この世にサッカーが存在する限り、サッカーにおける背番号には、過去にその番号をつけてプレーした選手たちの強烈な残像がついてまわる。背番号は選手から選手へと受け継がれ、ある種の威光を持ち、「歴代最高の背番号10たち」といったコラムや戦術分析の本が書かれることさえある。

もちろん各クラブにとっても背番号の発表は重大な出来事であり、その公式発表をサッカーファンたちは一種のイベントかのようにして待ちわびている。同様に背番号に強烈なこだわりを持っており、チームを移籍してもその番号をつけ続けたいと思っている選手も珍しくない。

しかしその想いが叶わなかったのが、今回チェルシーからマンチェスター・ユナイテッドへ4000万ポンド(約58億円)で移籍したネマニャ・マティッチだ。彼は同僚となったミッドフィルダーのアンデル・エレーラが、すでに自身の求める21番を背負っていたことから、オールド・トラッフォードでその背番号をまとうことはできなかった。

■“31番”で活躍できるか

代わりに、ユナイテッドはマティッチに「31」という新しい背番号を用意していた。ジョゼ・モウリーニョ監督はマティッチ加入の記者会見のインタビューでわざわざその新しい背番号を伝え、古巣チェルシーの教え子であるマティッチを大いに持ちあげたのだ。モウリーニョは、クラブの公式サイトでこのように語っている。

「ネマニャ(・マティッチ)はマンチェスター・ユナイテッドの選手であり、ジョゼ・モウリーニョの選手だ。彼は忠誠心や野心……サッカー選手に求められる全てのものを持っているね。プレーにムラがなく、チームメートと同じ目標に向かって努力することができる選手なんだ。だから、私は彼が『ユナイテッドに来たい』と言ってくれたことにとても感謝しているんだ。彼の希望なしでは彼を加入させることは不可能だったからね。私は彼がマンチェスター・Uの選手やサポーターに愛される選手になると確信しているよ。我らの新しい背番号31を大歓迎しよう」

EMBED ONLY Nemanja Matic Manchester United

マティッチは、バスティアン・シュバインシュタイガーから背番号31を譲り受けたが、「31」はシュヴァインシュタイガーの前にはマルアン・フェライニがつけていた番号でもある。ファンは、クラブ史上46番目の高額契約選手が、過去にその背番号を背負った2人よりも、遥かに活躍してくれることを期待している。

もうユナイテッドを去ってしまった33歳の元ドイツ代表シュバインシュタイガーは、移籍金なしでクラブを離れ、シカゴ・ファイアーへ加入した。昨シーズン、リーグ戦での出場はなく、FAカップなどわずか4試合しかプレーしていない。モウリーニョ監督にとっては価値のなかった選手だ。

そしてマティッチは、スターティングメンバーの座を“元背番号31”である、29歳の同僚フェライニと争うことになるだろう。ベルギー代表のフェライニは、トルコのガラタサライへの移籍話があったが、今のところユナイテッドに残っている。彼はマティッチという新たなライバルが出現したのだから、モウリーニョ監督とクラブに対してさらに自身の価値をアピールしていくに違いない。マティッチはフェライニから果たしてポジションを奪えるのであろうか。

GFX Mourinho Matic 31072017

■ユナイテッドで厳しい生存競争へ

一方で、2015年のことを思い出すと、モウリーニョが果たしてマティッチをユナイテッドで重用するのかという疑問が生まれる。特に印象的だったのは、サウサンプトン戦で、後半からマティッチを出場させたのにも関わらずチームが1−3と2点ビハインドになったため、出場からわずか27分で彼を下げさせたことだ。そしてその判断にモウリーニョは後悔のかけらも見せなかった。それは試合後のモウリーニョのインタビューから痛烈に感じられる。

「あれはまさに苦しい時間帯の出来事で、選手たちの何人かがそうであったように、マティッチもその一人だったんだ。彼はうまくプレーできていなかったし、キレもなかった。ボールを持ったときの判断も正しくなかったね」

確かにマティッチのパワーや高さ、経験は、ユナイテッドにとって確かに財産となるはずだ。しかしライバルとなるフェライニにとって代わることができるほどかは微妙なところ。ここ1〜2年の間でマティッチが衰えの見えはじめた選手であったことは事実である。特に2015-16シーズンでの活躍は乏しく、昨シーズンの前半こそコンテ監督の下で活躍していたが、クリスマス明けからは再び下降線をたどっていった。プレーにスピードもキレもなくなり、代わってセスク・ファブレガスが、監督の信頼をますます勝ち得ていくこととなったのは周知の事実だ。

ここでマティッチとフェライニを比べてみると、チェルシー時代のモウリーニョが数々の批判からマティッチをかばっていた時でさえ、彼のパス成功率は87.72%。フェライニは、より少ない試合数ながら86.01%を記録していた。またパスを出した本数もマティッチは1分あたり0.69本で、フェライニは0.66本、2人のゴール数も同じである。マティッチがフェライニを上回るのはアシストの数と、インターセプトの数だけだが、インターセプトの数はモウリーニョがマティッチを時折高い位置で起用した恩恵にもよる。

コンテがチェルシーの指揮を取っていた昨シーズンの終了までに、マティッチがチームにとって重要な選手とみなされなくなっていたことは、顕著であった。コンテは国内のライバルチームに選手を売ることができて、むしろ幸せなのではないかとまで言われている。

マティッチの直前に背番号31をつけていたシュバインシュタイガーは、バイエルン・ミュンヘンから移籍してきた際、32歳ながらもワールドカップチャンピオンとしての活躍を見る限り、黒字を生む選手だと見込まれていた。しかし彼は期待には添うことができないまま、アメリカへと旅立った。

新しい背番号31であるマティッチは、それを覆すだけのプレーをオールド・トラッフォードでしなければならない。4000万ポンドの価値を証明するのはもちろんのこと、背番号31の価値をここで高めなければならないのだ。

文=ロナン・マーフィー/Ronan Murphy