「トランプ大統領は、ワシントンの市への支払いを滞納している。。。」 秋がすぐそこまで近づいていた朝、通勤中に車のラジオでそのニュースを耳にした瞬間、この夏行われた独立記念日のイベントの光景が頭に蘇った。

トランプ大統領や戦闘機を一目見ようと、リンカーン記念堂に集まった人々=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

「リンカーン記念堂で行う7月4日の『米国に敬礼』は、とても大きなイベントになりそうだ。一生に一度しか見られないショーになるぞ!」 トランプ大統領は今年の独立記念日の前日、こうツイートした。エキサイトしている様子が手にとるようにわかった。なぜならば、トランプ氏の2年越しの願いが叶う日だったからだ。大統領は2017年、パリでフランス革命記念日の軍事パレードを見て以来、米国でも同じような大規模のパレードを開催したいと切望していた。だが、計画が持ち上がっては莫大な経費がかかるとの理由で見送られ、実現できずにいた。

米国独立記念日の前日、「米国に敬礼」式典の準備が進められる中、路上に置かれた戦車の前で記念撮影をする子供たち=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月3日

独立記念日の7月4日は、毎年恒例の花火やコンサートなどのイベントが開催され、首都ワシントンは多くの人々で賑わう。この日の「主役」は国民。歴代の大統領はこの日あまり表には出ず、ホワイトハウスでサウローンから花火を鑑賞したりするのが伝統だった。ところがトランプ大統領は、自分が表舞台に立ち、米国の軍事力を見せつける「演出」を選んだ。

というわけで私は、米国独立記念日、軍事式典が行われるリンカーン記念堂へ猛ダッシュした。この日は朝から湿度が高く、午後から雷雨の予報だった。通行止めだらけの道をすり抜け会場に到着してまず目に飛び込んだのが、ステージの両脇にディスプレイされた2台の戦車だった。長さは約10メートル。星条旗の前に存在感たっぷりで置かれている。

「米国に敬礼」式典の会場にディスプレイされる戦車。戦車を前に記念撮影したり、携帯で写真を撮ったりする人が多くみられた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

間も無く雨が降り出す。リンカーン記念堂の前には、リフレクティングプールと呼ばれる細長い池がある。ちょうどワシントン記念塔が水に写ることで知られるこの池の両脇には、雨具をまとった大勢の人々が式典を一目見ようと集結した。会場に設置された大画面には、会場から車で10分弱のホワイトハウス をリムジンで出発する大統領の様子がライブ中継された。

リンカーン記念堂から連邦議会に向かって見ると、細長いワシントン記念塔がちょうどリフレクティングプールと呼ばれる池に映るようになっている。この池を囲むように多くの人々が式典を見ようと集まった=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

トランプ大統領が会場に到着し、メラニア夫人と手を繋ぎ登壇すると、すぐさま「U S A!U S A!」の嵐が巻き起こった。演壇を囲む防弾ガラスは、直前まで降っていた雨粒で覆われている。その防弾ガラス越しに、大統領は誇らしげな表情でこう始めた。「今日、私たちは一つの国として、共にこのとても特別な『米国に敬礼』の式典に集いました。我々の歴史、国民、そして誇りを持って国を守る米軍の勇敢な兵士たちを祝いましょう」。この日の演説には、トランプ大統領の口から普段あまり聞くことのない「団結」を促す言葉が散りばめられていた。式典を政治利用したと批判されないようにする必要があったからだ。そのため、選挙集会ではお馴染みの民主党やメディア批判といったものがトランプ大統領の口から出てくるかどうかが注目されていた。

「米国に敬礼」に訪れた観衆に手を振るトランプ大統領とメラニア夫人。雨の中、多くの人が雨具をまとい参加した=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

とはいえ、目の前で繰り広げられる光景はトランプ集会そのものだった。演説の合間に歓声や「U S Aコール」が飛び交う。会場には「M A G Aハット」(「米国を再び偉大に」のスローガンの頭文字を綴った帽子)をかぶった人や、再選に向け「トランプ2020」と書かれた弾幕を掲げる人が目立った。

トランプ再戦へ向けての「トランプ2020」という段幕を持ってトランプ大統領の軍事式典を訪れた支持者ら=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

トランプ大統領は続けた。「今日、我々の国は、かつてないほどに強い。今が最強だ」 あたかも「自分のおかげで」と言わんばかりに。これを聞いた瞬間、いつものトランプ節だ!と感じた。

降ったり止んだりする雨の中、トランプ大統領は飛行予定されていた戦闘機などの紹介を始めた。「バージニアのラングレー空軍基地から新品で美しいF22ステルス戦闘機と、ミズーリのホワイトマン空軍基地から見事なB2爆撃機を紹介します!」

独立記念日の式典で、ワシントン上空をデモ飛行するF22ステルス戦闘機(左右)とB2爆撃機(中央)。ゆっくりとした速度で飛ぶ様子が不気味に見えた=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

海兵隊バンドの演奏が始まると、トランプ大統領はやおら天空をあおいだ。なんと絶妙なタイミングで、ワシントン記念塔の向こうから、戦闘機と爆撃機が群衆に向かって飛んで来る。轟音と「U S Aコール」が渦巻く中、トランプ大統領は「どうだ、すごいだろう?」と言わんばかりに両手をあげ自慢気な笑みを浮かべる。

演演説の合間に登場する戦闘機を紹介した後、空を見上げてデモ飛行を待つトランプ大統領(写真中央)=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

その後も、F35戦闘機やF18戦闘機、オスプレイ、大統領専用機エアフォース・ワンなどを、大統領本人が紹介するという進行が続く。まるでテレビ番組を見ているかのようだ。翌日のニューヨーク・タイムズ紙の1面に「飛行デモや国旗とともに、トランプが7月4日(独立記念日)のMC(司会進行役)を務める」という見出しが踊った。

最後に米海軍のブルーエンジェルス6機がリンカーン記念堂から打ち上げ花火のように現れ、猛スピードでワシントン記念塔へ向かって消えていき、式典は終了。

ワシントン上空をデモ飛行するブルーエンジェルスを携帯で撮影する観衆=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

それから5日後、ワシントン市長はトランプ大統領宛にこんな手紙を書いたという。大統領就任式にかかった730万ドル(約8億円)と、7月4日の祝日にかかった170万ドル(約1億8千万円)が未払いです。このままでは式典など、公的なイベントに拠出するワシントン市の財源が枯渇してしまいます。

数ヶ月後に聞いたラジオのニュースは、この支払いが未だにされていないというものだった。他にもこの式典には莫大な費用がかかったと言われている。そこまでしても実現させたかった「米国に敬礼」。トランプ氏にとっては「私に敬礼」という式典だったのかもしれない。

雨が降ったり止んだりする中、雨粒で覆われた防弾ガラスの中から演説するトランプ大統領=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日

リンカーン記念堂は、公民権運動リーダーのキング牧師があの有名な「私には夢がある (I have a dream)」の演説を行った場所でもある。その歴史ある記念堂で開催された軍事式典。雨の中、意気揚々と司会進行役を務めたトランプ大統領の姿を、リンカーン大統領の大きな石像が背後からじっと見つめていた。

リンカーン記念堂には、奴隷解放宣言の公布で知られるリンカーン大統領の大きな石像がある。ワシントン記念塔や連邦議会議事堂を椅子に座って見つめている=ワシントン、ランハム裕子撮影、2019年7月4日