話をうかがってきました。

お二人には2019年2月にもインタビューをしているので、読み比べると「あれは、こういうことだったのか」と見えてくるものもあります。

「求めている快楽」が近くシンクロ率の高い今石洋之監督&中島かずきさんにオリジナル新作劇場アニメ「プロメア」についてインタビュー - GIGAZINE

GIGAZINE(以下、G):
今石監督と中島さんに以前お話を伺ったのは、まだ『プロメア』の制作が佳境に入る前でした。こうして作品は無事完成しましたが、それを見た印象はいかがでしたか?

監督・今石洋之さん(以下:今石):
僕は現場でギリギリまでやっていたので、なかなかまだ客観視しきれていなくて……。

G:
まだ作業の延長線上にいるかのような?

今石:
そうですね、自分が何をしたのか、本当の意味では客観視できなくて。やりたいことはいろいろ達成できて「よし」という手応えもありますけれど、この作品がいったい何ものなのかというのはまだわからない……(笑)

G:
そういう気分は、作品を作り終えてからどれぐらい経つと抜けて、客観視できるようになるものなのですか?

今石:
僕がこれまで作ってきたのはTVシリーズだったので、反芻する時間が合ったんです。オンエアされて、お客さんの反応があって、また次の話、というサイクルの繰り返しで最終回まで行くので。

脚本・中島かずきさん(以下、中島):
制作からオンエアまでにも時間があるしね。

今石:
そうなんです。でも、映画はTVシリーズでいうと第1話と最終回を同時に見せている感じで、第1話を見せて「どうですか?」というのと同時に最終回を見せて「どうですか?」と聞いているようなものですから、そのあたり、まだ自分は映画慣れしていなくて(笑) この感触は今後生かされるかなと思っています。

G:
演劇はまさに第1話と最終回を同時に見せるようなものなので、中島さんはこういった経験は豊富だと思いますが、いかがでしたか?

中島:
これはもう「今石さん、すげぇなあ!」です。Aパートが7割ぐらい完成したときに見せてもらったのですが「すっげえや!!」と思いました。こんなものになるとは思っていなかったんです。

G:
(笑) 書いている時点ではこうではなかった?

中島:
書いているときはもっと普通で、こんなにイカれているとは思わなくて「さすが今石洋之!」(笑) 僕の中のイメージでは、サンダーバードみたいな国際救助隊が火事に駆けつけて、プロフェッショナルたちが救助にあたるというシーンを書いているというつもりだったんです。それが、なんだかわからない人たちがなんだかわからないことをやっているというシーンに化けていて、「とにかくすごいことをやっている!」

今石:
(笑)

G:
(笑) おおもとはサンダーバード的なイメージだったんですね。

中島:
今石さんからこういうデザインにするということは知らされていて、絵コンテも見せてもらっていたんですけれど、特に導入部の情報の見せ方・省き方ですよね。だいたいわかるけれどもすごくスタイリッシュに、クールに省いている。今石洋之がクールでスタイリッシュということに、まず驚きました。

今石:
(笑)

中島:
アバンまでは「クールでスタイリッシュな今石洋之がここにいるぞ!」ですよ。「こんな今石洋之、初めて見た」っていう。それがAパートに入ると「あ!いつものマッドでクレイジーな今石洋之だ!」となって、しかもパステルカラー!「パステルでごまかそうとしているかもしれないけれど、俺はだまされないぞ!」って(笑)

G:
今石監督としては、アバンはクールでスタイリッシュに見せようという狙いの通りにできたという感じでしょうか。

今石:
言ってしまうと幼稚ですけれど、映画っぽくしたかった(笑)

中島:
そんなこと言ったら身も蓋もなくなっちゃうじゃん!(笑)

今石:
本編は誇張された世界観ですが、自分たちと地続きのところにあるお話なのだというシリアスな感じを出したかったんです。最初は、これはひょっとしたら人が本当に死んでいるのでは?と思わせるぐらいのものにしておいて、本編に入ると荒唐無稽なマシンとかが出てくる。でも、シリアスな恐怖があった上での対応であるということをしっかり絵で見せるという。

中島:
まさにそこで「今の映画にしよう」という意志をすごく感じました。「うわ、すっげえ!今石さん、映画監督みたいだ」って。

今石:
まるで映画監督(笑)

G:
本作にクリエイティブディレクターとして参加しているTRIGGERの若林広海さんにお話をうかがったところ、今の『プロメア」の形になる前は、リオが主人公だったことがあると。

