Photo: NOAA Office of Ocean Exploration and Research, 2016 Deepwater Exploration of the Marianas

深海にはまだまだ未知の生物が。

新たな研究で、マリアナ海溝の深部にウイルスが発見されました。このウイルスは、特定の細菌を獲物としていると考えられています。

世界で一番深い場所

日本の南方、グアムの少し先にあるマリアナ海溝は、地球上で最も深い海溝で、8,849mのエベレストをひっくり返して入れたとしても海底にはつかない深さだと言われています。このほとんど別世界のような場所でも、生物はいるんですよね。これまでマリアナ海溝で魚、エビ、およびさまざまな微生物が発見されてきています。

そして、生命が存在する場所には通常、ウイルスもいるのです。というのも、ウイルスはほかの生物の体を乗っ取ることでしか増殖できないから。しかし、その生態からウイルスを生命と見なすべきかどうかは議論の的となっています。こういった深海ウイルスについてはほとんど知られておらず、どれだけ多くのウイルスが存在するかもほとんどわかっていません。

細菌に感染して自らを増やすウイルス

中国とオーストラリアの研究チームは、この新しいウイルスを8,900mの深さから引き上げた堆積物から発見し、「vB_HmeY_H4907」と名付けました。

遺伝子解析によると、このウイルスは以前は特定されていなかったウイルスの種の一部だったそうです。また、これは細菌に感染して自身を増やすウイルス「バクテリオファージ」なんだそう。チームの研究結果は、ジャーナル誌「Microbiology Spectrum」にて発表されています。

この研究の著者である中国海洋大学のウイルス学者Min Wang氏は「私たちの見解では、これは世界の海で知られている中で最も深い単離されたバクテリオファージだ」とアメリカ微生物学会で発表しています。

深海環境や熱水噴出孔近くに生息する一群のバクテリア、Halomonas(ハロモナス)にこのウイルスは特に感染することが多いそう。ですが、このウイルスとバクテリアの関係は比較的友好的なものだとのこと。

実際、このウイルスは宿主であるHalomonasと遺伝的に非常に類似していて、さらに「溶原性ファージ」と呼ばれる通常はバクテリアを殺さない特性を持っています。代わりに、ウイルスとバクテリアの両方が同時に自分を増やしていきます。研究チームは、「vB_HmeY_H4907」がこれらのバクテリアと共進化して、過酷な環境での生存を確保している可能性があると推測しています。

チームは、深海ファージとその宿主の分子レベルでの相互作用をさらに研究する予定なんだそう。そして、地球上で最も厳しい場所と言われるマリアナ海溝でほかのウイルスも探していくとのことです。Wang氏は「極端な環境は、新しいウイルスを発見できる可能性があります」と述べています。

私たち人類は、未知で神秘的な海洋微生物、特にウイルスと聞くとCOVID-19のパンデミックのこともありちょっと怖いような気持ちにもなりますが、一般的にウイルスはその宿主と環境に高度に適応しています。言い換えると、深海に住むウイルスが、陸地に住む人間に対して危険になる可能性はかなり低いということですね。