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覆水盆に返らず。

アメリカの原生林を商業目的で伐採できるようにしようというトランプ政権の積極的な動きに対し、科学者や現職および元連邦土地管理者の間で、戸惑いや懸念の声が広がっています。

森林伐採に踏み切った政権の判断

きっかけは、トランプ大統領が署名した2本の大統領令。木材および製材の輸入をめぐる国家安全保障上の懸念と、国内木材生産の拡大に関するものでした。

それから1カ月後、ブルック・ロリンズ農務長官がさらに踏み込んだ対応として、全米の国有林の約60%にあたる面積(約45万5862平方km)が伐採対象になる「緊急事態宣言」を発令する覚書を発表しました。

日本の国土面積(37万8000平方km)を超える森林が伐採対象になっちゃう計算に…。

「山火事対策」は建前? 本当の狙いは木材利権?

この覚書は山火事の危機に対応するためだとされていますが、Los Padres ForestWatch(ロスパドレス・フォレストウォッチ)の声明によれば、実際には「国内木材生産」や、環境保全を「過剰な連邦政策」と位置づけるような内容が目立つとのこと。フタを開けてみると山火事対策じゃなかったと…。

ForestWatchのエグゼクティブディレクターであるJeff Kuyper氏は、米Gizmodoの取材に対して次のように懸念を示しています。

これは環境法を無視して国有林での伐採を拡大し、国内林業の利益を優先する見え透いた試みです。大量解雇や予算削減、環境規制の緩和と相まって、Los Padresを含む全国の国有林に深刻な被害を及ぼす恐れがあります。

科学機関を弱体化させる政権の姿勢

第2次トランプ政権が発足してから最初の100日間、政権は連邦の主要科学機関の人員や予算を体系的に削減してきました。その結果、環境や公衆衛生の危機に対応するための調査、監視、対応能力が大きく損なわれているとみられています。

NOAA(アメリカ海洋大気庁)やNASA(アメリカ航空宇宙局)といった、ハリケーンや山火事など自然災害の動向を追う機関も例外ではなく、人員削減や雇用契約破棄、研究契約の中止を余儀なくされています。

この動きは国立公園局にも波及しており、多くの科学者や職員が退職や配置転換を迫られているそうです。これは、野生生物保護区の管理体制そのものを縮小しようとする政権の方針の一環とみられています。

「保護の名を借りた伐採」に専門家たちが反論

ロリンズ長官の覚書では、この緊急事態宣言を森林保護のための措置としていますが、一部の専門家はこの主張に異を唱えています。

国立公園局の元生物資源部長であるElaine Leslie氏は米Gizmodoへのメールで次のように述べています。

これらの命令は、国家安全保障の強化を口実にしていますが、ほとんどの人は虚偽だと見抜いています。実施されるであろう政策は、裕福な企業に利益をもたらすために環境保護を弱体化させるでしょう。

とはいえ、Leslie氏や他の生態学者たちは、原生林の管理に反対しているわけではありません。計画的な火入れや間伐は森林管理の定番であり、大規模火災のリスクを抑えつつ、生態系が繁栄するよう手助けする役割を果たしています。

エール大学の生態学者で森林管理ディレクターを務めるMark Ashton氏も、「特定の樹木を除去する管理手法には、山火事の被害を軽減する効果があるという証拠が数多くあります」と同意しています。

問題は「どこを、どう伐採するか」

さらにAshton氏は、アメリカの国有林は国立公園とは管理方針が異なり、「国有林の大部分はもともと木材の生産と伐採のために管理されてきました」と説明します。その上で、「問題はそれをどこで、どのように行なうかです」と強調しています。

これ、まさに問題の核心を突いています。トランプ政権が進める今回の伐採政策は、過去の管理手法とは規模も対象も大きく異なり、国有林の広範囲に影響を与えるおそれがあります。

Leslie氏は、間伐と伐採の違いを次のように説明しています。

「間伐と伐採は別物です。間伐は、胸高直径(成人の胸の高さで測った木の直径)が小さい木を選んで取り除くのが基本です。一方、伐採は広範囲にわたって、大きく成熟した、しばしば原生林の木を収穫するものです」

つまり、大統領令が対象にしている森林は、専門家が山火事のリスクを減らすために整備している場所とはまったく異なる部分ということになります。

Ashton氏も、「もしこれが、農務省林野部に経験豊富な専門スタッフが揃っている健全な政権下ならば、そもそも問題にならないはずです」と指摘しています。

同氏はさらにこう続けています。

米国農務省林野部は、世界でも群を抜く専門知識を持っています。少なくとも、(新政権に移行する)以前は持っていました。しかし、今では多くの専門家が解雇され、この政権が土地管理のルールを順守するかどうかを判断するのは非常に難しくなっています。

Leslie氏は現場の厳しい実態について話します。

報道されている通り、多くの森林監督官がすでに辞職や退職に追い込まれています。職員たちは今、命令に従うか、それとも職を失うかという厳しい選択を迫られています。環境団体が団結して訴訟を起こしてくれることを願っています。

偽りの火災対策がもたらす長期的リスク

バイデン政権も森林保護に十分取り組んできたとは言い切れませんが、トランプ政権の科学機関や国立公園に対する姿勢を見ると、手つかずの国有林が適切に管理されるとは考えにくいといいます。

Leslie氏は、拡大される伐採政策がもたらす影響について次のように警鐘を鳴らします。

もっとも重要なのは、伐採の拡大がもたらす長期的な影響です。十分な環境影響評価を行なわずに伐採を進めれば、絶滅危惧種の危機につながり、生物多様性や水質、流域全体が脅かされます。野生生物の生息地の減少と断片化が進んでしまうでしょう。

Los Padres ForestWatchによると、もっとも破壊的な山火事は、商業伐採では防げないとのこと。むしろ、今年初めにロサンゼルスを襲ったような極端な強風や、厳しい気候条件によって勢いを増しているそうです。

ForestWatchは次のようにトランプ政権を批判しています。

トランプ政権は『緊急事態』を口実に、火災防止という見せかけの約束のもとで商業伐採を加速させています。その結果、気候変動で火災リスクが高まっているなかで、科学ではなく利権を優先し、地域社会をさらに脆弱な状態に追い込んでいるのです。

現政権は気候変動への立ち位置を隠しているわけではありませんが、国有林に対するその姿勢が、法廷で争われる可能性もあります。

ただ、これまでのトランプ大統領の言動を見ると、混乱の少ない穏健な政策よりも、とにかく早く進めて現状を壊す選択を優先しているように感じます。

でも、原生林をいったん伐採してしまったら、取り戻すには気が遠くなるほどの時間がかかってしまいます。

取り返しが付かなくなる前に状況が変わるといいのですが…。