動物性食品をとらないヴィーガンという生き方が注目される中、新たなテックも生まれている。生きている動物からとった細胞を培養して食肉を作る、「培養肉」の技術だ。家畜を殺す必要もなく、飼育過程で出るメタンガスなどの心配もない。肉の「うまみ」もそのままだという。大豆など植物由来たんぱく質から作る代替肉もあるが、それとは別の選択肢として研究が加速している。(目黒隆行)

■2カ月半でパティ8万個分

培養肉のハンバーガーが初めて世に出たのは2013年。オランダ・マーストリヒト大のマーク・ポスト教授らのチームが英ロンドンで試食会を開き、「肉と変わらぬ食感」などと評判になった。チームは16年にモサ・ミート社(オランダ)を設立した。

モサ・ミートの培養肉は、健康な牛の尻部分にある細胞から作られる。筋細胞と脂肪細胞をバイオリアクターで成長させ、筋繊維を重ね合わせて培養脂肪を加え、ミンチ肉にしていく。パティ1個で約2万本分の筋繊維を重ね、こうした過程で本物の肉に近い食感を作り出すという。2カ月半で作れる培養肉はハンバーガーパティ8万個分だ。

培養牛肉になる細胞を持つ牛=モサ・ミート提供

同社によると、家畜を飼育する場合と比べ、気候への影響を92%、土地利用は95%、水使用は78%削減できるとうたう。無菌環境で作られるため家畜に用いる抗生物質の必要がなく、病原体への感染や食中毒リスクも大幅に低減できるという。

■肉好きの食習慣「変える必要ない」

大豆などから作る植物性代替肉のメーカーは、独自の技術や工夫で「肉のうまみ」を作り出すことに苦心している。モサ・ミートCEOのマールテン・ボッシュさん(43)は「植物性代替肉は素晴らしい商品だが、私たちは牛肉をまねるのではなく、牛肉そのものを作っているという強みがある。顕微鏡で見れば牛肉も培養肉も全く同じだ」。地球環境への影響を考えてベジタリアンやヴィーガンを選ぶ人が増えていることについて聞くと、「私たちは従来の農業のあり方を変え、肉好きの消費者が牛肉から培養肉へと変える道を提供しようとしている。食習慣を変える必要はない」と言い切る。

110221, Maastricht: glossy, Mosa Meat. Foto: Marcel van Hoorn.モサ・ミートCEOのマールテン・ボッシュさん=モサ・ミート提供

課題はコストだ。13年の段階では、ハンバーガー1個に研究費も含め約25万ユーロ(約3300万円)かかった。「その後の研究でかかるコストは大きく減ったが、一般に販売する時には『高級ハンバーガー』くらいの値段になる」という。培養肉が一般に受け入れられ、消費量が多くなれば価格は下がり、「いずれ従来の肉と同程度、そして長期的にはもっと安くなる。牛を育てるよりも効率的に生産できるからだ」と話す。

■「牛肉需要を満たす新しい方法」

レオナルド・ディカプリオ=モサ・ミート提供

今年9月には、環境活動家の顔も持つハリウッド俳優レオナルド・ディカプリオ氏が、モサ・ミートと、ステーキ肉の培養技術をもつイスラエルのアレフ・ファームズ社に出資し、顧問に就いた。

ディカプリオ氏は「気候変動の危機と闘うため、実効性のある改善方法の一つとして、食料システムの変革が挙げられる。(両社は)工業的な畜産手法によって発生する問題を解決しながら、牛肉需要を満たす新しい方法を提供していく」とコメントした。植物由来の代替肉メーカー、米ビヨンドミートにもディカプリオ氏は出資しており、自身の影響力を背景に様々なアピールをしていく方針だとみられる。

■シンガポールで培養鶏肉が承認

モサ・ミートの培養肉を使ったハンバーガー=モサ・ミート提供

モサ・ミートには三菱商事も出資・提携している。同社は「培養肉は研究開発ステージのスタートアップがひしめく黎明(れいめい)期にあるが、商業化に至った場合はサステイナブルな動物たんぱく源となる可能性がある。脱炭素に資する取り組みとして世界的な注目度も高まっており、三菱商事も食品産業のプレーヤーとしてこのようなイノベーションに注目している」とコメントした。

20年末にはシンガポールが世界で初めて培養鶏肉のナゲットの製造販売を米ベンチャーに認可した。中東のカタールでも培養肉の販売承認に向けた動きがある。日本でも日清食品ホールディングスなどが研究を進める。コンサルティング会社マッキンゼーは培養肉市場の規模が30年に250億ドル(約2兆8500億円)となる可能性を指摘する。