昨年末、柴崎岳はFIFAクラブ・ワールドカップで“衝撃の世界デビュー”を果たした。レアル・マドリーに2発をお見舞いしたことで、スペインメディアは一斉に「Gaku Shibasakiは何者だ?」といった趣旨の報道合戦を繰り広げた。

だが、その後一年もしないうちにリーガ・エスパニョーラで躍動することを、果たしてどれだけの人が予想しただろうか?

9月16日に行われたバルセロナ戦で左足を痛めて負傷離脱してしまったものの、同じ試合では左足から鮮やかなボレーシュートを叩き込み、観衆の心をわしづかみにした。ケガに見舞われてしまったからといって、「柴崎岳、ここにあり」と自らの足で宣言してみせた事実は変わらない。

ここで話を戻すと、気になるのは「柴崎の活躍をここまで予見できた者がいたのか?」ということだ。それはつまり、ヘタフェがどれほどの期待を持って柴崎の獲得に至ったのか、という疑問につながってくる。

この問いをぶつけるべく、『Goal』はヘタフェでスポーツディレクターを務めるラモン・プラネスに話を聞いた。彼はどんな未来予想図を描きながら、柴崎と接触し、獲得を決断したのだろうか?

■柴崎の獲得は「場当たり的な補強」ではなかった

カタルーニャ州・リェイダ県出身のプラネスは、同州にあるオスピタレでスポーツディレクターとしてのキャリアをスタートした。その手腕が評判となり、エスパニョールやトッテナムといった格のクラブでも働いた。そう、エスパニョールが柴崎の同胞、MF中村俊輔を獲得したのも、彼がいたためである。

試合中、プラネスは口を開くことなく、選手の長所を見出そうとピッチに鋭い目線を送り続ける。その集中力から、彼は日本人選手に確かなポテンシャルがあることを見出していた。柴崎については、ヘタフェに到着する前、エルチェとラージョ・バジェカーノでスポーツディレクターを務めていたときから、獲得を検討していたという。

「エルチェで働いていた2年前にも彼の獲得を考えていました。ただ当時リーガ2部に所属していたあのクラブでは、スポーツ面でも財政面でも適切な条件を提示できなかったのです。あの頃のガクは、まだスペインでは無名の選手でしたね。そして昨季に従事していたラージョ・バジェカーノでもガクを引き入れようと試み、実現に限りなく近づきました。ただ彼は、より昇格に近かったテネリフェ移籍を選択しました」

■ガクに惚れ込んだワケは?

プラネスがヘタフェのスポーツディレクターに就任したのは今年の8月。そして今回も柴崎の獲得を試み、ついに実現させるに至った。

では、3つのクラブで獲得を目指した背景には何があったのだろうか? スペイン、あるいはリーガ1部で実績のない日本人選手のどんなところに惚れ込んだのだろうか?

「もちろん、彼は非常に優れたテクニックの持ち主ですが、それが私の心を突き動かした最大の動機ではありません。目を見張った部分は、その明晰さです。ガクの最たる長所は、試合の流れを読めるところにあります。ほかの選手では見つけられない相手チームの穴に、決定的なパスを通すことができるのです。彼の緩急をつけられるプレーは、初めて見たときから目を引くものでした」

プラネスは柴崎を獲得した後、自身の目に狂いがなかったことを確認したどころか、期待以上の選手であったとの確信も得ている。

「たとえ何度も視察や分析を重ねた選手でも、実際のところはクラブに加えてみないとフィットするかどうかは分かりません。しかしガクの場合は、期待を裏切るどころか、見込んだ以上でしたよ」

柴崎にとってヘタフェは、テネリフェ所属時代にリーガ1部昇格プレーオフ決勝で戦い、敗れた相手である。プラネスはそれが移籍にあたって問題になるとも考えていたようだ。

「ガクの獲得にあたって、二つの問題があると考えました。その内の一つは、日本人は一般的に慎み深い性格で、彼がヘタフェ移籍をテネリフェに対する裏切りと考えてしまうのではないか、ということでした。ですが、彼の代理人を通じて説得することができました。もう一つの問題は、リーガ1部のほかのクラブも彼に興味を示していたことです。1部のクラブにとって、2部の選手の獲得はリスクが低いですから」

プラネスによれば、柴崎に興味を示していたのはスペインのクラブだけではなかったという。

「給与などの待遇面で、もっと魅力的なオファーを提示していたクラブもあったのです。そう、多くの日本人がプレーしているドイツのクラブも、ガクの獲得を狙っていました。ですが、彼はスペインでプレーすることにこだわりました。ガクからは、この国で成功をつかみたいという強い意欲が感じられます」

では、柴崎はヘタフェのどういったところに魅力を感じたのだろうか。

「説得においてカギを握ったのは、ヘタフェが抱えているプロジェクトや、クラブが身を置く環境でしょう。日本人選手はクラブの組織がしっかりしているか、また落ち着いて仕事ができる環境があるかどうかにこだわります。ヘタフェは、そうしたものを提供できるクラブだったのです」

■柴崎獲得を進言した際、ヘタフェ首脳陣の反応は…

もちろん、たとえプラネスがある選手に惹かれたとしても、上層部や現場の承認がなければ獲得は実現できない。しかし、アンヘル・トーレス会長やホセ・ボルダラス監督に柴崎獲得を認めさせるのは容易であったようだ。

「今もヘタフェで働いている前スポーツディレクターのトニ・ムニョスはガクのことを知っていましたし、良い印象を持っていたようです。会長は獲得を提案すると、すぐさま了承してくれました。ボルダラスも2部のライバルクラブに所属していたガクのことを知っていましたし、獲得には大賛成でしたよ」

柴崎はプラネスの見込んだ通り、ヘタフェでレギュラーをつかんだ。今後はさらに攻撃の中心となることが期待されている。なぜなら、ヘタフェがリーガ1部で生き残るために、背番号10を背負うガクの存在が不可欠だからだ。

「ヘタフェの特徴は守備とその激しいプレーリズムにありますが、柴崎はそこに緩急をつけられます。リーガ1部復帰を達成したボルダラス指揮のオーケストラで、ガクはまた異なる音楽を奏でる存在なのです。彼であれば、もっと大きなチームでもプレーできると思いますが、できるだけ長く私たちと一緒にいてほしいですね。そのためには彼の力を借りながら、リーガ1部に定着しなければなりません」

インタビュー=ホセ・アントニオ・デ・ラ・ロサ(スペイン紙『アス』ヘタフェ番記者)

翻訳・文=江間慎一郎