秋田犬が近年、徳島県内で相次いで捨てられていたことをGLOBE+でも紹介しましたが、その後の取材で柴犬の遺棄も続出していることが分かりました。人気のペット犬種をめぐって何が起きているのか。再び現場を訪ねました。(四国放送ディレクター・小喜多雅明)

柴犬を保護、2年で20匹

徳島県の最南端の町「海陽町」。南国を思わせる美しい海そして豊かな森に囲まれた小さな町です。この周辺はサーフィンの盛んな地域として有名です。そんな町に住む山本千晴さんの自宅の軒先には3匹の犬がいます。2匹の柴犬と1匹の猟犬です。この子達はすべて、山本さんが保護しました。

どこで保護したのかと聞くと、隣町の高知県東洋町との県境の山奥。国道から車で約半時間の場所でした。工事関係者らしか通らない、人気のない場所です。周りはうっそうと茂った山林で、夜には漆黒の闇が広がるような雰囲気です。たまたま仕事で付近を通りかかった男性が柴犬を見つけました。

発見した男性によると、柴犬は近づくと、警戒してか、すぐに山の方に逃げたと言います。根気強く、しばらく待っていると、だんだんと近づいてきたそうです。山本さんも駆けつけ、車に乗せて保護しましたが、その時の柴犬は、怯え震えていました。

その柴犬はおそらく人の手で飼われていたとみられます。野犬であれば基本、人に近づきません。ところがこの犬は私たちが寄っていっても全く抵抗がなかったのです。

そんな犬が、突然こんな山奥に置き去りにされたのです。犬の気持ちになればその不安や恐怖は計り知れません。雨露をしのぐ場所もなく、食料を自ら見つけるのは不可能とみられ、飲み水すらもままならないはずです。

この徳島と高知の県境では、実は以前から動物の遺棄が相次いでいました。警告をする看板もありますが、効果はなかったようです。山本さんはかつて、この場所から近い山奥で暮らすある高齢の女性が柴犬を連れて歩いていたのを目撃しました。不思議に思った山本さんが尋ねたところ、女性からはこんな答えが返ってきたとそうです。

「ここら辺では昔から柴犬が突然現れる」

野生で暮らす柴犬などいるわけがありませんし、ましてや突然、登場するはずもありません。やはり昔からこの場所で柴犬が遺棄されていたということが推測できます。

山本さんは2021年3月から2022年の2月の約2年の間に20匹の柴犬を保護しました。中には後ろ足に障害があったり、原因不明の下痢が続いたりといった体調に問題を抱えた柴犬もいます。

比較的健康な柴犬は里親が見つかりましたが、健康上問題のある柴犬については、里親は見つからず、保護されたあと、海陽町の住民がそれぞれ自宅で可愛がっています。

そのうちの1匹、オスのりく君は、高齢夫婦の家に引き取られました。大工だった男性はりく君のために立派な犬小屋を作っていました。男性の傍にいるりく君の表情は、温和なものでした。男性は以前から犬を飼いたかったといい、りく君は今では欠かせない家族の一員だと言います。

りく君が、山中に置きざりにされていたことをどう思うか?と聞いた時、男性はこう答えました。

「人間の手元にいた犬が、突然野生に放たれたら、自分が同じ立場になったら、あー心細いだろうなぁ」

保護された犬の特徴について、診察した獣医師は次のように指摘しています。

雌犬に偏っている

年齢が5歳から10歳くらい

少し乳腺が発達し授乳したような跡がある

雌犬にはすべて出産経験の跡がある

その上で、この獣医師は次のように推測しました。

「20頭の柴犬をすべて別々の人が置き去りにしたとは考えにくい」

つまり、ある程度同じような人が関わっていると見るのが自然で、「ブリーディング崩壊」が疑われるというのです。ビジネスを目的とした「繁殖犬」として飼育していたものの、成り立たなくなって柴犬を遺棄したのではないか、ということでした。

繁殖犬とは、ブリーダーの下で子犬を産み育てる役割の犬です。ペットショップなどで売られている子犬は、ブリーダーの施設で、繁殖犬が産み育てたものです。

60代のブリーダーの男性に話を聞きました。数年前まで自宅で犬を繁殖させて販売していましたが、今はブリーダーを辞めています。その理由を語ってくれました。

「犬は生き物と分かっていても段々と一つの物みたいな考えになっていく。1頭で何万円、何万円…という感じで。産まれてきた時は可愛いなとは思っても、きれいな毛色をした犬が産まれると高く売れるなと、そういう見方が強くなってしまう」

元々、犬が好きで始めたとはいえ、だんだんと良心の呵責に耐えられなくなったと言います。

改正動物愛護法の改正がきっかけ?

ペット人気の高まる中、ブリーダーによる秩序のない繁殖が行われ、それが犬に対し、大きな負担を強いているとして、動物愛護法が改正され、犬の繁殖に関して回数と年齢の制限が定められました。

犬の出産回数は6回まで

交配できる年齢は、原則6歳まで

動物愛護の世論の高まりから、決められた繁殖制限ですが、実はこれが相次ぐ犬の遺棄の原因の一つになっていました。

このブリーダーだった男性によると、動物愛護法改正による繁殖制限を超えた犬が、ブリーダーにとって負担となっているとし、次のように明かしました。

「6歳以降の繁殖犬はブリーダーにとっては荷物」

犬は、十数年は生きます。6歳で繁殖犬を引退すると、それ以降は、ブリーダーにとっては何も生み出さない存在となります。男性はこう述べました。

「繁殖を引退しても6年や7年は生きていく。『ただ飯食い』になるので、一番簡単な対処方法として遺棄する、捨てに行くということになる」

施設から突然いなくなる犬たち

幼いころから動物好きだったこの元従業員は、柴犬を繁殖させる施設で働いていました。毎日顔を合わせる柴犬たちからは、さまざまな感情を感じることが出来、本当に愛おしい存在だったと言います。

