子どもから大人までなじみの深い日本のお菓子「亀田の柿の種」。それが今、インドで「カリカリ」という商品として進化し、柿の種文化を広げつつある。国内の米菓市場でトップを走る亀田製菓(本社・新潟市)で、食品事業や海外戦略のかじ取り役を担っているのは、インド人の副社長だ。(目黒隆行)

■インドで進化 輸出も始まる

インドで販売されているカリカリ。フレーバーは左からソルトペッパー、ワサビ、スパイスマニア、チリガーリック(亀田製菓提供)

インド版柿の種「カリカリ」は、2020年1月に販売が始まった。亀田製菓が現地企業と合弁会社を設立し、工場も現地に新設。デリーのほか、ムンバイやベンガルールなど主要都市の1000以上の店舗で販売されている。

135グラム入りで99ルピー(約140円)と、インドでは少し高級なお菓子という価格だ。思いがけずコロナ禍の影響を受けているものの、販売当初から約1年で売り上げは4〜5倍増となり、オンラインや自販機での販売も始めるなど、インドでじわじわ柿ピーファンを増やしている。

日本で売られている「亀田の柿の種」と比べると、粒が大きく、そして硬いのが大きな違いだ。ピーナツとの比率も65対35(日本は7対3)と細かく刻む。事前に行った現地市場調査の結果から、カリッとした歯ごたえを好むインド人に合わせて硬めにし、味もスパイスマニア、チリガーリック、ワサビ、ソルトペッパーの4種類に。特に人気があるのはワサビとソルトペッパーだという。

原料にはインドでとれたコメを使う。ベジタリアンが多いことから、日本で使われている卵やかつおだしなど動物由来の成分は4種すべてで使っていない。ベジタリアン向け商品につけられる、インドでは一般的な「ベジマーク」がつけられている。

インド版亀田の柿の種の「カリカリ」。スパイスマニア、ワサビ、ソルトペッパー、チリガーリックの四つの味がある

ソルトペッパー味を食べてみる。日本の柿の種が「パリパリッ」といった食感なら、インド版は「ボリッボリッ」という感じだろうか。ペッパーの風味がピリッときいていて、あとから辛さがやってきた。そこにピーナツが絶妙に合うのは日本のものと同じだ。インドカレーのように、スパイスをきかせるのがやはり決め手なのだろう。

カリカリはコロナ禍でインド国内の営業が難しくなる中、「それなら海外に」と販路を広げた。今年に入り、UAEやオーストラリアにも輸出が始まり、欧州や東南アジアの国々からも問い合わせが来ているという。

■柿の種との不思議なご縁

亀田製菓のレカ・ジュネジャ副社長

亀田製菓の副社長として、食品事業と海外事業を統括するのが、インド人のレカ・ジュネジャさんだ。

インドの大学院を卒業後、「発酵を研究するなら日本が最先端」と聞き、1984年に来日した。名古屋大学大学院で食品工業化学を学び、博士号を取得。その後入社した大手食品素材メーカーの太陽化学(本社・三重県四日市市)では卵や茶などの研究に明け暮れ、携わった「お茶の成分のリラックス効果」などが世界中の多くの商品に使われている。研究も営業もこなして世界を飛び回り、03年に副社長に就任。当時の日本企業には珍しい「インド人役員」として注目された。朝日新聞名古屋版では00年9月30日付夕刊に、「たたき上げインド人 常務に」との見出しで記事が掲載され、「健康につながる新しい開発をどんどん進めたい」とのコメントを紹介している。

太陽化学で常務になった2000年当時のジュネジャさん(中央)

その後、14年に移ったロート製薬でも副社長として海外事業などを担ったほか、CHO(Chief Health Officer、最高健康責任者)の肩書で社員の健康を増進させるという役割も担った。20年に、亀田製菓の田中通泰会長に請われて亀田製菓に転じた。

ジュネジャさんにとって、カリカリは格別の思いがある商品だという。日本での生活は30年を超えるが、インドに帰るときの手土産は昔から「亀田の柿の種」だった。「ビールに合うし、家族みんなが笑顔になれる商品。こんなお土産はなかなかない。まさかその会社に自分が入社するなんて、本当に不思議なご縁ですね」と話す。出張中などでも、カバンには「亀田の柿の種」をよく忍ばせていたという。

ジュネジャさんが副社長として入社した時点ではカリカリはすでに販売開始していたが、見据える先は当然、世界だ。「柿の種はお米でつくる国民的お菓子。日本発で世界を狙える商品です。自分の母国で日本の商品が売れたら非常にうれしいですし、インド人全員にこのおいしさをわかってもらいたい」。

■「柿の種だけではない、種がある」

インド版亀田の柿の種「カリカリ」。左からスパイスマニア、ワサビ、ソルトペッパー、チリガーリックの四つの味がある

「心は半分日本人」というジュネジャさん。亀田製菓に入った際も早速、「社員の顔と名前を覚えたい。それが載った資料はありませんか」と言って周囲を驚かせたという。「いまはオンライン会議ばかりで、みんなマスクもしているから、なかなか覚えられなくて」というのが目下の悩みだ。

人口が頭打ちとなる日本で、食品業界は待ったなしの変革が迫られている。亀田製菓も中期経営計画で「グローバル・フード・カンパニー」を目指すと掲げ、これまでの国内中心、米菓中心の事業から急速に会社のかたちを変えようとしている。

今年5月には、新潟県の米粉パン製造会社の事業買収・子会社化を進めると発表。会見の席には田中会長、そしてジュネジャさんが並んだ。米粉パンはアレルギーなどで小麦のパンが食べられない海外の顧客ニーズも見据えた買収とされる。このほか、大豆ミートに代表される代替肉や、社内の研究機関「お米研究所」で培われた乳酸菌の技術を使った商品開発にも力を入れている。

外部から来た経営者の目で、そして博士号を持つ研究者の目で見ると、「亀田製菓は『柿の種』だけではなく、たくさんの面白い事業の『種』を持っている」会社だと考えているという。社内では、「その種を育てていこう」と繰り返してきた。研究者だった経験から、「研究のための研究はやめて、どんどん新商品を出していこう。それも、日本の1億2千万人だけでなく、世界の77億人を相手にしよう」と社員の目線を世界に向けさせた。次第に雰囲気の変化が感じられてきたという。

インタビューで話す亀田製菓のレカ・ジュネジャ副社長

「残念ながら、日本の食品企業はまだまだ世界に出ていっていません。もう少し世界の市場を狙っていった方がいい。世界に出ることは苦労があるし、そんな簡単に成功もしません。リスクも取らないといけません。でも、枠を自分で決めてしまってはダメ。枠を超えたことをやっていこう」

商機を海外に求めてグローバル化を急ぐ亀田製菓。ジュネジャさんは目下、海外戦略の陣頭指揮を執りつつ、カリカリの新味開発や、インド向けの新商品を企画している。

日本生まれのお菓子が、インドで「カリカリ」になり、世界をめぐっていつの日か日本に帰ってくる。そんな日も近いのかもしれない。