米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は9月6日、ロシアが北朝鮮に対し、弾薬の調達を申し入れた事実を明らかにした。

この情報が事実なら、ロシアは、1991年12月のソ連崩壊と同時に決めた「北朝鮮とは軍事協力を行わない」という方針を30年ぶりに変更したことになる。

これは、国民総生産(GDP)の20%以上を軍事費に突っ込んでいる北朝鮮にとって「干天の慈雨」となることは間違いない。(牧野愛博)

カービー氏によれば、ロシアが購入を希望する弾薬の規模は、数百万発にのぼる可能性があるという。北朝鮮の小火器はソ連製のコピーだ。

1980〜1990年代にアフリカの北朝鮮大使館に勤務していた高英煥氏によれば、北朝鮮は当時、ソ連やユーゴスラビア製よりも安く生産したAKカラシニコフ小銃をアフリカ諸国に販売して、大もうけしていたという。

北朝鮮が開発している弾道ミサイルも、短距離のスカッドなどはソ連製ミサイルをリバース・エンジニアリングで組み立て直したものだ。

最近開発したKN23も、ロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」を改良したとみられ、ロシア軍がすぐに使用できる状況にあると言える。

平壌の金日成広場で行われた朝鮮人民軍創建90周年祝賀軍事パレードに登場した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」2022年4月25日、平壌の金日成広場で行われた朝鮮人民軍創建90周年祝賀軍事パレードに登場した大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」。朝鮮中央通信が配信した=朝鮮通信

北朝鮮は従来から、猛烈な金額を国防費に突っ込んできた。米国務省が世界各国の国防費を調べた資料によれば、北朝鮮は2009年から2019年まで毎年、国内総生産額(GDP)の21.9%から26.4%を国防費に投入してきた。

これは調査した世界約170カ国で断トツの1位で、2位オマーンの同8.6%~14.5%を大きく引き離す。

韓国国防省傘下の国防研究院によれば、北朝鮮は今年1月から6月までに発射したミサイルの費用が最大870億円に上るという。これだけで北朝鮮GDPの2%程度にあたる。

ロシアによる提案が事実であれば、北朝鮮は言葉通り、「売るほどある」武器を販売できる道が開けたことになる。

北朝鮮とソ連は従来、軍事分野でも緊密な関係を維持してきた。朝鮮戦争(1950〜1953年)では、戦車や戦闘機を供与した。北朝鮮が核開発を始めた時、ソ連のドゥブナ合同原子核研究所に科学者や技術者を派遣して研修を受けた。ソ連はIRT2000型小型実験炉を北朝鮮に提供した。

ただ、ソ連は徐々に、北朝鮮に対する巨額な経済協力が負担になっていった。高英煥氏によれば、ソ連はたびたび、北朝鮮に対して「せめて利子だけでも返済してくれ」と懇願するほどだったという。

核開発でも、北朝鮮は兵器用プルトニウムの抽出を始め、最終的に核不拡散条約(NPT)から脱退した。こうした度重なる裏切り行為から、ソ連とロシアは、北朝鮮に対する軍事協力を行わない方針を決めた。

2011年8月、ロシア・ウランウデで開かれたロ朝首脳会談では、金正日総書記がメドベージェフ大統領に戦闘機の供与を求めたが、ロシア側は「平和利用の民間用ヘリコプターの供与なら可能だ」と答えるのにとどまっていた。

当時、ロシア政府のコリアンスクール(朝鮮半島専門家)たちは「我々は、とんでもない国(北朝鮮)を作ってしまった」と後悔とも警戒ともつかぬ言葉を繰り返していたという。

しかし、今年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアは厳しい状況に追い込まれているようだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領は7月17日のビデオ声明で、ロシア軍が2月24日の侵攻開始からウクライナに発射したミサイルの数が3千発以上になったと語った。

日本で今、中距離ミサイルを1千発以上保有するかどうかが話題になっていることを考えれば、3千発という数値がいかに巨大か想像できる。特に精密誘導兵器の場合、半導体の輸入が制限されているロシアは、簡単には生産ができない状況に追い込まれているとみられる。

ウクライナ軍とロシア軍が激しく戦った通り=2022年4月8日、ウクライナ・キーウ近郊ブチャ、朝日新聞社

米政府系放送局「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によれば、北朝鮮は最近、インドにも食糧支援を要請した。

脱北者の証言によれば、中朝国境地帯の両江道では最近、2割程度の住民が「1日1食」で糊口をしのいでいるという。北朝鮮では8月末から、大陸間弾道弾(ICBM)を発射する具体的な兆候も現れている。関係政府筋の一人は「武力挑発をしなければならないほど、国内の政情が不安定になっている可能性がある」と語る。

弾道ミサイル発射、そして核実験?

新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の試射を指導する金正恩・朝鮮労働党総書記。朝鮮中央通信が配信した

大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射する兆候が現れている。複数の米韓関係筋が明らかにした。目的は何か――。(写真は朝鮮通信)

北朝鮮で大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の兆候、新型火星17か 米韓筋が証言

北朝鮮は、ウクライナの反政府勢力がつくる「ドネツク・ルガンスク両人民共和国」をいち早く承認した。現時点で、承認した国はロシアとシリア、北朝鮮のみ。旧ソ連構成国ですら、承認していない状況だ。

韓国政府関係者は「今、ロシアに残っている海外派遣労働者を、ウクライナに回してカネを稼ごうとしているようだ」と語る。

「ドネツク・ルガンスク両人民共和国」は国連未加盟のため、「北朝鮮が労働者を派遣しても国連制裁決議違反にならない」という論法だ。

あるいは、北朝鮮によるロシアへの武器・弾薬支援も、国連制裁決議違反を避けるため、「両人民共和国」経由で行われるのかもしれない。

朝鮮中央通信によれば、北朝鮮は9月8日に平壌で開いた最高人民会議(国会)で、核戦力の使用基準や権限を定めた法令を採択した。

今後、ロシアと北朝鮮の軍事協力が核・ミサイル分野にまで及べば、北朝鮮の核開発に対する国際社会の圧力は大幅に低下することになる。追い詰められたロシアから持ち込まれた商談に、金正恩氏は小躍りしているに違いない。