ところが、半年に1回くらい突然、世話していた柴犬が10匹くらい施設からいなくなることがあったと言います。最初のうちは、経営者から他のブリーダーに譲ったという言葉を信じていましたが、だんだんと疑わしく感じ、経営者を問い詰めました。元従業員は、その時の経営者の答えにショックを受けました。

「ここに一生、狭いケージにいるよりかは、どこかに放して誰かに拾われて、ペットとして暮らしたほうが幸せだから」

繁殖が出来なくなった6歳以上の犬、下痢が続くなどの体調の悪い犬が、捨てられていたそうです。何もない山に突然捨てられ、そこでさまよい、お腹をすかせて亡くなってしまったかもしれないと思うと、怒りと悲しみがこみ上げたと元従業員は言います。

犬もうれしい時はうれしいし、悲しい時は悲しいという感情を持つ生き物だとわかってほしいと訴えます。

元従業員が働いていた柴犬のブリーディング施設は、郊外の田園地帯にありました。高い塀のようなものに覆われ、中をうかがうことはできませんが、犬の鳴き声だけは聞こえてきます。

経営者の男性はこちらの突然の訪問にも慌てた様子もなく、私たちは事務所に通されました。対応したのは、男性とその家族の合わせて3人。経営者は、饒舌に現在のペット業界を取り巻く環境や経営の厳しさを語りました。犬を捨てたのは事実か?と聞くと、捨てた事実はないと否定した上で、従業員に対し誤解を招く発言をしてしまったと答えました。そして「個人的な意見」と前置きした上で、繁殖の回数や制限が定められ、商売としてブリーダーを続けるのは困難になっているので、そういったブリーダーが遺棄したのではと語りました。

歯が削られた犬も?

去年4月、徳島と香川の県境でさまよっていた5匹の柴犬が保護されました。その柴犬を保護したのは元ブリーダーの丸山公子さん。丸山さんの保護した一匹の柴犬の鳴き声は、ほかの犬とは違うものでした。「ワンワン」ではなく「ハフハフ」といった乾いた声で鳴くのです。獣医師の診察を受けたところ、声帯が切られた可能性が高いということ。丸山さんは、ブリーダーの施設では、近所から犬の鳴き声に対する苦情があった場合、声帯を切ることもあると聞いたことがあるそうです。

驚くことはそれだけではありません。この柴犬の犬歯をよく見ると、明らかに人為的と思われる削られた跡があります。これについて丸山さんは、雌犬の場合、出産前後にかみつく可能性があるため、犬歯を削るブリーダーもいると明かしました。

その雌犬の名前は「マザー」。丸山さんが、母親のように落ち着ている様子からそう名付けました。とても人にかみついたり、無駄ほえをしたりするようには見えません。

このマザーも出産したばかりなのか、乳腺が発達し、時折、乳が出ることがありました。5匹が一度に遺棄されていたことや、出産の跡があることから、この柴犬も繁殖犬だったと思われます。

丸山さんは、繫殖犬を使って儲(もう)けるだけ儲けて、その後必要がなくなったからと遺棄するのは許せないと憤ります。

猟犬の遺棄も相次ぐ

柴犬が遺棄されていた徳島県南部の海陽町と高知県との境では、年末年始頃から次々と猟犬が保護されています。

猟犬とは、飼い主と共に鹿やイノシシなどの獲物を追いかけ、飼い主が猟銃で仕留めるのを補助するのが役割です。

猟犬と獲物が絡み合う瞬間に猟銃で仕留めることもあり、失敗すれば猟犬もケガをする危険があります。そのため、猟師と猟犬の信頼関係は欠かせないと、ある猟師は指摘します。

しかし残念なことに、毎年11月から2月の猟の時期の後半になると、猟犬の遺棄が相次ぐそうです。保護された猟犬の中には、脚に傷を負っているケースが多く見られます。

また飼い主に対して忠実な猟犬は、捨てられてもその場所で飼い主が戻ってくると信じ、その場所で待ち続けるそうです。結果、保護された当時、ガリガリにやせ細った状態の猟犬もいました。

マイクロチップ装着、課題も

2022年6月以降に取得した犬猫に対して、ブリーダーなどの犬猫の販売業者は、マイクロチップを装着するよう義務付けられています。ブリーダーによる遺棄は今後、このマイクロチップの装着が徹底されていくと難しくなると見られます。

しかし猟犬の場合、猟師が個人的に繁殖させているケースが多く、マイクロチップ装着の義務の対象から外れているケースがあります。実際、遺棄された猟犬のほとんどに、マイクロチップは装着されていません。「行政の目」が完全に届いているわけではないというのが現状です。

海外ではペットショップ禁止の国も

徳島県内で秋田犬の雌が相次いで保護された。海外でも人気の犬種に何があったのか。

秋田犬の保護相次ぐ 捨てられた?ブリーダー、ペットショップ…動物の福祉を考える

いずれにせよ、どんな状況でも、生まれた犬には今後、必ずマイクロチップを装着させることが、こういった犬の遺棄を防ぐことにつながると思います。

また、こういった動物遺棄問題に対し、行政の調査や警察の捜査などが積極的に行われることが必要です。現状、こういった動物遺棄犯罪に対する警察の捜査は、積極的とは言えないと感じます。

動物を遺棄することは犯罪です。そして遺棄された犬がたどる運命はまさに動物虐待です。動物に優しくできない社会が、なぜ人にとって優しい社会になれるでしょうか?言葉のない彼らに代わって伝えたい現実がここにあります。