成層圏へのフライトのシミュレーション Image: World View/Gizmodo US

いざ “ほぼ宇宙”へ。

宇宙へのフライトなんて人類の圧倒的多数にとっては手の届かない旅ですが、World View Enterprises(ワールド・ビュー・エンタープライジズ)の成層圏への気球での旅なら、SpaceX(スペースX)やBlue Origin(ブルーオリジン)の何分の1かの費用で、厳密には宇宙旅行と言えないものの限りなくそれに近い体験ができそうです。

人類を成層圏に連れて行くというWorld View社の計画について聞くのは久しぶりになります。アリゾナ州に拠点を置く同社はちょっとした軌道修正を行ない、撮像や通信用の機器を数週間にわたって高高度で浮揚させるStratolliteという無人の気球に関心を向けていました。しかし先日、同社はプレスリリースで宇宙観光ビジネスに復活することを明らかにしたのです。

当然ながら気球では実際に宇宙空間へは行けませんが、地球の丸さと宇宙の暗さがはっきり見えるほどの高さまで上昇することは可能です。この成層圏フライトは巨大な気球で乗客カプセルを地上約30kmへと持ち上げるので、とてつもなく宇宙っぽい体験を提供できるという考えです。

World View社のFAQによれば、「10万フィート(約30.48km)からは地上の壮大なパノラマのような景色を楽しめます。この見晴らしのよい場所からは地球の丸みと、地球の大気の“薄くて青い線”をはっきりと見ることができます」とのこと。「さらに、大気の厚さのある部分よりも高くなるので、宇宙の暗闇に包まれます。全方向に1000マイル(約1609km)以上も見渡せます」と記載されています。

いわく「他のどの民間宇宙観光フライトよりも安い」

宇宙空間の境界線として一般的に定められた、海抜高度100キロメートルのカーマン・ライン(カルマン線)があります。World View社の気球が向かう先はそんな宇宙空間の足元にも及びませんが、だからといって同社は成層圏フライトを宇宙ツーリズム分野に組み込むのをやめるつもりはありません。そうは言うものの、何もVirgin Galactic社、Blue Origin社にSpaceX社といった真正の宇宙ツーリズムのベンチャー企業と張り合おうというわけではないのです。彼らの領域に出しゃばろうとしていると言った方が正確でしょうか。

一例として、World View社は1人あたりの費用が5万ドルと、同社いわく「今ある他のどの民間宇宙観光フライトよりも著しく低い」コストを計画しています。繰り返しになりますが、宇宙ではないけどまあよいでしょう。その金額でも高額ではありますが、SpaceXのCrewDragon(クルードラゴン)に乗るためのチケット価格として予想されている2500万ドルの前ではかすんで見えます。Blue Origin社はオークションで1席を2800万ドルで売り出し、Virgin Galactic社(ヴァージン・ギャラクティック)は料金を45万ドルにする予定。World View社はプレスリリースの中で、顧客にはフレキシブルな資金調達の選択肢を提供すると語っており、現在は500ドルのデポジットを受付中とのこと。5万ドルは高級車を購入するのに近い価格で、この体験にはそれだけの価値があると感じる人は結構いるかもしれません。

飛行時間も強みの1つで、成層圏へのフライトは6〜12時間ほど。搭乗するのは乗客8名とクルー2名で、無重力のスリルこそありませんが景色を楽しめますし、お酒も用意されています。カプセルにはトイレもついています。

World View社は出発地点のロケーションとして、まずはグランド・キャニオンを予定しています。その他にもオーストラリアのグレート・バリア・リーフ、ケニア側のセレンゲティ、ブラジルのアマゾン、エジプトにあるギザの大ピラミッド、モンゴル領内の万里の長城といった素晴らしいロケーションから出発できるようにしたいと望んでいるそう。予定地の中でも、ノルウェーでオーロラを眺めながら飛び立っていくなんて最高の絶景かと…!

また身体的な利用しやすさといった強みもあります。激しい高加速度のロケット打ち上げが、成層圏への穏やかな上昇と地上へのソフトランディングに取って代わられます。介助動物もフライトへの搭乗を許可されますよ。

同社は多くの安全対策を実施していると述べています。

宇宙飛行のカプセルやヘリウムを充填したゼロプレッシャー気球の飛行システム、特許を取得したパラフォイル着陸システムの設計に至るまで私たちの第一目的はすべての段階での安全性です。フライト中に主要な安全対策のどれかが作動しなかった場合に備えて、豊富な安全対策も複数設計しました。例えばパラフォイルシステムが着陸時に止まった場合には、カプセルをゆるやかに着陸させるために展開される予備のパラシュートシステムもあります。

World View社のフライトは長年、気球内の圧力が外の圧力と等しい高高度ゼロプレッシャー気球を使ってきました。パンクやガス漏れ、穴が開いた場合に気球が破裂して突然急降下するなんてことはありません。それどころか、穏やかな結末となります。ヘリウムは気球から徐々に漏れ、気球とカプセルはやがてゆっくりと降下し始めます。大きな穴があったとしても、気球が地面へと徐々に流されていくまで数時間かかります。そのうえ、World View社の気球は安全な不燃性ガスのヘリウムを充填しているので、爆発のリスクは排除されています。

同社はまだ設計を仕上げている最中で、連邦航空局(FAA)から認可される必要があります。同社の最高経営責任者Ryan Hartman氏はSpaceNewsの取材で、理想としては年に100回打ち上げたいと考えていると述べていましたが、打ち上げ地点と現地の気象状況によるとのこと。初のフライトは2024年になりそうで、すでに非営利団体Space For Humanityが貸し切っています。

成層圏へのフライトを提供する会社はWorld View社以外にも存在します。World View社の共同設立者Jane Poynter氏と Taber MacCallum氏が所有するSpace Perspective社は現在似たようなサービスに取り組んでいますが、価格は乗客1人つき12万5000ドル近くだそうです。

Source: Aerospace America, Space.com(1, 2), Business Wire, YouTube, World View, Forbes, BBC, SpaceNews,