世界経済フォーラムが国ごとの男女格差を指数化した「ジェンダーギャップ指数」で、日本が過去最低の153カ国中121位という結果が出たのは昨年の12月だった。政治、経済、教育、健康の4分野のうち、特に格差が大きいのが政治分野だ。今年9月に発足した菅義偉内閣に女性閣僚は2人、与党自民党の党4役も全員が男性で、格差の是正にはほど遠い状況だ。ただ、変化の兆しもある。政治とジェンダーの関係を研究し続けてきた三浦まり・上智大学教授に、日本の政治の現在地と、どうすれば変わるかを聞いた。ヒントの一つは、地方議員のキャリアの形を変えること、だという。(聞き手・澤木香織)

■日本の政治のジェンダーギャップ、その現在地

国会議員に占める女性議員比率=編集部作成

――まず、ジェンダーギャップ是正に向けた日本政治の現状をどう見ていますか。

女性閣僚の少なさは、そもそもの女性議員の少なさを反映しています。海外では1990年代から女性議員が大きく増え、ここ10年でさらにアクセルを踏んでいます。しかし日本はここ10年、完全に停滞し、世界との格差が広がりました。一方で、ここ1、2年でこのことが大きく問題視されるようになりました。そこに、社会の意識の変化を感じています。

――そもそもなぜ、日本では国政、地方議会ともに女性議員比率が世界と比べて低いのでしょうか。

ひとつは(議員・閣僚などの一定数を女性に割り当てる)「クオータ制」をしていないことが挙げられます。世界ではすでに、130カ国近くが導入しています。制度を整えることで、女性議員を増やしているんですね。

もうひとつのかぎは、地方です。地方は国政よりも政党間競争が少ない。野党が強い傾向のある都市部では女性議員の割合が3、4割のところは珍しくなく、参院も2割にのぼります。クオータ制がなくても、比例代表制のように多様な民意が反映されやすい選挙制度になっていたり、人口の流動性のある都市部であったりすれば増えていきます。

しかし、古くからの住民が多く、新しい住民が入ってこない地方では、地域の権力構造がそのまま議会に反映されます。地域の権力構造というのは男性が多い。その地域の代表として議員になるという考えが強いため、男性しかメンバーシップにないなかで、女性が議員になることは難しい。そういった地域の権力構造を反映しているのが自民党です。

女性議員割合の推移(日本と主要国との国際比較)=内閣府男女共同参画局「諸外国における政治分野の男女共同参画のための取組」

――冒頭で、「ここ10年間、完全に停滞している」と指摘されました。なぜ停滞したのでしょうか。

日本では政権交代が少ないことが最大の理由です。どの国も政権交代があるタイミングでぐっと女性議員が増えています。

民主党政権を生んだ2009年の総選挙の結果、衆院の女性比率が11.3%に上がり、2012年に自民党政権に戻ったときに7.9%に下がりました。その後、自民党は2回総選挙に勝つわけですが、(小選挙区制では)現職が強い傾向があるので、同じ政権が勝っている限りはそこまでドラスティック(劇的)には変わりません。

中道左派政党の方がジェンダー平等に熱心な傾向があるので、女性議員は多い。中道左派政党が政権を取って女性議員が増えると、今度は野に下った保守政党も増やすようになります。アメリカでも今回の連邦議会選挙で、女性議員が増えました。2018年の中間選挙では民主党が女性候補を増やし、今回は共和党が女性候補を増やしたんですね。そういうダイナミズムの中で女性が増えていくわけです。

■「121位」の衝撃と#MeToo運動

大阪でのフラワーデモで、ミモザの花を手に性被害について語る女性=2020年3月8日午後、大阪市北区、金居達朗撮影

――男女の格差に社会が気づき、意識が変化したポイントは何だったのでしょうか

最も大きいのはやはり、2019年12月に出た「ジェンダーギャップ指数121位」という数字だったと思います。女性閣僚が2人しかいないことは、これまでの日本の政治状況からすれば珍しくなかった。0人のときもあったわけです。

でも今回、多くの人が問題視し、総裁選の候補に女性議員がいなかったこと、野党も女性が多いわけではないことも取りざたされるようになりました。

その前には#MeToo運動があり、それまで表面化してこなかった女性の声が可視化され、社会がゆっくりと問題に気づいていきました。日本は他国と比べると#MeToo運動が広がっていないという指摘がありましたが、(性暴力のない社会を訴える)「フラワーデモ」が続いたことは大きかったと思います。

フラワーデモがなぜ起きたかというと、女性への性暴力事件の無罪判決が全国で4件出て、「こんなひどいことがあるのか」とみんな思ったから。そして、それが報道されたことで問題を知ることができたわけです。一般人の無罪判決は記事にはなりにくい。これまでだったら小さくしか載らなかったり、記事にもならなかったりしたかもしれない。

記者がキャッチできたのは、2018年に財務省の事務次官が女性記者にセクハラ発言を繰り返したという問題があり、伊藤詩織さんの件もありました。こうしたなかで、メディアの女性たち自身がセクハラの対象になっていることに気づき、連携を深めた。そうした流れのなかで、無罪判決の報道があり、フラワーデモが続き、世論が変わっていった。そういう何層もの積み重ねがあったと思います。

