今夏の移籍市場は、予想されていたものとは異なる展開となったと言えよう。マーケット序盤の7月からハメス・ロドリゲス、レオナルド・ボヌッチ、ウェイン・ルーニー、ロメル・ルカクといったビッグネームの移籍が実現した一方で、中国市場がおとなしいのである。

ピエール=エメリク・オーバメヤンとジエゴ・コスタの両名は、直近では最も中国スーパーリーグ(CSL)への移籍が取り沙汰されたビッグネームだ。しかしいざ中国の夏のマーケットが閉じてみれば、2人の移籍はおろか、他にも大きな動きが見られることはなかった。

移籍市場における中国の野望に対してヨーロッパのトップクラブが恐れを抱き始めたのはそれほど前の話ではない。さらに最近は中国からの誘惑によって選手の流出が進むのではないかという懸念に加え、契約交渉にかかる費用が際限なく釣り上がっていくことにも警戒心を持っていた。

アレックス・テイシェイラ、オスカル、フッキ、そしてアクセル・ヴィツェルは、ヨーロッパに背を向けて極東の地でキャリアを歩みつづけることを決めたビッグネームの面々だ。彼らにその決断を下させるために、所属クラブと選手自身に莫大な額の金銭が注がれた。当事者である彼らは中国の爆買いが控えられている動きを見て、(少なくとも現時点においては)自分たちが最後の幸運にあやかったと考えているかもしれない。

この夏の目立った契約といえば、ファビオ・カペッロ率いる江蘇蘇寧が今週になってフランスのロリアンからカメルーン人のベンジャミン・ムカンジョを2年契約で獲得したくらいだ。他には、マリオ・スアレスとともにベティスから上海申花にローン移籍したルベン・カストロ、アンデルレヒトから天津泰達に期限付きで移籍したフランク・アチェンポン、さらに、ファビオ・カンナバーロが監督を務める天津権健へとローン移籍したアントニー・モデストなども、この夏のマーケットを賑わせた主な移籍といえるかもしれない。しかしこれまでの爆買いと比較すれば、こういった選手たちが過去の移籍市場を騒がせた選手ほどスターとしてのクオリティやインパクトを持ち合わせているとは言い難い。

Anthony Modeste 1 FC Koln Bayern Munchen Bundesliga 17932016

■なぜ動きが少なかった?

今夏、CSLの各クラブは記録的な高額で選手を連れてくる代わりにフリーやローン移籍による補強を強いられた。結果、この夏の契約に費やされた金額はリーグ全体でもわずか1100万ポンド(約16億円)足らずである。その理由は中国から突然資本がなくなったからではない。広州恒大や上海上港などの中国有数のビッククラブは依然として中国でも最も裕福な企業の所有だ。しかし今、こうした企業が自らのチームに金銭を投入することがこれまでにないほど難しくなっている。

それはある新規則によるものである。今シーズンが開幕する前、中国サッカー協会から急ともいえるタイミングで通知された新たなレギュレーションは、クラブはリーグに関わるあらゆる試合において外国人選手を同時に3人までしか出場させることができなくなったというものだ。また、各試合の18名の招集メンバーには23歳以下の中国人選手を最低2人以上含めなければならず、その内のひとりは必ず先発させなくてはならないというルールも制定された。このレギュレーションは今後さらに改定される予定になっており、2018年にはフィールドに出ている外国人選手と同人数の23歳以下の選手を出場させなくてはならなくなる。

ずいぶん急な話ではある。しかし今夏に成立しかかっていた1億2000万ユーロ(約154億8000万円)の史上最高額の契約が、新たに適用されるレギュレーションによって阻止されるだろうといううわさが立っていたのは事実である。当時はその選手やクラブを特定できるような情報は明らかにされていなかったが、それがオーバメヤンと上海上港による契約を指すのだろうということは世間で広く信じられていた。

そしてこのうわさは現実となった。6月に発表された声明によって、CSLのクラブは外国人選手との4500万元(5800万ユーロ)以上での契約、もしくは国内選手との2000万元以上での契約には、選手移籍のレバレッジフィーとして契約にかかった費用と同等の金額を追加で支払う義務が課された。

中国サッカー協会の声明には、「2017年夏の移籍マーケットでは、4500万元(5800万ユーロ)以下での外国人選手との契約、もしくは2000万元以下での国内選手との契約については、選手移籍に伴うレバレッジフィーの適用対象とはならない」と定められている。

「しかし、(上記の金額以上の契約を結ぶ)クラブは、彼ら自身のユースアカデミーの発展のために開かれた特別な口座にその同等の金額を支払う必要がある。このプランは、ファンドが特定の用途にのみこの財源を使用することを担保するため、中国サッカー協会に提出されるものである」

「外国人選手との契約に4500万元以上、国内選手との契約に2000万元以上を支払うクラブは、若手選手の成長のサポート、グラスルーツでの取り組みや慈善設備整備の奨励、そしてフットボールの活性化に向けた国家戦略のサポートを行う目的で設立される、 “チャイニーズ・フットボール・ディベロップメント・ファンド(中国サッカー発展ファンド)”にその同等となる金額を納める義務が発生する。」

「また、もし海外のクラブに所属する選手とローン契約を結び、かつそのローンにかかる金額が所属クラブから最初に支払われた移籍金よりも低い場合は、同様に最初の移籍金額に基づいたレバレッジフィーを支払うことが求められる」

一連の規定によれば、例えばCSLのクラブがジエゴ・コスタを6000万ユーロで獲得する場合さらにもう6000万ユーロを中国サッカー発展ファンドに支払う義務が発生するため、実際にかかるコストは合計で1億2000万ユーロにまで跳ね上がる。

Diego Costa Chelsea striker

Chinese spending GFX

■不条理な制約がもたらした結果とは?

フットボールは中国政府による逃避資本への締め付けの代償を払っている状態だ。似たような制約は、中国政府によってあらゆる業界に見られる“非合理”と思われるアウトバウンド投資に適用されている。中国政府は国外への資本流出をもたらしかねない取引に懸念を持っており、高額選手の爆買いも法によって収束させられた格好だ。この秋には中国共産党第19回全国代表大会が開かれるが、習近平総書記は国家の経済と政治の安定化に最優先で取り組んでおり、その政策を推進するために今の時期を活用しようと心に決めているようだ。

CSLへの移籍がそれほど儲かるものではなくなった事実は、中国のフットボールファンや選手にとっては不幸なことかもしれない。今回のレギュレーションの制定によって、CSLへの移籍が“濡れ手に粟”のように利益が上がる時代は音を立てて停止したのである。

文=ピーター・ストーントン/Peter Staunton