中島:
そうです。『ヒックとドラゴン』みたいなジュブナイルのお話がやりたくて、主人公をリオにして、レスキューでもバーニッシュでもない普通の少年が成長していくということを考えていて、しばらく進めていました。ガロが、バカで燃えやすいバーニッシュのリーダーだったんです。でもジュブナイルでは行き詰まってしまって、考えていたら、「のっけからアクションシーンが出てくるような映画にしたい」ということを今石さんが言語化してくれて。

今石:
わざと黙っていたわけではなくて、自分でも「本当にやりたいのは何なのか」と悩んでいて。ジュブナイルでもできるけれど、もう一歩なにかあるのではないかと考えたんです。

中島:
そこがなかなかかみ合わず、「ジュブナイルじゃダメなの?」みたいな話を続けてたんです。それで「どうすればいいんだ……」と行き詰まって、とりあえずメシにしようと。TRIGGERの近くにあるヴィレッジヴァンガードダイナーでハンバーガーを食っているときに「だったらもう、ハナからジュブナイルは諦めて、ガチンコのぶつかり合いにしたらいいんじゃない?」という話になりました。それまでは「ジュブナイルにしよう、手癖は封印しよう」と思っていたんだけれど「手癖解禁でいいんじゃね?自分たちの得意なことを並べる形でやろう」って。

G:
なるほど、そこで解禁に。

中島:
だったら年齢層も上げて、ガロを消防士にして、リオはバーニッシュにして、ハナからぶつかり合うのがいい。オープニングアクションのイメージ自体はだいたい同じだったんだけれど、当初、主人公は参加していなかったんです。それが今石さんは気持ち悪かったみたいで「主人公を置きたい」と。そこから流れがだーっと見えてきて、心情も繋がって、一気にクライマックスまでイメージができて、店の紙ナプキンにだーっとメモったんです。結局、「ハンバーガーはハンバーガーだ。俺たちは頑張ってライスバーガーを作ろうとしていたけれど、ライスバーガーを作る必要はない!パンと、ハンバーグと、あとちょっとしたレタスとトマトでなんとかすればいいんだ!」と。

今石:
ケチャップとマスタードでええやん、って(笑)

G:
そうやって作品が組み上がっていったわけですが、今石監督が実際に作業を進めていく中で苦労した点はどういったところでしたか?

今石:
わかってはいたことなんですけれど、色トレス大変だな、と……(笑) デザイナーのコヤマさんと「これはやるべきだ!」とやったことなんですが、いざやってみたら、2人で「線が黒一色って、大事なことなんだな」と、当たり前のことに気付かされました。

中島:
でも、映画だからできたことだし、見ると新しいよね。

今石:
苦労した甲斐は画面に出ているので後悔はしていませんが、大変でした。手間が通常の3倍かかりますから。

G:
3倍!

中島:
黒で描けないから大変ですよね。僕がア行・カ行・サ行と行ごとに書くペンを変えるようなものですから、いちいちア行は赤、カ行は緑と持ち替えて書くようなものだから、そりゃ3倍かかりますよ。

G:
今回、キャストについては松山ケンイチさん、早乙女太一さん、堺雅人さんと劇団☆新感線経験者が中心になり、経験豊富な声優陣が脇を固める構成となっています。松山さんたちの起用は中島さんの要望がそのまま通った形ということですが、これはキャストを考えていく中で「それなら新感線経験者を」という提案だったのでしょうか。

中島:
「これでいけたらいいな」ということで、どうせなら新感線経験者で固めたいなと考えました。書いているときに、「これ、いつも松山君に書いているような役だな」「これは早乙女君に書いているような役だな」と感じていました。クレイについても「堺君がやったら面白いんじゃないかな」と思っていました。当て書きというわけではないんです。それで、キャストについて聞かれたときに「松山ケンイチ、早乙女太一、堺雅人でやれたら嬉しいです」と言ったらその通りになって「やったー!」です。

G:
大塚さんに話を伺った際、声の演技を受けて、作画陣が「負けないものを!」と奮起するという話が出たのですが、今石監督はそういったスタッフの動きをどう制御しているのですか?

今石:
特には止めないで、「どんどんやってください」です。

中島:
「納期日だけ守って」だよね。

G:
ラッシュチェックを取材した際、ガロが吹っ飛ばされるシーンで「目がぐるぐる」表現になっていたのを「こう来たか」と見つけて修正するという場面がありました。はたから見ていると本当に一瞬で、監督がTVPaintでそのシーンを開いて初めて「確かにぐるぐるになってる!」と気付いたのですが、あんな一瞬でも気付くものなのですか?

