いま海外で起きていること、世界で話題になっていること。ビジネスパーソンとして知っておいた方がいいけれど、なかなか毎日ウォッチすることは難しい…。そんな世界のニュースを、コメディアンやコメンテーターなどマルチに活躍しているパトリック・ハーラン(パックン)さんと、元外交官(現在、三菱総合研究所主席研究員)の中川浩一さんが、「これだけは知っておこう」と厳選して対談形式でわかりやすくお伝えします。今回は、正念場を迎えているG7を中心とした世界の民主主義陣営の枠組みについて取り上げます。(以下、敬称略)

中川 今回は、ドイツで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット、6月26〜28日)と、その後、スペインで開催された北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(6月29〜30日)、それからオーストリアのウィーンで開かれた核兵器禁止条約の第1回締約国会議(6月21〜23日)について見ていきたいと思います。

まず、G7サミットの首脳声明を見ると、今年のトップのテーマはもちろんウクライナ。

それから人道支援、対ロシア制裁、経済安全保障、エネルギー、中国、北朝鮮、新型コロナ、民主主義と盛りだくさんです。併せて、ウクライナ支援の声明、食料安全保障、気候変動についての声明も発出されました。

G7首脳の前で演説するバイデン米大統領=2022年6月26日、ドイツ南部エルマウ、朝日新聞社

G7は民主主義陣営の先進国の集まりということで、G7というのを大事にするというのは私も賛成ですが、今年はロシアのウクライナ侵攻があり世界の二極化がいっそう進む中で、だからこそ逆にG7が世界の二極化をあおるような形になっていないか懸念しています。

民主主義の価値はもちろん大事なんですが、アメリカのバイデン政権が一貫して「民主主義」対「権威主義」の対立軸を強調していることに、私は日本がそれに乗るべきなのか良く考えなければならないと思っています。

その中でG7が、民主主義陣営として、中東、アフリカをはじめ、途上国が直面している食糧危機に対し、追加で約45億ドルを支援するということで、一応、全世界に手を差し伸べた点は評価すべきだと思います。

中川浩一さん中川浩一さん(左)

パックン 今回のG7サミットは、G7の間で大きな亀裂がなく、まずは対ロシアで一致、団結を見せたのは良かったと思います。それから、食料安全保障とか環境問題に取り組んでいるのは素晴らしいのですが、相変わらず具体性に欠けているんですね。

例えば、エネルギーについては「ロシア産原油の価格に上限を設定する」ということで一致したんですが、「それ、どうやってやるの?」ってなるんですよね。

中川 共同声明要旨には、エネルギーについて「上限価格のような追加的措置の探求も含め、異常な市場環境によるエネルギー価格の上昇を抑えるために直ちに行動する」とあります。英語の原文を日本語に訳すと、「探求」とか「ような」とか、本当にあいまいですね。

パックン G7は、理想としては事務レベルで調整しておいて、首脳が集まった際に大きな具体策を発表することができたらいいなと思いますけれど、今回、とりあえずいろいろなアイデアを出し合って、一歩踏み出したというところは評価してもいいと思います。

ただ、この価格上限ってどうやってするものなのか。そのメカニズムが、経済の基本を把握しているつもりの僕でも、なかなか理解できないんです。現に関税などで制限して輸出量が減っても、原油価格や物価が上昇しているから、ロシアは結局、もうかったままになっているんですよね。

だから価格上限を付けたいという気持ちはよく分かるけれど、たとえG7の各国が発表しても、ほかの国々がそれを守らないなら、高く買ってくれるところに売ればいいだけの話になっちゃうじゃないですか。

中川 岸田首相は、7月3日の街頭演説で、ロシア産石油の価格上限を「今の価格の半分程度」に設定すると述べました。(その後、木原官房副長官は6日の記者会見で「G7の議論を踏まえたものであり、価格水準を含めた具体的な制度設計はこれから各国と決める」と説明しました)。要は、詳細はこれから、ということなんです。

