最近はもう一年中どこかで燃えてる感が強くなってきた。
山火事。森林火災。林野火災。野火。呼び方はいくつもあれど、悪条件がそろえばあっという間に何もかもを燃やし尽くしていく炎には恐怖しかありません。
アメリカやオーストラリア、ヨーロッパで発生しまくっているイメージが強くて、どこか他人ごとになりがちな山火事ですが、今年は2月下旬から3月にかけて岩手県大船渡市で延焼が続き、市の1割近い面積が焼失、100棟以上の住宅に被害が及び、人口の14%にあたる約4,600人に避難指示が出るなど、日本ではあまり見聞きしないレベルの深刻な林野火災が発生したこともあって、身近な脅威と捉える人も増えてきたのではないでしょうか。
そんな山火事の脅威は、大切な人の命を奪い、思い出を焼き尽くす炎だけではありません。燃え盛る炎から立ち上る煙もまた、人間の心身に深刻な影響を与えます。
激甚化する山火事
カナダ諸機関合同森林火災センター(Canadian Interagency Forest Fire Centre: CIFFC)のデータによると、年明けから6月9日までの火災発生数は1,870件で、焼失面積は3,150平方km(東京都の1.4倍)に及んでおり、現在も200件以上の山火事が延焼中です。
アメリカ海洋大気庁(NOAA)のは、今回の山火事で大量に発生した煙がカナダとアメリカの国境を越えてアメリカ南東部のフロリダ州にまで達し、大気質を悪化させていると報告しています。
気候変動の影響で、世界各地の山火事シーズンが年々長く、激しくなっている昨今、山火事による煙にさらされるリスクを正しく知ることはますます重要になってきました。
最近発表された一連の研究は、山火事の煙が単に呼吸器だけにとどまらず、私たちの心身のもっと広い範囲に複雑で深刻な影響を与えることを浮き彫りにしています。
ニューヨークのマウントサイナイ医科大学で環境医学を専門とするYaguang Wei氏は、Harvard Gazetteの取材にこう語っています。
山火事の煙が健康に与える影響を正確に把握し、一般の人々や医療従事者の認識を高めるとともに、その影響を和らげるための効果的な規制づくりを後押しするには、迅速な研究の推進が不可欠です。
今年5月末に学術誌Epidemiology(疫学)に掲載された研究で主執筆者を務めたWei氏は、山火事の煙の影響について、鎮火後も最大で3カ月にわたって肺と心臓にダメージを与える可能性があると報告しています。
この中期的な暴露が、心臓病や脳卒中、高血圧、肺炎、慢性肺疾患、そしてぜんそくなどのさまざまな心肺疾患のリスク増加と関連していることが明らかになりました。
Wei氏は、「たとえ数日しか続かない小さな山火事でも、そこで吸い込んだ煙が長期的な健康被害を引き起こす可能性があります」と指摘しています。
有害成分とともに運ばれる微生物
アメリカ環境保護庁(EPA)によると、山火事の煙は、ガスや大気汚染物質、水蒸気、PM2.5(微小粒子状物質)などで構成されています。
また、煙には多環芳香族炭化水素(PAH)や揮発性有機化合物(VOCs)などの有毒な化合物が高い濃度で含まれており、その一部は発がん性物質として知られています。さらに、最近の研究では、山火事由来の煙に微生物や菌類病原体が含まれている可能性も指摘されています。
2021年にISME Journalに掲載された研究結果によると、山火事の煙のサンプルから検出された微生物の80%は、まだ生存能力がある状態だったそうです。あの極めて高温の炎からどうやって生き延びたのかはまだ不明ですが、微生物が煙に入り込むメカニズムについては、ある程度の理解が進んでいます。
カリフォルニア大学デービス校の医学教授であるGeorge Thompson氏(研究には不参加)は、Gizmodoの取材に対し、山火事は空気を取り込む際に周囲の土壌や植物から病原菌を引き込むと説明しています。
また、Thomson氏は煙の健康への影響と、影響を与えやすい人について、次のように述べています。
幸いなことに、健康な人であれば、バクテリアや真菌のほとんどは感染症を引き起こしません。私たちがもっとも懸念しているのは、化学療法を受けている人や、外傷から回復中の人など、すでに免疫系に影響を受けている患者です。
しかし2023年の研究では、山火事の煙が一般の人々の感染リスクを高める可能性を示唆する証拠が見つかっています。
The Lancet, Planetary Healthに発表された研究結果は、カリフォルニア州で発生した山火事と、コクシジオイデス症(渓谷熱とも呼ばれる)などの侵襲性真菌感染症の発症が18〜22%増加していたことに関連があるとしています。
Thompson氏は、この研究が大規模な病院のデータに基づいていることは出発点として素晴らしいと認めつつも、関連性を裏付けるためにはさらなる研究が必要と指摘しています。
