未来技術の1つである核融合発電は「実現が難しい」と考えられていましたが、技術の進歩とともに現実のものとなってきています。2019年現在研究者たちが直面する核融合発電商業化のための課題は何なのか、Commonwealth Fusion Systems(CFS)の科学者であるAlex Creely氏とMITプラスマ・サイエンス・アンド・フュージョン・センター(PSFC)のErica Salazar氏が語っています。

A commercial path to fusion – Physics World
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マサチューセッツ工科大学(MIT)は安全でクリーンなエネルギーを作り出すべく核融合発電の研究を続ける施設でしたが、2016年に政府からの資金援助が打ち切られたことが報じられました。援助の打ち切りにより核融合発電の商業化への道が閉ざされたかのように思えましたが、その後、民間企業であるCFSと協力して研究を続けることになりました。Creely氏とSalazar氏は2019年時点でも、核融合発電の実用化を目指して実験を続けています。

核融合は太陽内部で起こっている事象であり、地球上での再現が非常に難しいとされてきました。核融合が起こる前には、核融合燃料を構成する原子核が電子的反発を起こす必要があるため、原子同士が物理的に接近しなければなりません。このためには核融合燃料が2億ケルビンにまで加熱される必要がありますが、この温度では全ての物質がプラズマ化され、電子や核が分離してばらばらに動き回ることになります。核融合発電の技術的課題の1つは、ここにありました。

しかし、新世代の超伝導素材が登場するなど、技術の進歩とともに、徐々に上記の課題は克服されつつあります。実現が難しいとされた核融合発電ですが、科学者による技術開発により、気候変動に影響を与える規模の核融合施設を作り出すことも可能だと考えられているとのこと。民間企業の多くが核融合発電に興味を示し、多額の資金提供が行われたことも技術を進歩させた大きな理由の1つとなっています。

実際に、MITとCFSは民間からの資金提供を募った結果、SPARCという核融合装置の設計・構築を行うことに成功しました。

核融合発電を実現するべくさまざまな技術が開発されていますが、最も有望だと考えられているのがトカマク型の磁場閉じ込め方式です。トカマク型は強力な電磁石で強い磁場を作り出し、プラズマはドーナツ型の真空容器内に隔離されます。その後、プラズマはラジオ波などを使用して加熱されます。SPARCはこのトカマク型を進化させるものとなっています。

トカマク型の課題は、十分なエネルギーを得るためにマシンを大きくする必要があることであり、非常に高価になるということです。国際熱核融合実験炉(ITER)が2019年時点でフランスに建設されようとしていますが、そのコストは何百億ドル(数兆円)規模にのぼっています。予算が切迫したりパートナー企業がスケジュールを遅らせたりした結果、この核融合炉が最大パフォーマンスを発揮できるのは2035年前後だと予想されています。

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このほか、欧州トーラス共同研究施設(JET)なども上記とは別に核融合施設を構築しています。

SPARCやITER、JETといったトカマク型の核融合施設を区別する基準の1つが、新しいタイプの高温超伝導であるイットリウム系超伝導体(YBCO)を使用しているかどうかにあるとのこと。YBCOで作られた通電テープは高い磁場を保つことができます。高い磁場はプラズマの断熱性を向上させ、これまでのトカマク型よりもパフォーマンスを上げることが可能となるため、YBCOこそが核融合を可能にする技術であると研究者は考えているとのことです。

高温超伝導体はプラントの規模を縮小し、資本コストを削減し、動作温度を上げることで核融合発電所に利益をもたらしますが、リスクや課題がないわけではありません。高い磁場による機械へのストレスや熱による負荷、高温超伝導コイルの製造や動作における不確実性などが課題として挙げられます。このようなリスクを軽減し磁気システムのデザインを検証するために、SPARCでは数年かけてフルスケールのプロトタイプを作ってテスト予定だとのこと。特に急冷システムの構築や、突如として超伝導性が失われた時の対処には力が入れられる予定となっています。

核融合発電の技術開発において、問題解決ためアイデアやイノベーションが生まれる余地は十分に存在します。「技術課題に取り組み、障壁を取り除くための革新的アイデアを生み出すための情熱は、核融合が無限のクリーンエネルギーを生み出すために必要とするものです」と研究者は述べました。