中韓両国が7日の外相会談で、今年8月24日の韓国と中国の国交正常化30年を巡る協力について話し合った。今年は韓国と中華民国(台湾)との断交30年でもある。当時、台湾にあった韓国大使館で勤務していた曺喜庸元駐カナダ大使が「中華民国リポート」を発表した。日本より20年長く台湾と外交関係を維持した韓国は、中韓国交正常化で何を得たのだろうか。(牧野愛博)

1992年4月13日、中国と韓国は国交正常化交渉を行うことで合意した。

韓国では、盧泰愚大統領がソ連や中国など社会主義陣営との関係改善を狙う「北方外交」を推進しており、その任期切れが93年2月に迫っていた。曺氏は「盧泰愚大統領の任期内に中国との国交正常化と訪中を実現させるため、韓中外交当局は交渉を急いでいました」と証言する。

しかしこの合意は、ぎりぎりまで伏せられていた。

当時、中韓両国は交渉が終わるまで、北朝鮮と台湾には通報しないことで合意していた。実際の交渉は5月14日から6月21日まで断続的に計3回行われたが、台北にいた曺氏らには全く知らされなかった。中国は韓国との合意を破り、外相が7月15日に訪朝して金日成主席に韓国との国交正常化の見通しを伝えていた。

台北の曺氏らがソウルから「中国との国交正常化交渉に進展がある」という通報を受けたのは、正常化合意直前の8月18日だった。ソウルでは韓国外相が台湾の大使に対し、「8月21日に韓中が国交を正常化し、中華民国と断交する」という事実を伝えた。曺氏は「ものすごく驚きました。韓中関係が改善する雰囲気は感じていましたが、これほど早いとは思いませんでした」と語る。

台湾の外交当局は駐台湾の韓国大使や曺氏を呼び、強い不満を表明し、抗議した。曺氏によれば、台湾には「分断国家の韓国は自分たちと似た境遇にあるため、中国と国交正常化しても、台湾との外交関係を維持してくれるでのはないか」という期待感があったという。曺氏は「韓国には、二つの中国を認めるほどの力はありませんでした。ただ、断交の過程でもう少し丁寧な配慮があるべきだったと思います」と語る。

日中国交正常化2周年に当たる1974年9月29日、日中定期航空路線が開設された日中国交正常化2周年に当たる1974年9月29日、日中定期航空路線が開設された=羽田空港、朝日新聞社撮影

日本が中国と国交を結び、台湾と断交したのは1972年。米国は79年だった。韓国は日本より20年、米国よりも13年長く、台湾との外交関係を維持したことになる。曺氏によれば、中国が国連に加盟した71年以降、台湾は国際的に孤立する道を歩んだ。

国際関係の変化を受け、韓国も「北朝鮮と国交を持つ国とは外交関係を持たない」という路線を変更し、社会主義国や非同盟諸国などとの関係を深めていった。ただ、台湾との関係は特別だった。曺氏は「韓国と台湾は当時、経済発展がめざましく(香港、シンガポールも含めた)アジアの四小竜と呼ばれていました。韓国と台湾はお互いに助け合い、経済協力を更に発展させました」と話す。

韓国は80年代、南アフリカやバチカンと並び、台湾が外交関係を維持する重要な国々の一つでもあった。結局、韓国はアジアで最後まで台湾と外交関係を維持した国になった。

韓国の曺喜庸元駐カナダ大使韓国の曺喜庸元駐カナダ大使=本人提供

韓国は社会主義諸国との「北方外交」によって期待した成果を得たのだろうか。

曺氏によれば、北方外交には二つの戦略目標があった。「北朝鮮核問題の解決など、朝鮮半島での平和と安定維持、南北間の早期統一の基盤をつくるために、中国の建設的な役割を期待しました。もう一つは78年から始まった中国の改革開放路線によって、韓国の主要な経済パートナーになるという期待でした」

ただ、中国は韓国とは異なる思惑があった。曺氏は「中国は、1989年の天安門事件による国際的な孤立を脱して台湾の孤立化を図るとともに、韓国との経済協力も望んでいました。そればかりか、日本を牽制すると同時に、韓米同盟を離間させようという意図もありました。韓中関係を利用し、半島の分断状態を管理する戦略でした」と語る。

2022年6月4日、台北市で開かれた、天安門事件の犠牲者を追悼する集会2022年6月4日、台北市で開かれた、天安門事件の犠牲者を追悼する集会=石田耕一郎撮影

30年経ち、北朝鮮は核実験を繰り返し、核兵器を保有する事態に至った。弾道ミサイルも1千発以上保有し、南北関係は緊張が続いている。中韓の経済関係は拡大したが、中国が米軍の高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の韓国配備を巡り、韓国に経済的な圧力をかけるなど、日米韓の協力関係を牽制している。

曺氏は「中国は韓国の重要なパートナーですが、力による現状の変更やルールに基づく国際秩序を変えようとする動きは認められません。韓国としては、韓米同盟を基礎に、中国との戦略対話を広げ、日本とも協力して、中国の動きに共同で対応する必要があります」と語る。

韓国では5月、保守系の尹錫悦政権が誕生した。5月21日に発表された米韓首脳共同声明では「台湾海峡の平和と安定の重要性」などが、昨年の米韓首脳会談に続いて盛り込まれた。インド太平洋地域の平和と繁栄も強調された。

曺氏は韓国が台湾海峡の平和と安定に関心を持つ理由について「韓国は日本と同じ貿易立国です。台湾海峡は様々な物資の輸送路として非常に重要なため、在韓米軍の戦略的柔軟性を認めています。台湾有事の際、在韓米軍が投入されることで、朝鮮半島に空白が生じるかもしれません。北朝鮮が誤解する可能性もあります」と語る。「中国は朝鮮半島の平和と安定や、北朝鮮核問題の対話による解決を求めてきました。中国も台湾問題を対話で平和的に解決すべきだと、私たちは主張すべきです」

曺喜庸元駐カナダ大使が発表した「中華民国リポート」曺喜庸元駐カナダ大使が発表した「中華民国リポート」=曺氏提供

ただ、曺氏は「韓国の対応は日本とは多少異なるでしょう」とも指摘する。「QUAD(日米豪印の安保対話)でも、インドの対応が少し異なるのと同じです。韓国は『ひとつの中国』原則を守りながら、台湾との実質的な交流協力を拡大していくでしょう」と話す。

中国は2008年の北京五輪やリーマン・ショックからの早期回復などを契機に自信を深め、習近平国家主席の登場もあって、対外的に強硬な姿勢が目立つようになった。最近ではロシアによるウクライナ侵攻や、北朝鮮の金正恩体制による軍事的挑発も続いている。

曺氏は「既存の国際秩序が深刻な挑戦を受けている今、韓国と日本は同じ船に乗っているとも言えます。国際秩序の恩恵を最も受けてきた国として、責任をもって地域の秩序を維持していく責任があります」と話す。そのうえで、①日韓関係の完全な正常化、②日米韓安保協力の強化、③日中韓協力の活性化――の三つが必要だと説く。「防衛力や拡大抑止力は強化すべきです。同時に、中国との外交を通じた信頼関係の構築は安全保障に役立ちます。韓日が共に中国との交流や対話を通じ、3国間の信頼関係を築くべきでしょう」

曺氏は「ロシアがウクライナ侵攻の際、核兵器の使用を繰り返し、示唆しています。中国や北朝鮮が誤解し、核兵器による実際の挑発に使われる可能性も高まっています。韓日が深刻にこの状況を受け止め、共同で協力すべきでしょう」と語った。