日本政府が韓国向け輸出規制について発表した7月以降、韓国では日韓関係に関するニュースがあふれ返っていた。かと思うと、8月後半からは、「日韓関係はどこへ?」と思うぐらい、曺国(チョグク)法相の任命をめぐるニュース一色になった。

曺氏の家族や親せきの様々な疑惑が報じられる中、文在寅大統領は任命に踏み切った。

文政権の政策の方向性を大きく二つ挙げると「親北朝鮮」と「富の分配」だろう。文政権支持層は「親北朝鮮」には無関心あるいは否定的だが、「富の分配」の方を理由に支持していた人も多かった。ところが、今回の曺国法相の件では、娘の大学入学にまつわる疑惑など、「富や権力を利用した不正」に見える疑惑が多く報じられ、文政権の支持者の一部が離れる結果となった。

曺国法相の任命をめぐるニュースがここまで盛り上がったのは、一つには来年4月の総選挙を見据え、与野党の勢力争いのネタになったためだ。

ここ2、3ヶ月、政治ドラマが目立ってきたのも、来年の総選挙を意識してのことだろう。

「60日、指定生存者」主演のチ・ジニ=tvN提供

まずはイ・ジョンジェの10年ぶりドラマ復帰作、JTBCドラマ「補佐官」(6〜7月放送)。補佐官というのは、国会議員秘書を指す。イ・ジョンジェ演じるチャン・テジュンは、国会議員を目指す野心満々の補佐官。市民をだましてまで国会議員になろうとする「悪い人」だ。党内の勢力争いや、立法をめぐる駆け引き、秘書たちの情報収集など政治の裏側を見せるドラマで新鮮だった。後味の悪い終わり方だと思ったら、シーズン制ドラマで、11月にシーズン2の放送を予定しているという。

一方、tvNドラマ「60日、指定生存者」(7〜8月放送)の主人公パク・ムジン(チ・ジニ)は、「いい人」だ。米国のドラマ「サバイバー 宿命の大統領(原題はDesignated Survivor)」のリメイクだが、そうと言われなければ気付かないぐらいうまくローカライズされていた。

初回から国会議事堂がテロによって爆破され、大統領以下国会議員の多くが亡くなる。環境相だが、たまたまテロの時に国会議事堂にいなかったパク・ムジンが大統領権限代行となる。その期間がタイトルにある60日だ。

学者出身で政治家らしからぬ「いい人」のパク・ムジンは、毎回難しい選択を迫られる。例えば、「差別禁止法」の制定をめぐって、だ。人種や出身国家、性別や性的指向、社会的地位などを理由に雇用や教育などで理不尽な差別を禁止する法律だが、実際の韓国社会でも、「性的指向」の部分で「同性愛を助長する」などと反対意見が多い。韓国はクリスチャンが多く、キリスト教系の団体の反発が特に大きいようだ。代行任期満了後に大統領選に出馬すると公言したパク・ムジンに、秘書たちは「差別禁止法」は大統領選で不利になるとして制定に反対する。パク・ムジンは制定をいったん延期し、「大統領になってから制定する」という苦渋の決断を下した。

妥協にも見える主人公のかっこ悪さが、このドラマの魅力に思えた。「いい人では政治はできない」と言っていた秘書の一人が次第にパク・ムジンの人柄に惹かれ、「いい人が勝つ世の中を見てみたくなった」というセリフが印象に残った。

「偉大なショー」主演のソン・スンホン(上)=tvN提供

対照的な2本のドラマの放送が終わり、現在放送中のtvNドラマ「偉大なショー」は、前国会議員ウィ・デハン(ソン・スンホン)が主人公の政治ドラマでもあり、家族ドラマでもある。韓国語で「偉大な」の発音は主人公の名前と同じ「ウィデハン」だ。ウィ・デハンは家族の問題で落選したが、再び国会議員を目指し、親のいない4人兄弟を家族として受け入れる「ふり(ショー)」をする。コメディータッチだが、「政治なんて結局ショーだ」と皮肉っているようでもある。

「補佐官」と「偉大なショー」で共通して「堕胎禁止」の問題が取り上げられるなど、現在の韓国のイシューがドラマにも出てくるのも興味深い。「60日、指定生存者」の同性愛についてもそうだが、賛否の割れる問題をドラマで果敢に取り上げている。

韓国では政治の話が天気の話のように日常的に交わされる。最近、ある人が「騒々しいのが民主主義」と言っていた。曺国法相の任命をめぐって騒々しい韓国よりも、政治の話がタブーのようになっている日本の方が、実は問題なのかもしれない。