絵本作家のあいはらひろゆきさんが、6月27日に60歳で亡くなった。子育て経験をヒントに書いた絵本『くまのがっこう』(絵・あだちなみ、ブロンズ新社)がシリーズ化される人気となり、その後も、ベトナムの画家と共同制作するなど、新しい絵本の可能性をさぐり続けた。昨年9月に取材したとき、もう人気作家なのになぜチャレンジするの?と質問したら、とんでもなく熱い言葉が返ってきた。あいはらさんが信じた絵本の力、子どもや大人たちへの思いを、3部構成で掲載します。第一回は、「絵本売り場に行ったこともなかった」というあいはらさんの手から『くまのがっこう』が生まれるまで。

――お子さんができたことが絵本を書くきっかけだったそうですね。

そうなんです。絵本を読む係になった僕が、子どもが寝るまで一緒にいるんです。でも子どもとかかわりもなかったし、絵本売り場に行ったこともない。『ぐりとぐら』すら知らなかったんじゃないですかね。むしろテレビアニメの世代ですから。

それをイベントなどで言うと、お母さんたちががっかりするんですけどね。「幼少のころどんな絵本を読んだんですか」と聞かれても「仮面ライダーしか……」って、またファンを一人減らして。(笑)

子どもに読み始めて、自分が絵本のファンになった。ああ絵本ってこんなに面白いんだと。広告会社にいてコピーも書いていましたから、短い文章で伝えることの素晴らしさ、面白さは知っていた。

たったの32ページで、生きているって素晴らしいってことを伝えるって、絵本って天才的だな。しかも絵も言葉も吟味されて、短いセンテンスを子どもにわかるように書いている。この作家すごいなと。

子どもが3カ月ぐらいでバブバブ言ってるときに、俺にも書けるかなと考えた。絵本にふれる中で、自分も書いてみようと初めて書いたのが『くまのがっこう』です。

『くまのがっこう』

山の上の寄宿舎で仲良くくらす12ひきのくまの子たち。いたずらで、きかん坊の女の子ジャッキーは、やさしいおにいちゃんくまたちと、バザーの日にパンやさんをひらいたり、自転車旅行にでかけたり、おせんたくをしたり……。くまの子と仲間たちの1日をほのぼのと描くシリーズ。

絵本『くまのがっこう』絵本『くまのがっこう』(絵・あだちなみ/文・あいはらひろゆき、ブロンズ新社)

送り迎えする保育園で見た光景をそのまま書いたんですよね。大人になって初めて絵本の素晴らしさにふれて、ポジティブなシンプルな「生活哲学」と僕は呼んでいるんですが、友だちって素晴らしい、自然って美しい。それがあれば生きていけるっていう、人生の中で最も重要ないくつかをテーマにして、わかりやすく子どもに教えるものが絵本なのだと気づいた。

――『くまのがっこう』では、おてんばなジャッキーら、12匹のくまの子たちの日々をほのぼのと描いています。当初はなかなか売れなかったとか?

最初の半年はまったく売れなかった。子どもじゃないんだからもっとましなタイトルないの、と言われたりして。もともと保育園で、子どもの集団がごろごろしたり、みんなで歩いたり、みんなで三角巾つけてお料理の真似ごとをしたりするのがかわいいなと思って、その印象を書いた。

それを読んで、あだちなみさんがびんせんにくまをいっぱい描いてくれたんです。子どもが保育園で10人、15人集まっているような絵を。2歳ぐらいのときって手足が短く、腹が出ていて、よろよろしている。まるでくまのぬいぐるみみたい。あだちさんもくまのぬいぐるみが好きでいっぱい描いていた。

僕は僕で、ジャッキーたちをくまだと思ったことがない、子どもなんですよ。本当は「ひとり、ふたり」と書きたくて「1ぴき」と書くのもいやなぐらい。くまだと思ったことは一度もないです。ジャッキーは女の子、人間の女の子ですよって。

「くまのがっこう」展「くまのがっこう」展=2018年8月、名古屋市、千葉恵理子撮影

――あの絵本の何が読者を引きつけたのだと思いますか。

自分でいうのも難しいですけれど。子どもたちがみんなでわいわい一生懸命暮らしてるわけですよね。料理つくったり、つくったパンをつぶしちゃったり、自転車で海まで行って夕日を見たり。子どもたちが一生懸命日々の生活を頑張って、最後は手をつないで寝るという、一日の暮らし。

読者が見ていると、なんか応援したくなる。パンをつぶしちゃって、わざわざ売りに行ったけどどうするの、ああ買いに来てくれた、よかったとか。自分たちで頑張っている姿をまわりで見て、すごく応援したくなるんじゃないですかね。子どもたちは、友だちやきょうだいを応援するような気持ちになるのでしょう。

親御さんからよく言われたのは「ジャッキーはうちの子どもそっくりです」という言葉です。フランスの編集者も「うちの子に似ている」と。

かっこよく言えば、普遍的な子どもらしさみたいなものを描けているから。フランスの子どももアメリカの子どもも、日本の子どもも、子どもらしさという意味では変わらないので、すっと入れる。

それは書いた人間としては誇らしいですね。どんな子どもも持っている普遍的な子どもらしさを描けたことで、みんなが自分の子どもだと思ってくれる。思ってくれたらかわいいに決まってるんで。それを売れた理由として語るのはあまりにもおこがましいですけども、そういうこともあるのかもしれませんね。 

保育園の場合、同じクラスの子がみんな自分の子どもみたいに仲良くなる。1人を「たかいたかい」したら全員並んで「なんで○○ちゃんパパは、私にはしてくれないの」みたいになるから。子どものかわいさ、泣く時に一瞬黙るとかね。ああ親だったらわかるみたいな感じはある、それもよく言われますね。

あいはらひろゆきさん

――新米パパとして、保育園はとても新鮮だったんですね。

ものすごい新鮮ですよ。最初は焦りました、やばいことになったなと。

保育園に行ったとき感動したんですね。僕は広告会社にいたんで、夜中まで仕事して、そこから焼き肉食べに行って、朝帰ってみたいな、そういうひどい生活をしていました。あいさつとかしないんですね、おはようとかさようならとか言わないんです。会社に行ったらただ「打ち合わせですよ」「わかったよ」って。

でも保育園って「おはようございます!」って全員にあいさつして、「あっ○○ちゃんおはよう」「○○ちゃんパパおはようございます!」と、ものすごくいい人にならないといけない。

それがカルチャーショックで。人格が変わるぐらい、なんて美しい世界なんだろうと。いままでの自分のくらしと保育園の温度が5度ぐらい違う。なんてあたたかい。先生は笑顔で見守っていて、危ないときには手を出してくれる。

先生によく説教されましたけどね。朝ご飯のメニューが毎日同じだと、「○○ちゃんパパ、子どもだって飽きるんですよ、たまにはメニュー変えてください」といわれてね。僕は感動して、先生なのに家の食事のことまで心配してくれるんだと。なんて素晴らしいんだろう保育園、と思ったんです。新しいベビーシッターと子どもの相性にまで気づいてくれた時もありましたから。(つづく)

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