今石:
あれは、そこまで何度かのチェックでは普通の絵で、それを覚えていたので「急に目で遊んできたな」とわかったんです。

中島:
それはアニメーターが遊んできたの?

今石:
3Dアニメーターが仕込んできたんです。3Dと作画ではチェック工程が違って、3Dは「後からは変更がきかないので、最初に固めてください」という話だったので固めたつもりだったのですが、向こうが遊んできたので「まだいけるんだな」と思いました(笑)

G:
それで、みんな「おおっ!?」みたいな反応だったんですね。

今石:
作画だと「上がってみたら違うものだったか」ということもあるんですが、3Dだと珍しいことなので、みんなが反応したという感じです。

G:
『プロメア』が無事完成してみて、もし過去の自分に伝えられることがあるとすれば、どういったことですか?

今石:
「コンテを早く上げろ」。

中島:
それは常に言えることだよね(笑)

G:
(笑) コンテ作業で大変だった部分はどういったところですか?

今石:
3Dを使った映画にするということで、今回、アクションシーンについてはほぼブレーキを踏まず、アクセルしか踏んでいないんです。TVアニメだと「2Dじゃ背景動画が描けないから、描けるようなヤツにしよう」と計算していたところでも「今回は計算しなくていいぞ」と、たがが外れています。でも、単にたがが外れただけでは見にくくなってしまうので、見やすい映画にしたいとも考えて、それをすれすれに収めるべくどこで冷静さを戻すかということが難しくて。何がOKで何がNGなのか、僕1人しか判断できず、他のスタッフはわからないというところが、大変っちゃ大変でしたね。

G:
映画だからこその大変さ。

今石:
映画だし単発なので、みんな上がりを知らないんですよ。

中島:
そうか!

今石:
TVシリーズなら、第1話を見れば「なるほど、こういう感じにすればいいのか」というのを分かってもらえるんですが、肝心の第1話を誰も見ていない状態なので「これ、どういうアニメなの?」「わからない」と言いつつみんな一生懸命やってくれて。

中島:
今石さんの頭の中にしかないわけだから。

今石:
ああしてこうして、というのは僕の頭の中にだけあって、判断できるのも僕だけなので、そこが大変ですね。

G:
なるほど……そういった中だとプレッシャーというのは相当にあるものですか?

今石:
プレッシャーは……そこ、鈍感にしていかないと生きていけないんですよ。

中島:
そうそう!

今石:
敏感になろうと思えばなれるんですけど、そのスイッチだけは入れないようにしないと、ものを作れなくなるので。監督が何もしなければ、一番早く納品できるんですよ。人から上がってきたものに「違う」って直しを入れて、コンテを遅らせて、設定を遅らせて……邪魔しかしてないんですよ(笑)

中島:
映画って、監督がいなかったら簡単にできるんだ!

今石:
できるけれど、面白くはないと思いますよ(笑)

中島:
納品に特化しちゃって(笑) でも、その「鈍感さ」ってわかります。というのは、新感線って毎回新作で勝負しているじゃないですか。10万人動員で、「1回の芝居で10億」なんですよ。「10億のプロジェクト、俺が書けないとつぶれるよね」というプレッシャーを考えたことが、ない!

(一同笑)

G:
もう、考えない(笑)

中島:
考えたことがない(笑) 俺は200人から300人ぐらいのミュージアムスクエアで「いのうえ〜、こんな面白いのどう?」ってやってる感覚でやり続けているから、たぶん逃げないんだろうね。真面目に考えたら怖くてできないなと思うことがあります。きっと、同じ感じですよね。

今石:
多分そうです。無邪気さが失われて、「楽しそう」より「やばい、しんどい」しか表現できなくなる。

中島:
『プロメア」にしたって、こんな感じで映画祭みたいな取材になるなんて……「知らないよ、俺」って(笑) 俺が本を書いたときには、こんなつもりじゃなかった(笑)

今石:
公開は5館ぐらいで(笑)

中島:
取材も、全部TRIGGERの控え室で受けるような(笑)

G:
制作はいろいろ大変だったかと思いますが、修羅場を乗り切るために何か心がけていることなどはありますか?

