韓国で昨年放送されたtvNドラマ「ホテルデルーナ〜月明かりの恋人〜」のメイン舞台、「ホテルデルーナ」は、人間ではなく幽霊(死者)が泊まるホテルだ。歌手で俳優としても活躍するIU(イ・ジウン)が社長チャン・マンウォルを務め、ヨ・ジングが支配人ク・チャンソンを務めた。ドラマの中ではソウルのど真ん中、明洞にあるという設定。一度は泊まってみたいと思う、レトロな外観のそのホテルが実際どこにあるのか調べてみると、ソウルからは遠く離れた全羅南道・木浦(モッポ)だった。

ドラマ「ホテルデルーナ」主演のヨ・ジング(左)とIU=エクスポーツニュース提供

ここ数年、私は韓国の映画やドラマのロケ地をめぐる旅を続けている。新型コロナウイルス感染症の影響で数ヶ月は休んでいたが、韓国内では感染者数が落ち着いてきた5月末、木浦へ足をのばした。

そこはホテルではなく、「木浦近代歴史館」だった。赤いレンガ造りの近代建築。見覚えがある気がすると思ったらやっぱり、旧日本領事館の建物だった。木浦で最も古い建物で、1900年に建てられたというから、1910年の日韓併合よりも前だ。1945年の植民地解放後からは木浦市庁舎などに使われ、2014年から木浦近代歴史館となったという。

木浦は1897年に国際貿易港として開港し、かつて日本人もたくさん住んでいた。今も日本式家屋が残る街だ。木浦近代歴史館の中の展示によると、1914年の木浦の人口1万2033人のうち、朝鮮人6991人、日本人4908人、その他134人だったという。4割が日本人だったということだ。

ドラマ「ホテルデルーナ」のロケ地となった木浦近代歴史館=成川彩撮影

木浦近代歴史館の中は1900年に建てた当時から残る暖炉など、昔のままの雰囲気が漂う。ホテルデルーナの外観は木浦近代歴史館だが、豪華な内装は、仁川国際空港近くにある高級リゾート施設「パラダイスシティ」だ。ここもドラマの撮影によく使われ、以前取材で訪れたことがある。近代と現代の合わさった異色の空間が、幽霊が出入りするファンタジーのホテルをよく表現していた。

木浦近代歴史館の裏には、防空壕もあった。太平洋戦争時、空襲から逃れるために作られたと説明があった。木浦にはいくつかの防空壕が残っているという。木浦で実際に空襲があったとは聞いたことがないが、日本人が多く住んでいただけに、狙われると思ったのかもしれない。

さらに歩いて数分のところに、木浦近代歴史館別館があった。ここは旧東洋拓殖株式会社木浦支店の建物だという。東洋拓殖株式会社は1908年に設立された会社で、日本人の移住支援、農場管理や金融などを担ったという。韓国でロケ地めぐりをしていると、美しい近代建築を眺めながら、その背景に日本の植民地支配があることを知って複雑な思いになることはよくある。

木浦まで来たついでに、もう一ヶ所、ロケ地を回った。映画「1987、ある闘いの真実」(2017年)に出てきた「ヨニのスーパー」だ。ヨニはキム・テリが演じた女子大学生だ。残念ながらコロナで店は閉まっていたが、窓越しに中をのぞくと、1987年当時の新聞など映画に登場した小道具が並んでいた。

映画「1987、ある闘いの真実」のロケ地、ヨニのスーパー=成川彩撮影

新聞一面の見出しには、「催涙弾を受けた延世大生死境」とある。延世大生というのは、映画ではカン・ドンウォンが演じた李韓烈(イ・ハニョル)だ。実際、民主化を訴えるデモの最中に後頭部に催涙弾を受け、1ヶ月後に亡くなった。映画でも描かれた通り、これに対する怒りが、大統領直接選挙制を勝ち取った6月民主抗争へとつながった。

ヨニのスーパーは映画の中ではソウルだが、80年代の雰囲気を求めて木浦で撮ることになったのだろう。ヨニのスーパー周辺は、植民地時代には「櫻町」と呼ばれた遊郭の並ぶ街だったという。

どこか懐かしい匂いのする街、木浦だった。日本からは気軽にロケ地めぐりに行けない状況が続いているが、行き来が可能になれば、ロケ地となったそれぞれの街の歴史にも触れてみてほしい。