――政府は、今後のジェンダー平等の実現に向けたベースとなる「第5次男女共同参画基本計画」を年内に閣議決定する予定です。策定にあたり専門家がまとめた「基本的な考え方」には、市民の声を反映する形で緊急避妊薬の市販検討が盛り込まれ、選択的夫婦別姓制度についても踏み込んだ記載がありました。(編集部注=取材した11月下旬時点。政府は12月25日に基本計画を閣議決定した。選択的夫婦別姓については当初案から後退し、「更なる検討を進める」という表現にとどまった)。市民の声を政策に反映していくためには、どんなことが必要でしょうか。

「基本的な考え方」には、パブリックコメントが今まで以上に集まり、その内容が反映されました。市民参加のプロセスとなったことはとても良かったと思います。

その上で、政治と社会との対話がもっと必要だと思います。市民から見えない「ブラックボックス」の中で決めるべきではありません。選択的夫婦別姓については、7割の人が賛成しているという調査結果が出ています。緊急避妊薬は若い女性の声をもっと聞くべきです。

選択的夫婦別姓や緊急避妊薬の市販検討に反対している議員は、どうして反対するのか、市民の前でもっと語るべきだと思います。それを聞いて、市民側が納得するのか、それともやはり市民の声を政治に反映すべきだと思うのか、考える。そういった対話が重要だと思います。

■地方、政党、雇用…どう変えるか

――海外で女性議員の増加につながったクオータ制度について、導入が進んだ原動力は何だったのでしょうか。

多くの国で、女性運動が原動力になりました。女性が意思決定に入ることの重要性を噛みしめる女性たちが動いた。でも、権力を持っているのは政党の男性なので、どの国でも政党は最初は前向きではありません。それでもクオータの導入を決意したのは、自分たちが率先して「クオータをやる」と言えば票が取れると踏んだからです。どこの国も、そういった戦略的な視点が男性の背中を押した。有権者の関心がないと思えば踏み切りません。世論を喚起し、世論が追い詰めていくことが重要です。

――権力者に「取り組むことがアピールになる」と思わせる戦略は大事だと思います。

前回の参院選の出口調査からは、特に30代の女性有権者が女性候補を支持したことが明らかになりました。選挙は勝ってなんぼですから、票につながることが一番強い。競争が激しく、票を積み上げなければならないところを戦略的に見つけて、女性票を可視化することが重要です。

記念撮影のためレッドカーペットが敷かれた階段を下りる菅義偉新首相(前列中央)と閣僚たち=2020年9月16日午後10時18分、福留庸友撮影

――自民党の選挙対策委員会が今秋まとめた提案書には、2030年までに同党の国会議員や地方議員に占める女性の割合を3割にするという数値目標の導入が盛り込まれました。停滞状態を変えられるでしょうか。

数値目標を掲げたことは、非常に画期的な試みだと思います。10年以内に3割にするためには、10年の間に3回総選挙があるとして、1回で16議席ずつ女性議員を増やさないといけない。全国11の比例ブロックの第1位を女性にして、新人を立てる小選挙区の半分以上は女性候補を立てる。

そういったことを具体的にやる必要があることが見えてきました。具体的にやれば変わる。だからあとは、菅首相が本気になるかどうか、だと思います。

――先ほどあげた男性が多い地方の権力構造を変えるにはどうすれば良いでしょうか。

「なり手不足」にアプローチすることですね。地方には、女性もいないけど、男性も高齢者しかいない。地方議会の空洞化は待ったなしです。経済的な疲弊も進んでいる。地方政治を魅力的にするため、女性や若者を含め、色んな人が選挙に出られるように変えていく。

そのために私が必要だと思うのは、多選禁止です。県議会だと7、8期のベテランもいる。そこに1期目の女性議員が来ても、発言しにくい。首長も地方議員も多選禁止にすることで流動化を進める。私は「2期まで」で良いと思いますが、せめて「4期まで」から始めてはどうでしょうか。

何年か議員をやって、また仕事に戻っていく。議員を辞めた後のキャリアプランを築ける社会に変わる必要があります。人生の一時期、議員の仕事をやってみようという人が出てくると、議会に様々なバックグラウンドを持った人が入り、地域社会に新しいアイデアが還元される。いままでの既得権益の政治では限界だと多くの人が気づいていると思うんですね。目指すのは、そうした方向性ではないか、と思っています。

――議員という仕事が、キャリアのなかの選択肢として選べるような仕組みもあると良いですね。

これまで日本は終身雇用だったので、議員になることによって、失うものが多過ぎました。少なくとも選挙期間は雇用を保障したり、1期目までは元の仕事に復職できたりするといった形で、挑戦できる人を増やすこともできるのではないでしょうか。

いまは、本当に限られる人しか選挙に出られません。議員を辞めた後の展望が描きにくいから、しがみつく人もいる。もっと政治の世界に入りやすく、また出やすくすることが必要だと思いますね。

雇用制度自体が、副業や兼業をしやすい方向に進んでいます。そうなると、議員と別の仕事の両立はしやすくなる。色々な可能性を社会全体で探る必要があると思います。

(続く)

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