11月の米大統領選が近づく中、トランプ大統領関連の暴露本が次々と出版されている。本書は大統領のめいが一族の歴史をつづった回想録。親族による出版差し止め訴訟も話題を呼び、発刊初日に約100万部を売り上げた。

一家の家風が詳しく語られ、ドナルド・トランプという「怪物」を生み出した元凶は、支配的な父フレッド・トランプの教育方針にあったと指摘する。著者の祖父にあたるフレッドは、ニューヨークの不動産開発業で巨額の富を築いた。子どもは3男2女の5人で、次男がトランプ大統領。著者は長男フレディの娘だ。

世の中は勝つか負けるかのゼロサムゲーム。権力を持つ者だけが、物事の善悪を決める。うそをつくことは悪ではなく「生き方」の一つ。謝罪や心の弱さを見せることは負け犬のすることだ――。トランプ家の子どもたちはこう教えられ育った。親の愛情は条件付きで、フレッドの意に沿わないと残酷な仕打ちを受けた。

ドナルドは、幼い頃から素行が悪く、病気がちな母親にも反抗的で、陰で弟をいじめるような子どもだったが、父親の機嫌を取るのが上手で、事業の後継者候補として特別扱いされたという。一方、優しく真面目な長男フレディは、父親の支配に抵抗を試み、民間機のパイロットになったが、父親やドナルドからの執拗(しつよう)な侮辱で精神を病み、42歳でアルコール依存症の合併症で亡くなった。著者が16歳の時だ。

臨床心理士でもある著者は、ドナルドはナルシシストで、反社会性パーソナリティー障害だと分析する。兄を蹴落とし、父親が作り出した世界で成功したが、父親の価値観と残虐さを引き継ぎ、感情面では3歳の頃のままだ、とも。「人間性が根本的にゆがんでいる」と指摘しつつ、この点に著者は同情的ですらある。表題の英語は「多すぎても十分ではない」といった意味だ。大統領の貪欲(どんよく)さへの皮肉にも聞こえる。

著者はトランプ大統領の再選を阻止するために本書を出版したと明かしている。現在の米国は、家族として機能していないトランプ一族の拡大版だと著者は嘆き、叔父が再選されたら、米国の民主主義は生き延びることができないと強く警鐘を鳴らす。トランプ家の「真実」を公にすることは、父フレディへの弔いの思いもあっただろう。著者の闘いは続いている。

■中途半端だった、ボルトン暴露本

今年6月に発売されたトランプ政権国家安全保障担当の前大統領補佐官ジョン・ボルトンの回顧録『The Room Where It Happened』。日本語では「それが起きた部屋」という意味となる。ボルトンが在任した2018年4月から19年9月までの約17カ月間のトランプ外交の裏話が語られている。著者はジョージ・W・ブッシュ政権で国務次官を務め、イランの核開発問題や北朝鮮問題などを担当。強硬派として知られる人物だ。

本書は当初、3月発刊の予定だったが、機密事項が含まれていないかどうかの国家安全保障会議による内容チェックやトランプ政権による出版差し止め提訴などにより出版が先送りになっていた。

ウクライナ、イラン、北朝鮮、中国、ロシア、トルコ、アフガニスタン、ベネズエラも含む世界各国に対するトランプ政権の国家安全保障政策について、潔癖なまでのメモ魔ともいわれるボルトンの記録を元に、トランプ大統領の支離滅裂な行動、各国の指導者とのやりとりや政権内の内輪もめなどが、当時の著者の考えを交えながら語られていく。

すでに日本でも重要事項については報道されているが、中国の習近平(シーチンピン)国家主席に米国の農産物輸入による自分の再選の手助けを直接、嘆願したという新たな事実が暴露されていることはメディアで特に大きく取り上げられた。日本の安倍政権とのやりとりに関する記述が多かったことには驚かされた。各国政府の要人との連絡の詳細は、相手国の人間にとって特に興味深い。

ボルトンは本書の全般にわたって、トランプ大統領が無知で無謀なリーダーであり、国家の利益よりも個人的および政治的な欲求を満たすために自分の権力を利用する人間だと批判している。後書きでは「自分の在任中、トランプが再選のもくろみなしに下した重要な決定を特定するのは困難だ」とまで述べている。

