普通だった日常が、紛争によって崩れていくーー。多くの国々が平和を願いながらも、民族や宗教を巡っての迫害や争いは後を絶たない。難民の人たちに取材を続けるフォトジャーナリストの安田菜津紀さんは、苦難の中にある人々の「食」を支える支援の大切さを語る。豊富な食に囲まれた暮らしは、実は世界の一部分でしかない。国連によると、世界で十分な食料を得られていない人は推計で8億2千万人。この「飢餓人口」は、実は3年連続で増え続けている。その大きな要因の一つが紛争だ。

難民キャンプが抱える「目に見えない傷」

安田さんが初めてシリアを訪れたのは2008年。当時は治安が安定していて、首都のダマスカスの景色はとても美しかったと話す。しかし、シリアでは11年に政府軍と反体制派による内戦が起き、多くの住民が安全な地を求めて避難した。以来、彼女はシリア国内をはじめ、イラク、ヨルダンの難民キャンプを訪れて、その現状を写真と文章で発信している。

12年に開設されたヨルダンのザータリ難民キャンプは、約8万人が暮らす世界最大のシリア難民キャンプだ。難民たちは逃れてきた当初は「数日もすれば帰れる」ことを信じたが、今も故郷に戻れない日が続いている。生活が長引くにつれて、難民キャンプ地には電気が引かれ、トイレが清潔になるなど整備が進んだ。そんなおり、難民のひとりの女性は次のように話した。

「支援団体の方に生活を快適にしていただいたことにとても感謝しています。ただ、『あなたたちは、まだ帰れない』と告げられているようであり、同時に憂鬱な気持ちにもなってしまう」

安田菜津紀さん

避難直後の難民の人たちは、無事に逃れることができた喜びから心が開放的になることもある。しかし、しばらく避難キャンプで暮らすと、先行きの不透明さに、精神が不安定になりやすい。銃撃に巻き込まれた恐怖や、家族を亡くした悲しみなどが、昨日のことのようによみがえる。

「心のケアがなされないままキャンプに長くいると、性格が怒りっぽくなる、無気力になる、といった症状が出やすく、特に子どもに多く見られます。ハイティーンの子たちがオネショをしてしまう話もよく耳にしていて、これは精神的な影響にもよるものだ、と話す医師もいます」と安田さんは話す。身体に負った傷は治療で回復できても、トラウマや精神的な苦痛から生じる「目に見えない傷」のケアの難しさに直面している。

死んだように生きるなら戦闘員に

紛争地では子どもの教育の難しさもある。

「混乱が多発的に起きている地域では、難民の人たちは避難先を転々としています、子どもたちは継続的な教育を受けられず、3年も4年も教育の機会を逸してしまうことも。そんな状況で、たとえば中学3年生ぐらいの子が小学生と肩を並べて一緒に学校で授業を受けられるかといえば、それはハードルが高い。比較されるのがイヤで足が向かなくなってしまいます」

教育を受けられないと、難民キャンプの過酷な状況も伴って、思考が過激になりやすいことが懸念されている。もしも誰かに「あなたのお父さんは誰々に殺された」と言われれば、復讐を選んでしまうこともある。しかし、教育によって視野が広がれば、「もっと違った道がある」「でも、こういう考え方もできる」、と子どもたちの選択肢を増やすことができる。

ザータリ難民キャンプで、水タンクの周りに集まる子どもたち=安田菜津紀さん撮影

学校に通えても、空腹を抱えたままでは授業に集中できず、イライラしたり、ケンカをしてしまったり、というのも紛争地の現実だ。そこに、学校での給食支援をする意味があると、安田さんは考えている。

「スナック一つで、教室の雰囲気がとても変わる。スナック目当てで学校に来る子供たちがいてもいいと思うんですよね。学校の中でほかの子どもたちとつながりをもてたら、精神的な孤独から脱することができる」

「ご家族の方は、『子どもたちになんとか教育を』『せめて子どもたちは……』という言葉使いをされる方が大変多い。自国の再建は私たちの世代では無理かもしれない。それならば子どもたちの世代に託したいという願いを語る方もいました」

子供が学校に通うことは避難によって仕事を失った親が社会とつながっていることを感じられる機会にもなっている。なぜなら国によっては難民が仕事することを許可していないところもあるからだ。

あるとき、ヨルダンで避難生活を送っていた若い男性は、仕事をせずに楽をしているだけで、国を悪くしているという偏見に耐えかねて、「自分は毎日死んだように生きている、でもシリアに帰れば死ぬのは一度だ」と告げて、戦闘員として戻ってしまった。

「働けないことで帰る見通しが立たない、帰る見通しがたたないまま働くことができない……、これがいかに人間らしさを奪ってしまうことかを現場にいると強く感じます」

いまヨルダン国内で避難生活を送る人は正式登録をされているだけで約70万人近くに上るといわれる。「自分は社会から必要とされていない」、そのような考えを生み出す状況は歯止めをかけないといけない。