参院選の期間中、街頭演説をする自民党の岸田文雄総裁=2022年7月3日、札幌市中央区、朝日新聞社

パックン あとG7で「気候クラブ」を作ると発表しましたが、「それって何?」「なんだか楽しそう」と思うんですが、具体性が声明文の中にはなかった。

中川 気候クラブの首脳声明では、「我々は、遅くとも2050年までに気候中立への移行が必要であることを認識し、世界全体の気候に関する野心も実施も、温室効果ガスの排出削減によりパリ協定の目標を達成するには十分でないことに懸念をもって留意する」とあります。要は、懸念表明だけですね。

パックン 意思表示だけなんですよね。だから、世の中が本当に緊迫している割には、具体策が少なく、「仲良くしようぜ」というあいまいな声明文になっている。というか、それぐらいの成果しかないという悲観的な目でも見ているんですよ。

団結ぶりを示して、まだG7は有意義だとアピールしているんですが、このペースじゃロシア問題も環境問題も永遠に解決できないかもしれないと思ってしまいます。

中川 特にこれまでロシアのエネルギーに大きく依存していた欧州各国は、そこから脱却する必要があり、苦しい立場ですよね。

パックン 今はまだいいんですが、あと半年で冬がやってきます。ロシアの石油や天然ガスがないと暖房が回らないヨーロッパでは、ウクライナはもうロシアに譲歩してもいいから、早く戦争を終わらせたいという民意が高まるはずですよ。

ちょっとわがままには聞こえるけれど、その気持ちは分からなくはないです。日本も、ロシアからの原油輸入も現時点で止めていません。IEA(国際エネルギー機構)によると、ロシアの石油輸出収入は今年に入って50%増えて1カ月当たり200億ドルに達したそうです。

つまり、戦争を起こしたロシアは、半導体の輸入ができなくなったり、欧米企業が撤退したりして他のところで制裁は効いているかもしれませんが、石油に関して制裁は効いていないようにしか見えません。とにかくG7の対策のペースが遅すぎるなと感じます。

中川 今回、G7に加えて、アルゼンチン、インド、インドネシア、セネガル、南アフリカも招待しているんですよね。G7とこれら諸国で、「強靱な民主主義」という、別の声明を出しました。

G7サミットで招待国首脳を含め記念撮影をする各国首脳ら=2022年6月27日、ドイツ南部エルマウ、代表撮影

招待国のうち、南アフリカとインドは、「BRICS」という、中国とロシアが加わる枠組みのメンバーです(もう1カ国はブラジル)。要は、両陣営による取り合いになっているんです。また、この期間、ロシアは、カスピ海の周辺国を呼んで首脳会議を行い、駆け引きしています。

パックン さすがにG7にアメリカと敵対するイランは招待できませんが、BRICSにはイランが加盟申請しましたね。だから中川さんが言う通り、これは取り合い、駆け引きにはなりますね。

中川さんが冒頭にお話しされた「民主主義」対「非民主主義」。僕は去年から、これからの展開として注目すべきだと言っていたんですが、最近、もしかしたらこれが不正解かもしれないと思うようになりました。

もちろん民主主義という枠組みも大事だと思うんですよ。G7を拡大するなら、その価値観を共有する国々に絞った方がいいと思います。インドやオーストラリア、韓国などを「D10」と呼ばれるような、民主主義を中心とする枠組みを作って頂きたいし、もっと強化して頂きたい。でも、本当に中国とロシアを早めに牽制するなら、「ルールに基づいた国際秩序、世界秩序の枠組み」を先に作ったほうがいいと思うんですよ。

パックンさん

そのルールというのは、国連憲章でもいいけれど、国連も現状、まひしてしまっている。国連憲章を破りまくる人が常任理事国になっているから、機能しなくて当たり前です。だからもう絶対「力による現状変更」を許さない枠組みをつくろうぜと言えば、G7やD10の上に、そこまで民主色が強くないけれど、例えば領土問題を抱えているASEANとか中国の領土領海拡大を懸念している国々を引き込むことができると思うんです。