脳にまで届く微粒子の影響
しかし、山火事の煙のなかでもっとも危険な成分は、病原体ではなくPM2.5(微小粒子状物質)です。この直径が2.5マイクロメートル以下の微粒子は、吸い込むと肺の奥深くまで侵入し、呼吸器系に甚大な損傷を与えます。
これまでの研究では、もっとも小さい「超微粒子」になると、肺から血管に直接入り込んで、血管を傷つけたり、脳を含む体のさまざまな臓器で有害な炎症や酸化ストレス(細胞を傷つける反応)を引き起こしたりすることが明らかになっています。
複数の研究は、山火事の煙への暴露と、認知症の発症リスクとの関連性を示唆しています。2023年に医学誌JAMA Neurologyに掲載された研究結果では、南カリフォルニアの60歳以上の住民120万人以上の健康データを分析した結果、山火事由来のPM2.5への長期暴露と認知症リスクの増加との間に有意な関連性が確認されています。
具体的には、山火事によって発生したPM2.5の濃度が、3年間の平均で1立方mあたり1マイクログラム増加するごとに、認知症と診断される確率が18%上昇したそうです。一方、山火事以外が原因でPM2.5の濃度が同じ割合で増加した場合、認知症と診断される確率は1%しか上昇しなかったとのこと。違いが大きすぎる…。
研究の主執筆者を務めたペンシルベニア大学のHolly Elser氏は、2024年にLos Angeles Timesの取材にこう答えています。
山火事の煙への暴露と認知症に関連性があることは予想していました。ですが、山火事以外の煙と比較して、山火事由来の煙と認知症の関連性がここまで高いのはちょっとした驚きでした。
煙の心理的な影響
さらに、山火事の煙が体だけでなく心の健康にも大きな影響を与えることが、最近の研究からわかってきました。今年4月に医学誌JAMA Network Openに掲載された研究結果は、カリフォルニア州で記録上最悪の山火事シーズンだった2020年7月から12月までの山火事に由来するPM2.5の濃度と、メンタルヘルス関連の救急外来受診件数との関係を分析しています。
その結果、山火事の煙に暴露してから最大7日間にわたって、メンタルヘルスに関する緊急外来の受診件数が大きく増加していることが明らかになりました。
ハーバード公衆衛生大学院の医師であり、研究の共著者でもあるKari Nadeau氏は、大学の公式声明のなかで次のように述べています。
私たちの研究は、山火事によって引き起こされる精神的ショックに加えて、煙そのものも、うつ病や不安障害、気分障害といったメンタルヘルスの問題を悪化させる直接的な要因になりうることを示唆しています。
残る疑問と安全対策
山火事の煙が単なる呼吸器への脅威にとどまらず、もっと広範囲で健康リスクをもたらすということは、これまでの研究からもはっきりしています。
しかし、ブリティッシュコロンビア州疾病管理センターの環境衛生サービス部門に勤めるAngela Yao氏は、山火事由来の煙の影響、なかでも特にメンタルヘルスへの影響については、まだ研究の初期段階にあり、多くの疑問が残されていると指摘します。
同氏はその例として「煙の影響と火災そのものの影響をどう切り離すのか?」という疑問を挙げています。今後の研究では、このような複雑に絡み合っている要因をしっかり検証していく必要があるとしつつ、「現時点での証拠だけでも、私たちは多くの対策を講じるべきだと確信しています」と強調しています。
Yao氏は、山火事の煙から心身を守るために、できるだけ外にいる時間を減らすように呼びかけています。また、呼吸が激しくなるとそれだけ多くの煙を吸い込むことになるので、外での激しい運動は避けたほうがいいとのこと。
やむを得ず外出する場合は、EPAのガイドラインに従って、N95やP100といった高性能マスクを着用すれば、煙への暴露を減らせるそうです。
また、室内の空気を安全に保つために、窓やドアを閉めて、空調システムが適切に動作しているかどうかを確認するのも重要といいます。もし空調システムがない場合は、ポータブルタイプの空気洗浄機を購入するか、暖房用フィルターとボックス型扇風機を組み合わせて空気洗浄機を自作できるとのこと。
山火事シーズンがますます深刻化するなか、自身と家族を煙から守るための対策を行なうことは、これまで以上に重要になっています。
専門家は、山火事の煙による健康へのリスクを完全に理解するにはまだ時間がかかるとみていますが、山火事の脅威がすぐになくならないことだけは確かなようです。
Reference: NHK, 岩手県, 日テレNEWS NNN
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