アメリカの中間選挙は、共和党が下院で過半数を占めたものの、上院では民主党が半数を獲得する結果に終わった。防衛省防衛研究所の高橋杉雄防衛政策研究室長は、「(今回取りざたされた)レッドウェーブ(赤い波)は、かつてのティーパーティー運動に及ばなかった」と語る。その一つの原因は大統領選への立候補を表明したトランプ前大統領にあるという。(聞き手・牧野愛博)

高橋杉雄

高橋杉雄さんの写真

防衛省防衛研究所防衛政策研究室長

たかはしすぎお 早稲田大学大学院政治学研究科修士課程を修了後、1997年に防衛研究所入所。2006年にはジョージワシントン大学コロンビアンスクール修士課程を修了。専門分野は国際安全保障論、現代軍事戦略論、日米関係論。

――民主党が上院で半数を獲得しました。

上院で今回改選された35議席のうち、共和党は21議席を占めていました。改選議席が多いですから、元々、共和党が勝利しにくい選挙でした。

なぜこれだけの議席数があるかというと、それは2回前、つまり12年前の2010年上院選で共和党が大勝したからです。当時、共和党が勝利したのは「ティーパーティー運動」が大きな影響を果たしました。

今回、事前予想ではレッドウェーブ現象が起きて共和党が勝利するという見方がありましたが、現実は、当時のティーパーティー運動ほどの盛り上がりを見せませんでした。

ティーパーティー運動に参加する人たちティーパーティー運動に参加する人たち=2010年4月、ワシントン、伊藤宏撮影

――なぜ、レッドウェーブはティーパーティー運動に及ばなかったのでしょうか。

レッドウェーブの柱の一つは「トランプ前大統領への待望論」でしたが、実際は、フロリダ州のデサントス知事のようにトランプ氏と予備選を争うとみられている人もいます。

ティーパーティー運動には、(当時のオバマケア〈医療保健制度改革〉に反発した)小さい政府を目指した提案などを行いましたが、レッドウェーブは単純な「インフレーションへの反発」といった動きにとどまりました。更に、「トランプ前大統領への待望論」から来る副作用も表面化しました。

――どのような「副作用」があったのでしょうか。

典型的だったのが、アリゾナ州上院選での敗北です。(共和党と民主党が拮抗する)スイングステートのペンシルバニア州などと違って、アリゾナ州は典型的な(共和党が強い)レッドステートです。

それでも負けたのは、アリゾナ州選出の実力者で2018年に死去したジョン・F・マケイン上院議員と、当時のトランプ大統領との対立が根底にあります。

マケイン氏はトランプ氏を度々批判しました。トランプ氏も「彼は(ベトナム)戦争の英雄ではない」と非難し、マケイン氏の葬儀にも出席しませんでした。

アリゾナ州の共和党支持者らは、トランプ氏やその支持者に強く反発しており、それが2020年と今回のアリゾナ州での共和党敗北につながりました。

さらに、トランプ氏がツイッターなどSNSを通じた政治宣伝を展開したことから、共和党の候補の中に「空中戦」頼みの傾向が出ていました。

共和党支持者は郊外に多いのですが、2016年の大統領選挙の時などは、郊外の支持者を掘り起こす「地上戦」を徹底して行いました。こうした地道な選挙運動が徹底されなかったことも、共和党への支持が伸びなかった一因だと思います。

そして、「トランプ氏待望論」と「トランプ氏を支持する中間選挙立候補者」に危機感を覚えた無党派層の支持が民主党に流れたことも影響したと思います。無党派層の投票行動には、6月の連邦最高裁の人工中絶を違憲とする判決も影響しています。

中間選挙の投開票日の前日、オハイオ州デイトンで演説するトランプ前大統領中間選挙の投開票日の前日、オハイオ州デイトンで演説するトランプ前大統領=11月7日、柴田悠貴撮影

――他方、米国内の対立は、外交・安全保障にはどのような影響を与えるでしょうか。

米国の内部対立の影響は、それほど外交政策には及んでいません。インド・太平洋の安全保障戦略では、超党派でコンセンサスがあります。米国の中国に対する戦略も変わっていません。

むしろ、ロシアによるウクライナ侵攻が長引き、台湾問題に振り向けたい米国のリソースがウクライナにすべて吸収されてしまうことへの懸念の声も上がっているほどです。

ただ、トランプ氏の言葉に一貫性がないことは、すでに広く知られている通りです。再び、トランプ政権になれば、刹那的な政策で世界を混乱させる可能性はあります。これから米大統領選までの2年間は、共和党が試される2年間でもあります。

また、バイデン政権が10月末に発表した「NPR(核態勢の見直し)」には、民主党の核専門家からも強い批判の声が出ています。バイデン政権内でNPRに、「核の先制不使用」や「核の唯一使用目的」などを盛り込もうとする動きがあったからです。

中国や北朝鮮が核軍備を増強し、ロシアが核による脅迫を続けるなかで、核兵器の役割を縮小しようとするバイデン政権の試みに、専門家たちから批判の声が上がりました。これは、共和党と民主党の政治対立を核問題に持ち込んだ結果だと思います。

中間選挙の投開票日の前日、選挙集会で演説するバイデン米大統領中間選挙の投開票日の前日、選挙集会で演説するバイデン米大統領=11月7日、メリーランド州ブーイ、ランハム裕子撮影

――日本政府は年末までに国家安全保障戦略を改定する予定です。日本が米国をどこまで支援するかについての議論は低調です。

例えば台湾有事で、日本の自衛隊が台湾に派遣されて戦うということを考えている人は、政府内にいないでしょう。南西諸島防衛の一環として、米軍を支援するというのが基本的な考え方です。

この方針は以前から変わっていません。年末に国家安全保障戦略などが改定されても、日米の防衛協力の指針(ガイドライン)の見直しまでする必要はないと、個人的には思います。日米の外務・防衛閣僚会議(2プラス)が開かれる際、双方の戦略について説明し、理解を共有することで足りると思います。

自衛隊と米軍は今月、日米共同統合演習「キーン・ソード23」を日本各地で行いました。これは、米韓の合同軍事演習に続いて行われていたもので、日米韓による東アジア地域での防衛協力を重視している米国の意向が反映されています。

メディアも、防衛費の増額や具体的な新装備といった、見出しになりやすい決定事項だけでなく、議論を深めていくための論点の提示とその深掘りといった報道をしていく必要があるのではないでしょうか。

2020年10月、自衛隊などとの共同演習「キーン・ソード」に参加する米空母「ロナルド・レーガン」の艦隊2020年10月、自衛隊などとの共同演習「キーン・ソード」に参加する米空母「ロナルド・レーガン」の艦隊=米海軍提供