今石:
逆に、冷静にならない方がいいです。「俺、何やっているんだろう?」って思ったら負けで、そうならないように持っていかないと。「それは本当に必要ですか?」と考え始めると、そもそもアニメは人生に必要ないということになってしまう(笑) どうやったらやりたいことを変えずに間に合うか、どうやればクオリティが下がらないかに特化していく。すると、その瞬間が気持ちいいというのもあります。あらゆるものが作品納品に優先されるという。

G:
おおー。

今石:
つまり「学園祭前夜の気分」なんです(笑) この業界には、それが好きでやっているという人はいると思います。帰らないでやったらあと3カット救えたのに、そうしなかったために納得がいかない3カットを残して公開されるのと、どっちがいいか。やらなければいけないときにはやるという、そういう究極の選択を毎日しているような感じです。

中島:
僕は修羅場はあまりないですね。締め切りを基本的に守るので。

G:
以前、「締め切りを過ぎたら自分が死んでしまう」と言っていましたね。

中島:
締め切りというのも「自分締め切り」だったりするんですけどね。たとえば12月30日が本来の締め切りであっても、他の仕事とかの都合で10月30日までにやらないとダメだなと思ったら、そこを死守するために頑張ります。

G:
そういう設定だと、締め切りが近づいても大丈夫なものですか?

中島:
締め切りが近づくと常に暗澹たる気持ちになりますが、「このペースでやれば終わるはずだし、思いつきさえすればいけるはずだ」と。思いつく自分を信じています。「こういう風に自分を追い込んでいけば、この時期には思いつくはずだ」と、その積み重ねで来ていますので。

今石:
それは僕も分かる気がします。「コンテが描けないとき」というのはあるけれど、描けないなりにやるのはダメで、そういうときは思いつくまで我慢するしかないです。

中島:
どこか、ボルテージを突破する瞬間というのを探して、そこへ向けて自分をコントロールしていくということですよね。自分が快楽にしているのは、締め切りより先に出して面白いと言われること。「早くて面白いのってかっこいいよね」と思っているから頑張る、みたいな。個人的には、160kmのフォークボールが投げたくて。

G:
(笑)

中島:
思いっきり投げて、打者の目の前でストーン!と落ちるような。打者が振ってくれなきゃボールだけど(笑)

今石:
でも、すごいのが来るから思わず「ああっ」って振っちゃうという。

中島:
相手をどうだまして振らせるかという。

G:
『プロメア」は今までのノリがさらに強烈になっているなと感じました。ここは挑戦がうまくいったなという部分はありますか?

今石:
やはり冒頭部分というのは1つありますが、根幹として、2時間ぶっ通しで見たときどういうテンションになるかを気にして作ったということでしょうか。最初から最後まで一気に見るというのは、TVシリーズではあまりないことなので、そこが今回はいいかなと。

中島:
僕としては、本では新しいことをやっていないというのは気になっていて、新感線だと2時間・3時間にまとめることはやっているから、新しいところを開けていないことが気にしていたんです。でも、今石さんがアニメ表現として新しいものをやってくれたから、見た目としては新しいものになっていて、「そうか、こういう表現をしたいのであれば、本としては王道でもいいんだ。余計なことはやらないほうが映えるんだ」と。削って削って過剰になっている、それはバランスが成立しているということで、新しいんじゃないかと思います。

G:
なるほど、確かにそうですね。完成してやっと一息ついたタイミングで、お話をありがとうございました。

中島さん&今石監督

映画「プロメア」は2019年5月24日(金)から公開中で、2019年6月7日(金)からは入場者特典第2弾として前日譚「リオ編」が見られるシリアルコード付きキャラクターカードの配布が始まります。

©TRIGGER・中島かずき/XFLAG

これに合わせる形で、2019年6月4日(火)から6月17日(月)23時59分まで、今石&中島タッグ作品である「劇場版 天元突破グレンラガン 紅蓮篇」「劇場版 天元突破グレンラガン 螺巌篇」のGYAO!での無料配信がスタート。

劇場版 天元突破グレンラガン シリーズ | アニメ | 無料動画GYAO!
https://gyao.yahoo.co.jp/p/00548/v12339/

また、入場者特典第1弾だった『プロメア』前日譚「ガロ編」も、2019年6月7日(火)〜2019年7月31日(水)23時59分までGYAO!で無料配信されます。

プロメア プロモーション映像 | アニメ | 無料動画GYAO!
https://gyao.yahoo.co.jp/p/00799/v08897/

この「ガロ編」「リオ編」を合わせて見ることで『プロメア』はいわば「完全版」になるとのことなので、『プロメア』を気に入った人はぜひ「ガロ編」「リオ編」も楽しんでください。「リオ編」については入場者プレゼント限定なので、キャラクターカードをもらいそこねないように気をつけてください。

Photo ©TRIGGER・中島かずき/XFLAG