人道支援で紛争は止められる

難民の人たちが人間らしい生活を取り戻すためにはどうすればいいか? 安田さんは自身の体験から大切なものの一つに「食」を挙げる。

「内戦後のシリアを訪れたとき、以前訪れたことのある街はすでに荒廃してしまって、穏やかで平和を愛していた人たちはどこへ、と打ちひしがれました。翌日、まだかろうじて日常があるところを見つけてファラーフェル(ひよこ豆のコロッケ)を食べていたら、日本人がめずらしいのか、『揚げたてだぞ』『ケバブも食べるか』『よかったらキッチンを見ていってくれ』と。私はそれで号泣してしまったんです。店主は何かマズイことをしたかと心配な顔をしていましたが、『私はこの感覚を知っている、これは内戦前のシリアだ、人が全力でおもてなしをしてくれて、みんなでご飯を囲んだときのにぎやかさと一緒だ』と。『食』というのは、そこに詰め込まれた思いや、人とつながった実感を与えてくれる記憶の鍵であると実感しました」

難民の人に「あなたはどうして故郷を離れたの?」といきなり尋ねても辛い思い出を呼び起こさせるばかりだが、食事を作ってもらいながら話を聞くと表情が明るくなって「故郷ではこの食材を入れるのよ」「赤ちゃんにもやさしい食べ物よ」と楽しく、かつ誇らしげに教えてくれたという。学校でもNGOのスタッフが子どもたちにスナックを配ると教室の雰囲気が変わり、中には家に持ち帰って弟にも食べさせてあげたいと話す子も現れた。

「人道支援で紛争はなくならないといわれますが、私はそうではないと思っています」

食は五感で味わうもの。そこには家族や友人との幸せな記憶が宿る。貧困や不自由な生活からくる栄養の偏りを抑えて、身体の健康を維持するとともに、精神的な孤独を脱する力がある。

忘れられた紛争地

中東の一国、アラビア半島の南端にイエメンという国がある。「世界最大の食料危機」が起きているとされる国だ。11年に政情不安が発生し、紛争のために世帯の約45%がおもな収入源を失い、食料不安、栄養失調、病気が襲っている。3,050万人の人口の7割近くにあたる2,010万人に食料が不足しており、特に栄養不良の影響を受けているのが子どもたちで、推定36万人が急性栄養失調とされる。こうした状況のなか食の支援を国連WFPが進めている。

イエメンの子どもたち (c) WFP/Doaa Bahubaish

主な活動は学校への給食支援だ。毎日の食事でカロリーや栄養が不足しがちな子どものために高カロリービスケットやナツメヤシを使った栄養補助食品などを配布している。両親、祖母、弟と暮らすウェジダンさん(12歳)は学校で配られる栄養補助食品がお気に入りで、「大きくなったら医者になりたい」と話す。また、6人兄弟の次女アハラムさん(2年生)は「空爆や爆撃もあるけれど怖くない。大きくなったら医者になりたい」と話す。国連WFPは学校給食支援を通じ、子どもたちにその日の食料を提供するだけではなく、学校への通学をうながし、教育へとつなげることで精神的なサポートを行い、前向きな希望を持てる生活ができるよう取り組みを続けている。

ウェジダンさん (c)WFP/Doaa Bahubaish

給食支援は、崩壊した学校教育のシステムを立て直すための試みでもある。給食があることで親が子供を学校に通わせやすくなり、子どもが「前向きで明るい未来」を取り戻すきっかけにもなる。国連WFPによると依然として内戦の不安が残るイエメンで、給食支援があることで中退しない子どもが増えているという。さらなる学校給食支援を国連WFPは展開し、子どもたちの希望に満ちた未来を応援する。そのための資金や物資が必要だ。

アハラムさん (c)WFP/Doaa Bahubaish

支える人を支える

私たちが紛争地に何か貢献したいと考えるとき、最も身近な手段は寄付だ。支援団体は多くの企業や一般の人々の善意で成り立っている。日本は、海外の先進国と比べて寄付文化があまり根付いていないといわれるが、寄付は社会情勢を知るきっかけづくりにもなる。

「よく『お金を送るだけでいいのでしょうか』と話す人もいらっしゃいます。私は個人が独自に判断して何かを送るより、現場にずっと携わっている支援団体の方々が現地で必要とするものにお金を使うことこそ、確実に困っている人の心に届く支援になると考えています」

また、安田さんはこう続ける。

「支援団体の方々が疲弊してしまっては、つまるところいい支援はできなくなります。『寄付はすべて現地の人に使ってほしい』という意見もありますが、そうではない形で支援の基盤ができたほうが安定します。寄付は“支える人を支える”ものと捉えて、現場へと支援を続けるみなさんの活動の後押しができればと思います」

世界には紛争や戦争によって苦しむ多くの子どもたちがいる。子どもたちの心の成長をうながすには、家族や友人と接して価値を高め合う時間が欠かせない。「食」はそうした場をつくり、微笑みをもたらす希望のもとだ。未来の担い手である子どもたちへの「食」の支援は、平和な世界を生み出す道しるべとなる。

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国連WFPの学校給食支援

(c)WFP/Fares Khoailed

国連WFPは、飢餓のない世界を目指して活動する国連の食料支援機関です。その活動の柱の一つとなっているのが、途上国の学校で栄養価の高い給食を提供する「学校給食支援」です。
国連WFPは、2018年には、71の途上国において、およそ1640万人の子どもたちに給食を提供してきました。いま、国連WFPの給食は世界中の途上国で子どもたちの未来を支えています。どうぞ皆さまのご支援をよろしくお願いいたします。

今日を生きる未来をひらく『給食』を届ける!国連WFPの学校給食支援