ここ数年で世界中の注目が集まり、一般にもその言葉が知られるようになった「海洋プラスチックごみ」。環境によくないことは分かりつつも、その実態については、実はまだ分かっていないことがたくさんある。GLOBE+は4月、深海のプラごみの実態を調査する海洋研究開発機構の中嶋亮太さんと、バリ島を拠点に社会起業家を支援している濱川明日香さんを招いて、研究の最前線と解決策を探るオンラインイベントを開催。知っているようで知らなかった実態を学び、日常でできる解決に向けた取り組みを考えた。

濱川明日香さん(左)と中嶋亮太さん

プロフィール

中嶋亮太さん 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)副主任研究員。博士(工学)。1981年、東京都生まれ。創価大学大学院修了後、同大学助教、JAMSTECポストドクトラル研究員、米国スクリップス海洋研究所・海外特別研究員を経て、2018年から現職。深海や外洋をターゲットにプラスチック汚染の広がりや生物への影響を調べている。人気ウェブサイト「プラなし生活」を運営。

濱川明日香さん 一般社団法人Earth Company代表理事。ボストン大学卒業後、外資系経営コンサルタントとして勤務し、ハワイ大学大学院にて太平洋島嶼国における気候変動研究で修士号取得。国内外のNGOで気候変動や災害支援に携わり、2014年に夫と、アジア太平洋の未来を変えるチェンジメーカーを支援するEarth Company設立。現在はバリ島ウブドに夫と4人の子供と暮らしつつ、Earth Companyと、究極のエシカルホテルMana Earthly Paradiseを運営する。

■海のプラごみ、実は99%が行方不明

記事末尾で、オンラインイベントのダイジェスト動画を配信しています。

=JAMSTEC提供

深さ6千キロ付近の深海に、レジ袋が漂う。中嶋さんが所属する海洋研究開発機構が2019年、房総半島から500キロ沖の深海を調査した際に撮影したものだ。1984年製のレトルト食品のパッケージもほとんど劣化していないままで見つかった。

=JAMSTEC提供

「海に浮かぶプラスチックごみは氷山の一角。行方不明のごみを探しに行くのが、私たちのミッションです」と中嶋さんは話す。

美しい海岸線にプラごみが浮かび、生き物に絡みつく――。ここ数年、そうした光景を目にする機会が増えてきた。しかし、私たちが見ているものはほんの一部で、世界中で海に流れ出たとされるプラスチックのうち99%は「行方不明」なのだという。

=JAMSTEC提供

機構が調査した房総半島沖は、東アジアから流れてくる黒潮がうずをまき、ごみがとどまっているのではないかと予測されていた場所だった。調べた結果、1平方キロメートルのうち多い場所で7千個ものプラスチックごみが見つかった。

■海のプラごみ、なぜ注目?

海のプラごみに世界の注目が集まったきっかけが、米国の研究チームが2010年に世界で生産されたプラスチック2億7千万トンのうち、少なくとも480万トン、多くて1270万トンが海に漏れ出たとの試算を2015年に発表したことだった。

翌16年の世界経済フォーラムでは「2050年にプラごみの量が魚の量を超える」との警告が出され、世界に衝撃を与えた。

さらに「大きな転機となった」と中嶋さんが解説するのが、先進国が輸出するプラごみの受け入れを中国がやめたことだった。東南アジアの国々も続いた。

2019年には有害廃棄物の輸出入を規制する国際条約「バーゼル条約」が改正され、汚れたプラごみの輸出が法的に制限されることに。その結果、各国に行き場のないプラごみがとどまることになった。

■なぜプラごみが海に?

そもそもなぜ、プラごみは海に流れ出るのだろうか。中嶋さんは「大量生産・大量消費」と「管理の不徹底」の2つを理由としてあげる。

世界では年間、3億3500万トンのプラスチックが生産されている(「プラスチックヨーロッパ」調べ、2016年)。これは、東京スカイツリー9300個分に相当する重さだ。

日本のように管理システムが進んでいる国でも、集積場のごみ箱からあふれたり、風で飛ばされたりし、海に出てしまうものもある。

プラごみが与える影響は大きい。海の生き物に絡まったり、サンゴ礁におおいかぶさったり。海運業や観光業への影響もある。生き物が微小な「マイクロプラスチック」を食べることで、食物網を通じて有害な化学物質が人間に悪影響を与える懸念もある。

