「韓国のハワイ」とも呼ばれている済州島。中心部にある漢拏山(1950メートル)が世界自然遺産に指定されるなど、豊かな自然景観が広がる。九州に近く、日本人観光客にも人気のリゾート島は旧日本軍の拠点でもあった。その痕跡は、いまも島に残る。島内には自然景観を楽しみながら散策する「オルレ」というトレッキングコースがある。オルレは方言で「大通りから家に通じる狭い路地」を意味する。その一つ、島南西部の海岸近くを歩いた。

一帯に広がる畑地に、かまぼこ形をしたコンクリート製の古びた建造物が見えてきた。旧日本軍が軍用機を敵の攻撃から守るために建設した掩体壕(えんたいごう)で、19基が当時のまま残る。地元ではアルトゥル飛行場(①)と呼ばれる旧日本海軍の航空基地だった。日中戦争時は南京や上海への爆撃のため出撃し、太平洋戦争末期は本土決戦に備える拠点となった。「不幸な歴史を子どもたちに教えるために来た。戦争を繰り返さないためにも、こうした建造物は保存し続けなければならない」。島内の小学校から、生徒たちを引率して見学に来ていた50代の女性教師は語った。

飛行場から東へ2キロほど歩くと海岸に出た。松岳山の崖下にいくつもの洞窟、松岳山・陣地洞窟(②)が見える。太平洋戦争末期、旧日本軍の人間魚雷「回天」の出撃拠点のために掘られた。韓国の時代劇「宮廷女官 チャングムの誓い」の撮影にも使われたが、現在は立ち入り禁止。島内には、朝鮮戦争の前後、軍や警察が民衆を共産主義の同調者とみなして虐殺した「4・3事件」の痕跡も残る。オルレを整備する徐明淑さん(62)は「自然の中を歩いて美しい景観に癒やされながら、悲しい歴史に触れる。そんなダークツーリズムを続けたい」。

海に面した崖には、旧日本軍が掘った洞窟が残っている=鈴木拓也撮影

外交の舞台にもなった。2004年に当時の小泉純一郎首相と盧武鉉大統領が首脳会談を行った済州新羅ホテル(③)へ。島を代表する高級ホテルの自慢の一つは、高台から海を見下ろせる広々とした庭園だ。映画「シュリ」のラストシーンに登場するベンチには、小泉氏と盧氏も座った。済州国際平和センター(④)にはベンチに座る2人をはじめ訪れた著名人のろう人形が展示される。「韓日関係が悪くなって残念。この島がまた、友好のために貢献できたらいいのに」。ボランティアで案内係をする金明淑さん(62)はそう話した。

済州国際平和センターには、ベンチに座って歓談する小泉純一郎首相と韓国の盧武鉉大統領を再現した、ろう人形が展示される=鈴木拓也撮影

特産物みかんも、日本とゆかりが深い。60〜70年代に島出身の在日韓国人たちが故郷の発展を願い、日本から苗木を送ったり栽培技術者を招いたりした結果、品質が向上した。みかん博物館(⑤)に行けば、みかんの歴史などが学べる。世界の100種類以上のみかんが展示される。漢拏山のふもとに広がるみかん農園は、日本の原風景と重なり郷愁を誘う。

みかん博物館の敷地内で栽培されるみかん=鈴木拓也撮影

■海の恵みを堪能

済州島では、玄界灘でとれた新鮮な海産物を堪能できる。

夕食は、知人に薦められた島南西部にある刺し身料理屋の南京味楽(⑥)へ。金泳三氏、盧武鉉氏といった歴代の韓国大統領も愛した名店だ。
平日の午後5時半に訪ねると、すでに家族連れやカップルらでにぎわっていた。外のベンチに座り、溶岩ドームの山房山と海が夕日に染まる絶景を楽しんだ後、再び店内に。

南京味楽で食べた天然クエの刺し身

いけすで泳ぐ天然のクエを選んだ。高級魚だけあって1キロ22万ウォン(約2万円)と値は張ったが、脂の乗った刺し身は絶品。地元の焼酎との相性もいい。

アワビの刺し身やサバの煮付けなど、いろんな海の幸を味わえる。

■絶景の世界遺産

海の火山活動でできた城山日出峰。30分ほど歩けば頂上まで登ることができる=鈴木拓也撮影

火山活動で生まれた済州島は、「済州の火山島と溶岩洞窟群」が07年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界自然遺産に登録された。その一つが、5000年前に浅い海で起きた火山活動により形成された城山日出峰(⑦)。標高180メートルの頂上までは30分ほどで登ることができ、絶壁に囲まれた噴火口を見られる。早起きをすれば、海原を赤く照らす日の出も楽しめる。

済州島を代表する景勝地のソプチコジ。建築家の安藤忠雄さんが設計したガラス張りの建物「グラスハウス」がある=鈴木拓也撮影

済州島のほぼ最東端に位置するソプチコジ(⑧)。03年のテレビドラマ「オールイン」を始め、韓流作品のロケ地にもよく使われてきた済州島を代表する景勝地には、建築家・安藤忠雄さんが設計した「グラスハウス」が周囲の海や草原の景観に溶け込む。V字形をしたガラス張りの建造物の2階には、眺望が人気のレストランがある。(鈴木拓也)