米メディアの評価は、まず、現政権を揺るがすような内容ではないというのが大筋の見解だ。本書の内容の大半は、これまでの報道で公に論じられており、大統領のリーダーとしての資質や人間性を疑う様々なエピソードも、すでに数多くの人々によって暴露されていて、もはや目新しいものではないからだ。

ニューヨーク・タイムズ紙では、発売前から厳しい書評が複数、掲載された。本書は「尊大さと、うぬぼれに満ちている」。「余分な詳細が多く、すべてを語っているのに、決定的なことは何も言っていない」。また、ボルトンが、トランプ大統領の「ウクライナ疑惑」をめぐる米下院の弾劾(だんがい)裁判で証言しなかったのは、手順に不正があったからだと書中で野党・民主党を批判したことについて、「道徳じみた防御」「独善的で利己的」と酷評している。

一方でウォールストリート・ジャーナル紙は、単なる暴露本以上の興味深さがあると、ある程度、好意的だ。ボルトンの外交政策は「米国第一主義」であり、トランプ大統領の方針と一致している。地球温暖化防止のためのパリ協定からの離脱、在イスラエル米国大使館のエルサレムへの移転、時代遅れの米ロの中距離核戦力(INF)全廃条約破棄やイラン核合意離脱などの判断については、ボルトンはトランプの直感力がしばしば適切だったと理解し、それを後押ししていたことを指摘。また、ボルトンの辞任は、大統領と政策面で対立したからではなく、自分が重要な決定から外されるようになったことに耐えられなくなったからだと分析している。レーガン政権およびブッシュ親子の政権で要職を任され、方向性はどうであれ自らの理念を貫いてきたボルトンにとって、政治信条のかけらもない人間に軽んじられることは許しがたい侮辱だっただろう。

弾劾裁判で証言するべきだった情報を自著として出版し、その前金が200万ドル(約2億1200万円)だったことでも、出版社と著者の両方に対する批判があり、本書の取り扱いを拒否している独立系書店もあるという。結局、共和党から悪く思われたくない気持ちが垣間見えてしまう中途半端な暴露本。ボルトンはトランプを糾弾するヒーローになり損ねてしまった。

■再び注目集めた「人種の話をする」本

『So You Want to Talk About Race』は、人種差別問題をどう話し合うかについて書かれた本。発刊は2018年1月だ。20年5月にミネソタ州で黒人のジョージ・フロイドが白人警官に暴行され命を落とした事件以降、再注目され、ベストセラーリストの上位に登場している。表題は「人種の話をしましょう」といった意味合いだ。

著者のイジオマ・オルオは、英ガーディアン紙ほか、さまざまなメディアに寄稿する女性作家。米南部テキサス州でナイジェリア系黒人の父親と白人の母親の間に生まれ、両親の離婚後、母親と弟と米西海岸シアトルに移住。幼い頃の生活は非常に貧しかった。執筆業を始めたのは30代半ば。本書は初の書籍となる。

章ごとに異なる人種の間で差別に関わる話題が出た際に、主に白人から有色人種に対して発せられるよくある問いを提示。それに対する著者の見解を述べると同時に、その問いにどう対処すべきかのアドバイスを提供している。大筋では、白人の読者に向けて、有色人種、特に黒人に対する差別について論じている。

例えば、黒人の大学進学率が低いことや、会社での昇進機会が少ないことについて黒人が差別だと主張したとき、白人からは「それは人種の問題なのか?」という問いが生じる。この質問に対して著者は、有色人種である相手がそれを人種問題だと感じたなら、それは人種問題だと断言する。話し合いを始める以前に、まず白人は、黒人差別が日常に確実に存在していること自体を認めなくてはならないと訴える。

また別の章では、自分が持つ特権を認識することの大切さについて、自らの経験を振り返りながら論じる。著者が「大学卒業」という特権を手にできたのは、周囲の環境や支援が整っていたからこそ。努力をすれば誰もが特権を得られるという考えは間違っている。また、特権とは、誰かの不利益の上に成り立っていると指摘する。例えば、著者のような肌色の明るい黒人は、肌の色が濃い黒人よりも「より知的で危険ではない」と見られる。つまり、著者の特権は、肌の色の濃い黒人が受ける不利益の上に成り立っていると分析する。

