2010年南アフリカ・ワールドカップ(W杯)で、初めて世界一に輝いたスペイン。国中が歓喜に沸いた中、下半身が動かなくなった男性がいた。同国『マルカ』が、この男性の生き様をレポートしている。

男性の名は、ルイス・マリア・ディエス。現在の彼は下半身不随で、車椅子での生活を余儀なくされている。そのきっかけは、スペインが南アフリカW杯決勝オランダ戦に現ヴィッセル神戸MFアンドレス・イニエスタのゴールで勝利し、優勝を果たしたことだった。

ルイスさんはあの決勝をラ・リオハ州ログローニョの近く、自身が生まれ育った村の野外施設で観戦。イニエスタがスペインを世界一に導いた後、ログローニョまで繰り出して友人らと優勝を派手に祝った。しかしログローニョの有名な噴水で祝宴を挙げていると、噴水にのぼり、足を滑らせて首を骨折。水中に沈んで窒息するところを友人たちが担ぎ上げた。肺が水で満たされていたルイスさんは、救急車で搬送されることに。ルイスさんはこの悲劇の間に意識があったのことで、首の痛みや体が動かないことも把握していたという。

ログローニョの緊急病棟からブルゴスの病院へと移されたディエスさんは、5日間の昏睡状態の後に目を覚まして、兄から残酷な真実を、もう二度と歩けないことを伝えられた。しかしながら、それでもルイスさんは前向きだった。先に46歳となった彼は、『マルカ』に対してこう語っている。

「あの事故からは、奪われたものより得たものの方が大きい。イニエスタのゴールが私に命を与えてくれたんだ」

「私は一から始めなくてはいけなかった。子供のように学んでいかなければならなかった。自分に言い聞かせたんだよ。『できることをすべてやっていくんだ』とね」

ルイスさんは足が動かなくなってから、前向きに生きていく意思が芽生えた。「馬鹿げたことをしていれば、人生は意味のないものとなる。何かを望むのなら闘わなくてはいけないし、人生はチャンスに満ちている」。そう話す彼が現在、最も情熱を注いでいるのがスポーツだ。テニスやサイクリングなどに興じており、一番のお気に入りは潜水であるという。

「スポーツこそが私のモチベーションであり、不平を言ったことなど一度もない。ジムに通っているほか、多種多様なスポーツに取り組んでいるよ。人生には無駄にするのが勿体無いほど様々なことがある。私は立てないじゃないかって? しかし以前の地に足をつけていた私は、すべきことをまったくしていなかった」

動かなくなった足と車椅子を生涯の友とすることになったルイスさんだが、南アフリカW杯の前より人生を謳歌しているようだ。「今はね、自転車でサンティアゴ巡礼をしようか考えているんだ」。彼は『マルカ』のインタビュアーと別れる際、「イニエスタが私に命を与えてくれたんだ」との言葉を再び繰り返して、車に乗り込んでいった。なおルイスさんにW杯優勝の喜び、新しい「命」を与えたイニエスタは、彼がリハビリに取り組んでいた際に激励のメッセージを送っていたとのことだ。