中国はいま、再生可能エネルギーの分野で世界の主導権を握ろうとしている。太陽光発電の分野では世界一の生産量をほこり、風力発電でも欧州のメーカーを猛追している。その先にあるのは、東南アジアや、中東、アフリカといった国への輸出を通じた、再エネ分野の「一帯一路」だ。(平井良和、奥寺淳)

中国江蘇省の南通市如東県の海岸から、海に向かって一直線に延びる橋。荷台からはみ出す風力発電の巨大なタービンを積んだ大型トラックが、立ちこめる霧の中に消えていった。

3キロ先の海上には「風電母港」と名付けられた人工島がある。2020年から本格的な運用が始まったこの島は、洋上風力発電の風車の組み立て、修理専門の中国初の「基地港湾島」だ。開発に20億元(約330億円)が投じられた。

霧の間からのぞき見える人工島には、所狭しと風車の羽根などが並べられ、支柱をつり上げるための800トン級の二つの巨大クレーンがせわしなく稼働している。5000トン級の船が接岸でき、出荷量は最大で1日3000トン余りという。島の周辺にはすでに年間売り上げが250億元(約4130億円)に達する広大な風力発電設備の産業区がある。南通市政府は昨夏に開いた関連企業の誘致説明会で「ここ5年で世界の風力発電産業が黄金期を迎える中、南通は世界の洋上風力のリーダーになる中国の主力部隊だ」と誇った。

人工島へと続く道路上で出荷を待つ風力発電の風車=2021年1月23日、中国・江蘇省南通市如東県、平井良和撮影

安定した風にめぐまれ、騒音問題も少ない洋上風力は、世界中で大都市が林立する沿岸部の電力需要を支える切り札と目され、各国が技術革新と生産の加速化でしのぎを削る。

こうした洋上風車を専門とする「基地港湾」は、内陸輸送の手間を省いて生産効率を上げ、部品の生産工場や設置後のメンテナンス、修理の企業が集積する一大産業区の中核港となり、大きな経済効果を生む。10年代後半から欧州で先行して開発が進み、中国が後を追う。

世界風力会議(GWEC)のまとめでは、中国で20年中に新規導入された洋上風力の発電容量は約3ギガワット。その年の世界全体の新規導入のおよそ半分を占めた。技術力ではまだ欧州を追う立場だが、累計導入量でもトップの英国に迫ろうとしている。広大な国土を持つ中国は陸上風力が中心だが、それでも江蘇省の人工島のほかにも山東省、浙江省、広東省など10カ所近くで次々に巨大な基地港湾の整備計画を進める。

山の尾根に沿って建てられた「龍源電力」の風車。風を受けて勢いよく回っていた=2021年2月4日、中国広西チワン族自治区、ドローンで奥寺淳撮影

その狙いは、周辺の国々を含めた将来の市場だ。国際エネルギー機関(IEA)の19年の洋上風力発電に関する報告書では、40年に世界の総導入量は18年の24倍にあたる562ギガワットになると予測されている。海に囲まれた国が多く、導入が進んでいないアジアは特に潜在力がある。

昨年11月、南部の広西チワン族自治区の欽州市と独シーメンスが共同で進めることになった基地港湾開発の調印式で、同市トップの共産党委員会書記の許永は「東南アジアの国々の洋上風力発電の母港として、共にウィンウィンの発展をしていく」と語った。中国最南の立地を生かし、今後数十年間に設置が進むであろう東南アジア市場を開拓し、そうした「顧客」の修理やメンテナンスも請け負って、洋上風力のサプライチェーンを握っていく構想だ。

風力発電機の基幹部分を積んで、洋上風力の組み立てや修理を専門とする人工島へ続く道に入るトラック=2021年1月23日、中国・江蘇省南通市如東県、平井良和撮影

最大のエネルギー消費国の中国にとって、化石燃料が自然エネルギーへと塗り変わっていく世界の流れは、自国の立ち位置を変える好中機だ。中国企業はすでに太陽光パネルや、陸上風力発電機の出荷量で世界トップ10に多くが名を連ね、影響力を持っている。特に太陽電池は中国の独壇場で、19年の出荷量で全世界の6割以上を占めた。風力発電よりも短期間で建設ができる利点を生かし、中東やアフリカでも中国資本の巨大太陽光発電所の建設が進められている。

20年に27ギガワットの太陽電池生産能力を持ち、世界の全出荷量の2割近い能力を持つ、「通威グループ」(本社・四川省成都)はもともとは水産飼料会社だったが、15年ほど前にこの業界に参入し、世界のトップ企業になった。

四つある生産拠点のひとつ、成都の郊外にある「双流基地」。甲子園球場の20倍にあたる約80万平方メートルもの巨大な敷地に生産工場が並ぶ。中には長さ200メートルの太陽電池の基幹部品である単結晶シリコンの生産ラインがあった。自動化が進み、人影はほとんどない。ロボットが材料を運び、結晶シリコンが貼られた一辺約16センチの板が次々と機械に送られて製品化されていた。検品には人工知能(AI)が取り入れられ、徹底的な効率化が進められていた。

通威グループの工場「双流基地」では、ロボットが材料を運び、結晶シリコンが貼られた一辺約16センチの板が次々と機械に送られて製品化されていた=2021年2月、四川省成都、奥寺淳撮影

かつて北京大大学院で再生可能エネルギーを研究した、同グループの劉漢元主席はいう。「私たちは日本とドイツを一生懸命追いかけてきた。技術力は高まり、市場規模のメリットもある。いま中国は世界で最も競争力がある」。太陽光と風力の製造業が中国に集中しているのが強みだといい、日本を含む世界への輸出拡大に強い意欲を示す。

インタビューに答える劉漢元・通威グループ主席=2021年2月、四川省成都、奥寺淳撮影

これは、習近平指導部が目指す方針でもある。習主席は昨年4月、「発電施設、新エネルギーなどの分野で『キラー技術』をつくりあげ、優位な産業における世界の先端の地位を強固にし、世界のサプライチェーンの中国への依存度を高めなければならない」と指示。中国エネルギー政策研究院の林伯強院長は「中国の製造業は自ら造った製品が全世界に広がっていくことを思い描けている。当面のターゲットはアンチダンピングの恐れが少ない『(巨大経済圏構想)一帯一路』の協力国になるだろう」と話す。

四川省の西昌で通威グループが展開する貯水池上の太陽光発電。魚の養殖とあわせて収入を増やすプロジェクト=通威グループ提供