ポン・ジュノ監督、主演ソン・ガンホさん記者会見から

第92回アカデミー賞で作品賞や監督賞など最多4部門を受賞した韓国映画「パラサイト 半地下の家族」のポン・ジュノ監督と主演のソン・ガンホさんが2月23日、東京都千代田区の日本記者クラブで会見した。カンヌ国際映画祭でのパルムドールとのダブル受賞という快挙を成し遂げた同作。映画を通して、ポン監督が伝えたかったことは何だったのか。1時間の会見の中で、その一端を語った。(澤木香織)

同作は第92回アカデミー賞で外国語映画として初めて作品賞を受賞。カンヌ国際映画祭で最優秀作品に与えられるパルムドールとのダブル受賞、という快挙を達成した。配給会社の「ビターズ・エンド」によると、日本でも1月10日の公開以降、3月12日時点で動員300万人を超え、興行収入は40億円を突破した。ポン監督とソンさんがタッグを組むのは今作で4作目。180人近い記者が詰めかけた会見は、ポン監督とソンさんがそれぞれ静かに思いを語り、時折笑顔がこぼれる和やかな雰囲気で行われた。

会見で語るポン・ジュノ監督=東京都千代田区の日本記者クラブ、ビターズ・エンド提供

冒頭でポン監督は「受賞したことは喜ばしく光栄ですが、どの国のみなさまも熱く反応してくれたことをとてもうれしく思っています。まずは劇場で映画を見て熱く反応してくださった観客のみなさまに感謝したい」と述べた。

ソンさんは、日本と韓国の映画を通した文化交流が一時期よりも薄まっている現状に触れ「お互いの国の作品に関心を持ち、お互いに声援を送り合える。そんな2000年代初期の頃のような状態がまた戻ってきてほしい。パラサイトが日本でもみなさんの好評を得たように、お互いに文化に対する共感がもてれば良いなと思います」と話した。

質問に答えるソン・ガンホさん=東京都千代田区の日本記者クラブ、ビターズ・エンド提供

 ■予測不能なストーリー展開

パラサイトでは、「半地下」と呼ばれる家で暮らす貧しい一家と、丘の上で暮らす裕福な家族が出会ったことで起きる出来事をユーモアを絡めて描きつつ、後半には思いもよらないストーリー展開で観客を引き込んでいく。

会見で「なにがここまで多くの観客にアピールしたと思うか」と問われたポン監督は、映画祭やプロモーションの過程で耳にした「貧富の格差という同時代的なテーマを描いているから」といった感想を紹介しつつ、こう分析した。

「貧富の格差は見ている人にとってはある意味、居心地の悪くなる部分があるかもしれません。そういった理由ではないような気がするんですね。それ以上に直接みなさまに訴えかけたものは、予測不能なストーリー展開。特に後半の展開が面白い、新鮮だという意見をいただきました。さらにもう一つ付け加えると、俳優の魅力が大きかったと思う。映画で表現された素晴らしい俳優たちのアンサンブルが多くの観客に熱く訴えかけたと考えています」。

「パラサイト 半地下の家族」の一場面。ソン・ガンホさんは、半地下で暮らす貧しい一家の父親を演じた=(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

 ■不安やおそれを率直に映画の中で表現してみたい

そして「映画を通して何を一番伝えたかったか」と問われると、ポン監督は日本、韓国、そして全世界で広がる「二極化」に触れ、こう語った。

「二極化という事実を暴きたかったという意図よりも、未来に対するおそれがありました。私自身、息子を一人育てていますが、私たちが二極化を克服しうるのか、それはたやすいことではないと思いました。私は悲観主義者ではありませんが、いま私が抱えている不安やおそれは、この時代を生きているすべての人々が抱えているものだと思います。私たちが抱える不安やおそれというものを、率直に映画の中で表現してみたいという気持ちがありました」

「パラサイト 半地下の家族」の一場面。ソン・ガンホさんは、半地下で暮らす貧しい一家の父親を演じた=(C) 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

また、映画では「におい」の描写が一つの鍵となり、後半の「予測不能なストーリー展開」につながっていく。

「におい」にフォーカスした理由を問われると、ポン監督は「この映画が貧富の格差というものを描いているのに先立って、人間に対する礼儀が失われたとき、どんなことが起こるかを描いた映画でもある」と説明。

「においというものは、その人が生きている環境や生活、労働条件、どんな状況に置かれているものかあらわすものでもある。だから、(他人のにおいについて)なかなか口に出すことは難しいことだと思います。映画の中では意図せず、においについて話を聞いてしまう。人間に対する礼儀が崩れ落ちる瞬間が描かれていると思う」と語った。

新型コロナウイルスの感染の広がりを踏まえて「現状をどう見ているか」という問いには、ポン監督は過度な不安や恐怖を感じることへの懸念を語り、「国家的または人種的な偏見を加えてしまうと、よりおそろしいことが起きてしまうと思う。もうじきこの状況を賢明に乗り越えられるのではないかと希望的にとらえている」と述べていた。

■ 「寄生」ではなく「共生」を描いている

会見の終盤、映画を作る上での目標や心がけていることを問われると、ソンさんは同作が全米映画俳優組合賞で「キャスト賞」を受賞したことに触れ、「今作は『パラサイト』というタイトルがついているが、私たちがどう生きていけば良いか、どう生きたら良い社会になるのか、『寄生』ではなく『共生』を描いている。俳優組合賞で賞をいただいたということは、そのことが伝わったと実感した」と語った。

そして、「映画を作るにあたって、必ずしも何か大きな意味がなければいけないと、私は思っていません。まずは自分たちが伝えたいストーリーをどのように表現していくか、興味深く表現できるかを探求している」と話した。

カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞した際のポン・ジュノ監督=ビターズ・エンド提供

ポン監督は「私は映画を作るときには実は目標があります。恥ずかしいけれど、告白しなければいけない状況ですよね」と照れつつ、こう話した。

「自分の作品が、クラシックの映画になってほしいという妄想を描いています。クラシックになるということは、映画が時間や歳月を乗り越えていったことになります。キム・ギヨン監督の『下女』、黒澤明監督の『七人の侍』、アルフレッド・ヒチコック監督の『めまい』のような作品を作りたい、という思いなんです」

「そうするために、映画を作るとき、準備をするとき、自分が描いているストーリーと一対一で向き合うことを心がけています。賞を取ったり、興行的に成功してほしいといった不純物がまざることなく、透明な状態で作ることを心がけています」