中国と国境で何度も衝突しているインドは絶対加わるでしょう。中国も、民主主義はどうかなと考えているかもしれないけれど、ルールに基づいた国際秩序の枠組みには参加してくれる可能性は少なからずあるはずです。アフリカの小国もそうだと思います。

ただ、僕の中で考えがまとまってないところもあるんです。なぜなら、これは非リベラル化な構造にも成り得るからです。非民主主義国家も抱えてしまうと、ロシア・中国牽制はできるかもしれないけれど、それぞれの国内の改革を遅らせる効果も考えられますよね。

G7サミットで招待国を含めた会議に臨むバイデン米大統領(中央)ら=2022年6月27日、ドイツ南部エルマウ、代表撮影

19世紀で、各国の勢力均衡がうまくできた例として、よく「ウィーン会議」が挙げられます。ウィーン会議は、ナポレオン戦争のあと、小国と大国のバランスを同盟関係でうまく計算して勢力均衡を保って、ずっと戦争が絶えなかったヨーロッパに50年以上の平和をもたらした、というとらえ方が一般的なんですが、結局それをなぜやったかといえば、民主化を止めるためでもあったんです。

王国は王国のままでいたいんです。ナポレオンがやったような国民国家への移行を避けたかった国々も、そこで協力して現状維持に努めたんです。

中川 現状維持というのは、「非民主化」ということですか?

パックン 「非民主化」ではなく、王国は王国のまま、「非民主制度」のままという意味です。だから、D10などの民主主義中心の枠組みではない、「現状維持主義」中心の枠組みを作ってしまうと、台湾の併合とか、領海拡大とか、ロシアのさらなるヨーロッパへの進出とか、そういう新しい動きを止める効果はあるかもしれませんが、もっと長期的に世界の平和とか、人間の発展につながる、人間社会の発展につながる民主化を抑制してしまうかもしれない。だから、僕の心の中では葛藤があるんです。

中川 5月にフィリピンでドテルテ大統領の任期満了に伴う大統領選挙がありましたが、私は非常に注目していました。なぜならフィリピンが民主主義陣営に行くのか、そうでないのかの分かれ道だったからです。

フィリピン大統領に就任したマルコス氏と面会する林芳正外相(左)=2022年6月30日、フィリピン・マニラ、日本外務省提供

結果は、独裁政権下のマルコス大統領を父親に持つ、フェルナンデス・マルコス大統領の勝利でした。その大統領就任式に、日本からは林芳正外相が出席しました。こういう外交の動きは非常にいいなと思います。二極化のはざまにあり、中国側に流れる可能性のあるフィリピン新政権とのハイレベルなパイプ構築は重要です。

パックン 僕も行って良かったと思いますよ。

中川 分かりやすく言うと、今、世界中で、オセロゲームが始まっています。あちこちの国で黒か白か、あるいはもう一つ何色か、灰色か分かりませんが、分かれようとしている。

パックン どの国がどの国を何色にしようとしているのか、本当に気が抜けない世界になりました。たとえば、太平洋諸国のトンガ。トンガにはこの間、中国の王毅外相も訪問して、自分たちの安全保障の枠組みに誘致しようとしたけれど、少なくとも今回は失敗に終わったように見えました。

トンガはアメリカとの軍事合同演習にも参加しているから、今のところはまだ民主主義陣営なんです。ただ南太平洋の諸国が、ずっとアメリカ側に付くのが当然だと思われていますが、もはやそうではなくて、日々もっと気を張って努力しなければ、本当に我々がここまで恩恵を受けてきたこの戦後レジーム、民主主義が、なし崩し的に壊されてしまうのではないかと思います。

(注)この対談は、7月4日にオンライン形式で実施しました。対談写真はいずれも上溝恭香撮影。

【後編を読む】ロシアの脅威にかつてなく結束するNATO、日本の核めぐる議論の行方は