オーストラリアでアルバニージー政権が誕生した。前のモリソン政権が打ち出した中国に対する強硬政策を引き継ぐ方針で、政権発足直後に東京で行われた日豪首脳会談で、両国は「安全保障宣言」に向けて調整を進めることで合意した。数年後、オーストラリアは米国に次ぐ第2の同盟国になりそうだ。(牧野愛博)

アルバニージー氏は、5月24日に東京で開かれた日米豪印4カ国の安全保障対話(QUAD)首脳会議に出席し、「豪州のQUADへの関与はまったく変わらない」と述べた。

今回の総選挙で、オーストラリアでは9年ぶりに自由党・国民党の保守連合から労働党への政権交代が起きた。防衛省防衛研究所の佐竹知彦主任研究官は「豪州は保守連合と労働党の二大政党制だが、どちらが政権を担っても、米国との緊密な同盟の維持という基本路線が揺らいだことはない」と語る。佐竹氏は、豪州の現地紙報道を引用しつつ、「AUKUS(豪米英の安保協力)も揺るがない」と話す。

現地報道によれば、バイデン米政権はAUKUSが昨年9月に発足する際、当時のモリソン豪政権に対して労働党の承認を取り付けるよう求めた。労働党は①民生用の原子力産業の非保有、②非核武装、③核不拡散条約(NPT)体制の順守――を条件に、AUKUSを承認したという。

高橋礼一郎・前駐豪大使は大使在任中の2019年秋、前回総選挙で敗れた直後のアルバニージー氏とシドニーで面会した。アルバニージー氏は敗北について淡々と振り返り、「国民が求めている政策を地道に追求する」と語っていた。高橋氏はアルバニージー氏について「温厚な人柄で、目立とうとする性格ではない。外交はウォン外相に任せるだろう」と語る。

高橋氏は19年、ウォン氏ともアデレードで面会した。ウォン氏は中国系でもあるため、豪州政界の一部には当時、中国への接近を警戒する声もあった。ウォン氏は高橋氏に対して、オーストラリアと中国との公式対話が途絶えていることに懸念を示しつつ、「自分は中国に甘い政策は取らない」と明言したという。

高橋礼一郎氏

オーストラリアと中国の関係は、中国による豪州への経済圧力や新型コロナウイルスの発生源を巡るやり取りなどを巡り、公式対話が断絶する史上最悪の関係に陥っていた。李克強首相が5月、アルバニージー氏の首相就任に祝電を送ったほか、王毅外相が豪州との関係改善に意欲を示している。

佐竹氏は「豪州は中国との公式対話再開の条件として経済制裁の解除を求めているが、今のところ、中国がそれに応じる気配はない」と語る。高橋氏も当面は、両国間の緊張した関係が続く可能性が高いとみる。

ウォン外相は6月1日から、太平洋諸国のサモアとトンガを歴訪した。両国は、王毅氏が直前に訪問したばかりだった。高橋氏は、ウォン氏がフィジーを訪問したことも合わせて「ウクライナ情勢が北東アジアの安全保障に影響を与える事態を警戒しているようだ。ウォン氏の3カ国訪問は、労働党政権がこれまでのオーストラリアの対中政策を継続する意思の表れとみるべきだろう」と語る。

こうしたなか、岸田文雄首相は5月24日、前日に就任したばかりのアルバニージー首相と東京で会談した。外務省によれば、両首脳は、日豪の安全保障協力を深化させる新たな安全保障協力に関する首脳宣言の発表に向けて調整を進めることを確認した。

日豪両国は1月、自衛隊と豪州軍が共同訓練などで相互に訪問する際の手続きなどを定めた「円滑化協定」に署名した。円滑化協定は、在日米軍の日米地位協定に相当する。自衛隊と豪州軍が互いの国で共同訓練などを実施する際の手続きや、部隊の法的地位などを定めるなど、協力の基礎になるものだ。

迎賓館の周辺に掲げられた日本とオーストラリアの国旗迎賓館の周辺に掲げられた日本とオーストラリアの国旗=2022年5月23日、東京都新宿区、山本裕之撮影

では、日豪安保宣言は何を狙うのか。

佐竹氏は、昨年6月に発表した日豪外務・防衛閣僚協議(2+2)共同声明に盛り込まれた「現実世界に即した防衛協力を深化させる重要性」という表現に注目する。

「台湾有事や朝鮮半島有事に米国が参戦すれば、豪州も高い確率で米軍に対して何らかの支援を行う。場合によっては、豪州が、燃料や弾薬の補給を日本で行う可能性もある。共同宣言は、平時のみならず有事やグレーゾーンにおいても、日豪が緊密に協力することを示唆する内容になるのでないか」

すでに、日本は豪州と軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結。防衛省は昨年11月、自衛隊が平時から他国軍の艦船などを守る「武器等防護」について、豪州軍に実施したと発表した。米軍以外で初めての適用になった。日米豪3カ国の防衛相は6月11日、シンガポールで会談し、自衛隊が米軍と豪州軍と一緒に活動する際、自衛隊が米豪の艦船などを守る「武器等防護」を行うことでも合意した。

高橋氏も、岸田首相が年内に豪州を訪れて、日豪安保共同宣言を発表する可能性を指摘する。高橋氏は「安保宣言を結んだうえで、日豪防衛協力の指針(ガイドライン)の策定を急ぐのではないか」と語る。

日豪円滑化協定では、死刑制度の運用などを巡って交渉が難航し、締結まで10年の歳月を要した。高橋氏は、今後の安保協議について「法的に難しい問題はそれほど多くなく、円滑化協定よりも早く交渉が進むだろう」との見通しを示した。