これまで2回(第22・23回)にわたりお話ししてきた「本人中心のケア」の一環として、今回は、自分の健康問題とのより良い付き合い方についてのお話をしていきます。

今、医療の現場では高齢化などによるニーズの増加や働き手不足、そして厳しい財政状況などによって医療資源が相対的に不足しています。こうした中では、より持続可能な形で必要な人に必要な医療を提供できるよう、忙しい医療機関への過度な負担をできるだけ減らし、医療ニーズの健全化を図ることが重要で、このために予防や健康増進に力を入れていこうとしています。

こうした背景から、イギリスでは近年、自分で自分の健康問題をケアする「セルフケア」に注目が集まっています。

住民や患者が自らの健康問題により主体的に参加していけるように支援していくと同時に、医療サービスを利用する側の人々もできるだけ自分たちで自分たちの健康を管理することに、より責任を持つことが求められています。これらを助けることはプライマリ・ケアの特徴の1つでもあります。

ここでは、セルフケアをより良く行う上で重要となる次の3点についてお話しします。

(1)情報
(2)セルフメディケーション
(3)セルフマネジメント研修

(1)情報

まず、セルフケアをより良く行う上では、情報が欠かせません。これはただの情報でなく、わかりやすくかつ信頼できる情報である必要があります。

しかし現実は、テレビや新聞、インターネットなどさまざまな情報源がある中で、それぞれわかりやすさも言っていることもバラバラ、なかなか選択も難しく、ついつい有名人の話や専門家からの情報に目が行くこともしばしばあることだと思います。しかし、実際のところ、そうした情報が本当に信頼できるかどうかは保証されていないことがほとんどです。情報過多の現代において、信頼できる情報にアクセスするというのはとても難しいのです。

これはもちろんイギリスでも同様ですが、そうした状況の改善に一役買っているのが、「NHS」という一般市民向けの医療情報サイトです。

ここでは、国が科学的根拠をもって厳選した信頼性の高い情報のみが提供されています。インターネットがあれば誰でもいつでも無料で利用できますし、イギリス国外からもアクセスできるので日本からも閲覧可能です。トピックは多彩で、健康的な食生活や運動といった基本的な生活習慣から、腰痛、糖尿病といったよくある健康問題まで幅広く提供されていて、難しい医療情報ができるだけシンプルにわかりやすくまとめられています。

例えば、喉の痛みについて調べると、次のような情報が入手できます。

喉の痛みはとてもよくある問題で、通常、心配する必要がないことが殆どです。一般的には、1週間以内に自然によくなります。

対処方法には以下のようなものがあります(これに関しての動画もあり)。
• 塩分を含んだ温かい水でうがいをする。
• 水分摂取を心がける。
• 食べ物はできるだけ冷たい・柔らかいものにする。
• タバコや煙を吸わないよう気をつける。
• 氷など冷たいものをなめる。
• 休息を取る。

薬剤師に相談してみましょう。
• アセトアミノフェンまたはイブプロフェンを内服する。
• 薬用トローチや喉スプレーを使う。
• これらは医師から処方してもらわなくてもスーパーや薬局で購入できます。

次のような場合には、かかりつけ医を受診してください。
• 喉の痛みがひどい場合や1週間経っても改善しない。
• 何度も同様の痛みがある。
• 喉の痛みが心配である。
• 高熱を伴っている、暑い、悪寒がする。
• 糖尿病や化学療法中などで免疫が低下している。
• 喉の痛みが強い場合や長く続いている場合は、細菌感染症かもしれません。

抗生剤について
• 喉の痛みに抗生剤を処方しても、症状の緩和や回復を早めることはできないので、かかりつけ医は通常、処方しません。
• 抗生剤は、細菌感染の可能性があるとかかりつけ医が考えた場合にのみ処方されます。

こうした情報はNHS App(第15回)というスマートフォンのアプリや、かかりつけ医療機関が提供するオンライントリアージ(第21回)からでもアクセスできます。

また、「NHS111」と呼ばれる健康相談に応えるサービスがあり、インターネット上や111番に電話することで利用でき、いくつかの質問に答えることでそれぞれの人の状況に合ったアドバイスを得ることもできます。今すぐに救急車を呼ぶべきか、医療機関にかかるべきかどうか、迷った場合も、この番号に聞くことができます。

これらに加え、自分自身の診療情報にアクセスすることも可能です。例えば、先にご紹介したNHS Appでは、かかりつけ医での自分のカルテ(病院からの報告書も含む)や検査結果を閲覧することができます。

もちろん、こうしたことは直接かかりつけ医に聞くこともできますが、イギリスではできるだけ上記の方法でセルフケアに関する信頼できる情報にアクセスしてもらうようにしています。

(2)セルフメディケーション

次に、セルフケアには、情報だけでなく、お薬が必要になることがよくあります。お薬というと、医師に処方してもらうこともできますが、医師を受診しなくてもその前に利用できる市販薬が実はたくさんあります。

こうした市販薬は、安いというのが重要です。高いと、利用しにくく、セルフケアがしにくくなるからです。またこれにより、保険証を使って医師に処方してもらう方が安いからと、十分にセルフケアができる状態でも受診してしまい、ただでさえ忙しい現場や限られる資源をさらに圧迫してしまう可能性が高まります。

例えば、イギリスでは、上記のNHSのサイトで、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬を常備薬として推奨していて、実際の現場でも、痛みや熱があったらまず、これらを飲んだか?という質問をすることが日常茶飯事です。

この2つは、比較的どこでも簡単に手に入り、私がいくつかの大手スーパーや薬局で調べたところ、アセトアミノフェンは1錠500mg当たり2〜5ペンス(3〜7円)、イブプロフェンは1錠200mg当たり2〜3ペンス(3〜4円)くらい(通常は一箱当たり16錠)で、かなり安く手に入ります。

一方で、医師が処方する薬は、1種類につき£9.15(約1290円)かかるので、こうした市販でも利用できる薬の場合、あえて処方せずに診療所に隣接する薬局などで市販薬を買ってもらうようにお伝えしています。

(3)セルフマネジメント研修

さらに、なんらかの持病を持っている人を対象にセルフマネジメントに関する研修も提供されています。

慢性的な健康問題を持つ人は比較的よく医療サービスを利用されますが、そういった方々ですら生活の中で実際に医療者と接触している時間はとても少なく、自分で自分の病気を管理している時間がほとんどです。

そうした人たちをより良く支えていけるように、また、人生や健康の目標は人それぞれであり、これに合わせて個別化されたケアが大切になってくるため、患者自身が主体になって健康を管理できるように支援する取り組みが注目されています。

こうしたこともあって、イギリスでは、グループ学習をベースにしたセルフマネジメント研修が全国で広がりを見せています。

そのうちの1つが、エキスパート・ペイシェントプログラム(Expert Patients Programme)と呼ばれるものです。糖尿病、腰痛、うつ病など慢性的な疾患を持つ人がより良く自分の健康問題と付き合っていけるように、セルフケアの力を伸ばし、自立力やレジリエンスを高めていくコースです。

各コース12〜16名で構成されていて、指導する人も同じような疾患を持っているのが基本的な形です。多くの場合、週1回2時間半のセッションに6週間参加します。これらに参加することで、自分の健康状態についてもっと知ることができ、健康管理に役立つ新しいスキルやツールを学ぶことができます。医療サービスのより良い活用方法を学んだり、似たような状況にある人と会うことで、お互いの悩みや対処方法を共有したりできます。

以上になります。

次回は、地域主体のサービスについてお話しします。