おいしくて、簡単に食べられて、栄養バランスが整った食事がしたい――。忙しい現代人の悩みを解決するような「完全栄養食」と呼ばれるものが、コンビニなど身近なところに増えてきている。スタートアップから食品大手まで、ビジネスチャンスとにらんで開発を競っている。

■「主食で栄養バランスをとれないか」

2016年創業のフードテックベンチャー、ベースフード(東京都)は「完全栄養パスタ」で市場を切り開き、パンやクッキーなど商品のバリエーションを広げている。

厚生労働省が設定した「日本人の食事摂取基準」に基づき、必要な約30種類の栄養素をバランス良くとれるように、ビタミンやミネラル、たんぱく質、食物繊維などが配合されている。その一方、多くなりがちなカロリーや炭水化物などは控えめに。1食分で1日に必要な栄養素の3分の1がとれるとしている。

創業者の橋本舜さん(33)自身、食事の栄養バランスに悩んできた一人だ。

IT企業に勤めていた頃、忙しさのあまりラーメンやカレー、ハンバーガーなど手軽に食べられる主食ばかりが中心になった。疲れが取れない、風邪の治りが悪い、健康診断の結果が年々悪くなるなど、次第に身体への影響を実感。「仕事中心の生活では『一汁三菜』や『1日30品目』といった健康的な食事は難しい。ならば、主食を食べるだけで栄養バランスがとれるようにできないか」と考えるようになったという。

■食材買いそろえ、試行錯誤

近所のスーパーでかつお節やココアの粉などの乾燥食材を買いそろえ、自宅でパスタの生地を作り練り込んでいくところから開発は始まった。

味が悪い、麺にならない、栄養が足りない……。100回以上の試行錯誤を繰り返し、会社を辞めるほどにのめり込んでいった。起業して体制を拡充してからは開発ペースが上がり、「今までに1万回は試作したのでは」という。インターネット販売だけでなく、コンビニやドラッグストアにも販路を広げ、昨年はシリーズ累計販売1000万食を突破した。

ベースフードCEOの橋本舜さん

勤めていたIT企業では自動運転などを担当していた橋本さんが、なぜ「食」に乗り出したのか。解決したい課題があるという。

「日本が抱えている最も大きな社会課題が少子高齢化。社会保障費が年々増大し、若い世代の負担は増える一方になっている。それを食い止めるためには、やはり健康寿命を延ばしていくことがインパクトが大きい。健康な食の選択肢を作ることで、豊かな生活に寄与したい」

既存の食品の多くは「産業革命より前からあったものを大量生産できるようになっただけ。そこが変わらないまま人口が増え、地球規模の環境問題が起きている」と橋本さんは見る。「当時より発展した科学技術を駆使して社会課題を解決するのがフードテックだと考えています」

日清食品の目指す完全栄養食のイメージ写真=日清食品ホールディングス提供

カップ麺をはじめとする数々の商品で世界の食生活に影響を及ぼしてきた日清食品ホールディングスも、「完全栄養食」の研究開発を加速させている。

めざすのは「見た目やおいしさはそのまま」で、カロリーや糖質などがコントロールされ、必要な約30種類の栄養素をとれる食事だ。社員食堂で提供されるようなカレーライスやラーメン、定食などのメニューなら、すでに300種類以上のレシピを完全栄養食に置き換えることができるという。

例えば、油で揚げないとんかつ。熱風乾燥というノンフライ麺の技術を応用して調理する。だが、それではとんかつならではの油分が不足してしまうため、必要最低限の油を霧状にして吹きかける「ミスト・エアードライ製法」で味や食感を近づけた。こうした工夫でカロリー30%、脂質25%、塩分20%ほどをカットしつつ、ビタミンなどは多く含ませることができるという。

日清食品が挙げる課題は「飽食による健康悪化」だ。「現代は豊かな食生活が実現した一方で、肥満や偏食による栄養失調など、新たな健康問題が深刻化している。最先端のフードテックを駆使し、次世代の食のソリューションを提供したい」(広報部)というのが狙いだ。

社内外での臨床試験では、体重や内臓脂肪面積の減少、BMIや血圧改善などの結果が得られた。今後、「完全栄養食」を柱にしたビジネスモデルを立ち上げる計画だ。