■アジアの国々の現状は

これまで先進国からのプラごみの輸出先ともなってきたアジアの国々はどうか。濱川さんに、その現状を聞いた。

=濱川さん提供

濱川さんが暮らすインドネシアのバリ島は、廃棄物の処理システムが整っていないため、十分に分別できていないごみが積み上がった「ごみ山」があるという。周辺はスラム街になり、子どもたちも暮らす。健康被害の問題もあるという。

アジアで社会的投資に取り組む人や組織のネットワーク「アジアン・ベンチャー・フィランソロピー・ネットワーク」の調査によると、陸から海に流れ出るプラごみのうち6割が中国、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナムの5カ国から排出されているという。5カ国の排出量は2025年までに2倍以上になるとの予測もある。

濱川さんはその背景に、ごみ処理のインフラの欠如や、市民レベルでの知識の不足をあげた。もともとインドネシアなどでは、捨てても自然にかえる自然由来の素材の製品を使って暮らしていた。その後プラスチック製品が広がってからも、以前のようにそのまま捨ててしまうなど、環境意識はまだ十分には浸透していない。

「プラスチックは自然にはかえらないことなどの教育が急いで進められている」と濱川さんは話す。

■解決策は

解決のヒントはどこにあるだろうか。

中嶋さんは「とにかく使う量を減らすしかない」と強調した。
環境省の発表データによると、日本のプラスチックごみの排出量は年間940万トン(2013年)。7割近くが焼却されている。

=中嶋さん提供

リサイクルは25%を占めるが、実はそのうち7割が海外に輸出されていた。前述の通り中国など各国が受け入れを規制したため、国内で行き場を失うプラごみが増えている。

「とにかく使う量を減らす」。そのために中嶋さんが研究のかたわら実践するのが、「できるだけプラスチックを使わない暮らし」だ。友人と運営するサイト「プラなし生活」で、様々な工夫を紹介している。

=中嶋さん提供

取り組みを始めたきっかけには、2016年から2年間暮らした米カリフォルニア州での体験があった。中嶋さんが学んでいた大学でも、ペットボトルではなく「マイボトル」を持ち歩く人が多く、キャンパスマップには水を給水できる場所が載っていた。「使い捨てのものを使うことが『ださい』という雰囲気がありました」と話す。

自然由来の素材を使ったプラスチックの代替品=濱川さん提供

濱川さんは、プラスチックの代替素材を紹介した。世界のスタートアップ企業も注目する分野で、海藻やバナナの葉を使った日用品も登場している。

ただ、「生分解(微生物などの生物の作用により分解すること)」するとうたっていても、実際の効果に疑問があがるものもあるという。
そして濱川さんが解決のために最も重要な点としてあげたのが、プラスチックの生産から処理までの流れをどう変えていくか、だ。

サーキュラーエコノミーのイメージ=Plastic Oceans International (https://plasticoceans.org/rethink-plastic-circular-economy-solution/)

「作って、使って、捨てる」という一直線の流れではなく、廃棄物でまた何かを作るサーキュラー(循環型)のサイクルにしなければならないと指摘。「私たちがいまと同じような生活を続けていれば、サーキュラーに変えたところで(環境は)もたないと言われている。ここからが人類と社会のチャレンジになると思う」と語った。

■「楽しむ」ことが続けるカギ

イベントの終盤は、中嶋さんと濱川さんに視聴者からの質問に答えてもらった。

「できることからやりたいけれど、どんなモチベーションでやっていますか」。毎日ゴミ拾いをしているという視聴者から寄せられた質問。濱川さん、中嶋さんともに共通していたのが「楽しむ」というアドバイスだった。

濱川さんは、自宅のキッチンに置いてある、食材や調味料を詰めた瓶を紹介。ごみを減らすため、量り売りの店で買った食材や調味料を、瓶に移し替えているという。その手間はかかるものの、「飾っているとインテリアとしてかわいい。良いことをしているような気もして気持ちが良いんです」。

中嶋さんも「とにかく楽しむこと。完璧を求めない。周りの目を気にしない。楽しいことをしているから大丈夫です」と語った。

=オンラインイベントの様子