アジア系米国人に対する差別に言及しているのも興味深い。米国には、アジア人は勤勉で、子どもの教育に厳しく、経済的にも学問的にも成功し、おとなしくて真面目で無害だというステレオタイプに基づいた「理想のマイノリティー神話」がある。この神話は、中国人と韓国人、あるいは日本人といった主に東アジアの人々を念頭に置いたものだが、アジア系米国人を他の有色人種から切り離すことで、実は他の有色人種に対するのと同じように存在する、白人によるアジア系米国人への差別を覆い隠していると著者は指摘する。アジア系米国人は、そのステレオタイプによる先入観に基づいた会話に頻繁に直面する。例えばアジア系は数学ができて当たり前といった偏見だ。アジア系の学生の割合が高すぎるという理由で、アジア系の学生の合格率を制限している大学も多い。

また、米国人が一般に「アジア系米国人」と言う時、それは理想のマイノリティーとされる中国人や韓国人、日本人だけでなく、フィリピン人やインド人、ベトナム人など東南アジアや南アジア系の、経済的にも社会的にも不利な立場にいる人々も含まれる。そもそも民族も言語も文化も異なる広範な地域の人々をまとめて「アジア系」と呼ぶこと自体に問題があると著者は指摘する。

このほか、白人のフェミニズム活動家から無償で講演を依頼されることに対する反発なども語られている。白人である母親とは30代半ばまで人種問題について正面から話し合ったことがなかったことも告白している。

同様に人種差別問題について学者が書いた、イブラム・X・ケンディの『How to Be an Antiracist(反人種差別主義者になる方法)』や、ロビン・ディアンジェロの『White Fragility(白人の脆弱さ)』と比べると、本書は、個人の経験に基づいたエッセーであるために、人種差別を受けている人間の思いがより生々しく伝わってくる。英語を話せないラテンアメリカからの不法移民やLGBTQ(性的少数者)の人々など、様々な要因で自分よりも弱者となる人々のことにも度々言及し、白人と黒人の対立だけではない、より包括的な差別との闘いの大切さを訴えている。

米国のベストセラー(電子書籍を含むノンフィクション部門)

8月16日付The New York Times紙より

『 』内の書名は邦題(出版社)

1 Too Much and Never Enough

『世界で最も危険な男』(小学館)

Mary L. Trump メアリー・L・トランプ

トランプ大統領のめいが家族の歴史と現大統領の人格を生み出した背景を語る。

2 White Fragility

Robin DiAngelo ロビン・ディアンジェロ

白人はなぜ人種の話になると自己防御的な態度を取るのかについての分析。

3 On Tyranny

『暴政:20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン』(慶応義塾大学出版会)

Timothy Snyder ティモシー・スナイダー

独裁国家が台頭した20世紀の歴史から学べる教訓を紹介。

4 How to Be an Antiracist

Ibram X. Kendi イブラム・X・ケンディ

反人種差別主義者となり、より公平で平等な社会を生み出すための入門書。

5 Untamed

Glennon Doyle グレノン・ドイル

元女子サッカー米代表アビー・ワンバックを伴侶にもつフェミニズム活動家の回想録。

6 The Answer is...

Alex Trebek アレックス・トレベック

カナダ系アメリカ人で米人気クイズ番組「ジェパディ!」司会者の回想録。

7 Begin Again

Eddie S. Glaude Jr. エディ・S・グロード・ジュニア

作家ジェームズ・ボールドウィンの活動を検証し、現在の反黒人差別運動を論じる。

8 How to Destroy America in Three Easy Steps

Ben Shapiro ベン・シャピーロ

米保守派の論客が米国の歴史と理想と文化について持論を展開。

9 The Room Where It Happened

『ジョン・ボルトン回顧録 トランプ大統領との453日』(朝日新聞出版から10月7日発売予定)

John Bolton ジョン・ボルトン

トランプ政権の元国家安全保障補佐官が、トランプ政権の外交政策の裏側を暴露。

10 So You Want to Talk About Race

Ijeoma Oluo イジオマ・オルオ

白人と黒人を両親に持ちシアトルを拠点に活動する作家が人種差別主義を語る。