チーム内序列:レギュラー
ノルマ:先発の座を守り、アシスト数を増やす
目標:ELでの質の高いパフォーマンスと初ゴール

文=小川由紀子(フランス在住ライター)

■今季もファーストチョイスに?

7月28日に早くも公式戦(ヨーロッパリーグ予選3回戦)が控えていたマルセイユは、短い休暇の後、6月26日に始動した。シーズン終了後も試合が続いた酒井宏樹を始めとする各国代表メンバーは、10日の延長を許されて7月6日に集合。メディカルチェックを済ませ、翌日から全体練習に加わった。

EL予選までにフィジカルコンディションを実戦並に上げるために、プレシーズン中は3日おきに計7戦の調整試合が組まれた。

酒井は7月12日に行われた4戦目、ルーマニアの英雄ハジ率いるFCビトルル・コンスタンツァ戦から先発出場すると、スポルティング・リスボン戦、そしてグラスゴー・レンジャーズ戦と、ほぼ本戦仕様で臨んだプレシーズン仕上げのラスト2戦で先発出場を果たし、28日のEL予選オステンデ戦では堂々と先発メンバーに名を連ねた。

オステンデ戦の先発ラインナップには、モナコから迎えたFWヴァレール・ジェルマン、元ヴォルフスブルクのMFルイス・グスタボ、クリスタルパレスから出戻ったGKステーヴ・マンダンダ、元フランス代表DFアディル・ラミら、多くの新戦力が名を連ねた。その顔ぶれは今季の主力イレブンと言ってよく、彼らに並んだ酒井はリュディ・ガルシア監督の構想で、右サイドバックのファーストチョイスとなっていることを意味していた。

■右サイドバックの補強は無用?

昨シーズンの最終戦の数日後に開かれた総括会見の席で、ガルシア監督は夏のメルカートについて「右サイドバックの補強は急務ではない」と話していた。その時点で純粋な右サイドバックは酒井のみ、しかも軽めのケガなら痛み止めを打って出場するような状態にあったにもかかわらず、だ。この発言には、報道陣から驚きの声が漏れていた。

そして移籍市場の扉が開いた後も、指揮官の言葉通りの活動が続いた。今夏、7月終了時点でディフェンスラインに加わったのは、プロに昇格した17歳のカマラと、ギリシャのヴェリアから復帰したガエル・アンドニアン、そして前述のラミのみに留まっている。

酒井のバックアッパーとして右サイドバックに入りそうなのは、センターバックの控えでもあるロッド・ファンニ、同じくセンターバックのカマラだ。いずれもサイドは本職ではなく、純粋な右サイドバックはいない。

要するに、酒井は今季も監督の期待を一身に背負っているわけだ。

では、彼に求められていることは何なのか?

一つは晴れてヨーロッパリーグ出場が叶った場合にも、移動や過密スケジュールに順応して高いレベルのパフォーマンスをキープすること。本人が「週中にも試合があるくらいのほうがリズムが保ちやすい」と話していたように、フィジカル的にはケガさえなければ問題なさそう。しかし、尋常ならざる集中力で臨むタイプだけに、精神的に追い込みすぎてバーンアウトとなるという懸念はある。

さらにプレー面でも求められることがある。

ずばり「ゴールを決めること」だ。

■真のマルセイユ戦士になるために

ガルシア監督は酒井の課題について、こう口にしていた。

「マルセイユというクラブでは、誰もが常にゴールを狙っていくというメンタリティでなくてはならない。自分で打てそうな場面では思い切っていっていい」

指揮官だけではない。地元の記者たちも、マルセイユの先発にふさわしいDFに成長した酒井に今後求めることは「ゴールを決めること」だと口にしている。

DFであればゴールを決めることより求められることがありそうなものだ。しかし、これこそが“マルセイユの掟”ということなのだろう。

酒井は献身的な性格をしていて、仲間にチャンスを献上したいという思いが人一倍強い。しかし、確かに昨シーズンは周囲から見ていると「自分で行ってしまえばいいのに」と思わせるシーンが度々あった。

“俺がゴールを取りに行く”という姿勢でプレーすることで、周囲にも気持ちが伝わる。今までパスしか選択肢のなかった相手が突如としてゴールを奪いに来たら、守る側としてはより難しい対応が求められてくるはずだ。今季はそのハードルを越えることが求められる。

一年目の酒井は、流血さえいとわない体を張ったディフェンスでチームやファンのハートをつかんだ。

2年目の今季は、『DROIT AU BUT(ゴールへ一直線)』というクラブのスローガンを体現できる“ゴールを狙うサイドバック”になる必要がある。

もともと攻撃参加は得意としている。昨季も、チャンスをセットアップするという面では大きく貢献した。仲間たち……特にフランス代表に選出されたフロリアン・トーバンからは「君のおかげだ」とさえ言われたほどだ。

さらに一歩、ゴール前に踏み込んでシュートに挑むこと。

その光景がピッチ上で見られれば、酒井はまた一歩、“真のマルセイユ戦士”に近づく。

文=小川由紀子(フランス在住ライター)