コーチ専用のゴルフスウィング解析アプリ「SPORTS BOX AI」では、定期的にオンラインセミナーが開かれています。海外でこのアプリを使用しているコーチ達が、それぞれ膨大なデータを取り、「マーカーレス3Dモーションキャプチャー」の解析から判明してきたことを定期的に発表している。今回は、先日の全米オープンを制したマシュー・フィッツパトリックのスウィングについてゴルフコーチ・北野達郎が分析してみた。

つねにグリップを短めに持ち、正確無比なショットを放つフィッツパトリック。彼のスウィングの特徴は3つあると北野プロ。

「まず1つめがアドレスです。ドライバーはクローズスタンスに構えて、右足に比べて左足のつま先をよりオープンに開いています。このクローズスタンスは、テークバックのクラブ軌道と関連していて、クラブがインサイド、かつ手も背中側の深いポジションに上がりやすくなります。これに近い傾向は、往年のグランドスラマーのベン・ホーガン、ゲーリー・プレーヤーなどにも見られますね。ただホーガンやプレーヤ―と違う点はグリップで、左手が強めのストロング、右手がスクエアと左右のグリップで違う握り方をしているところです。この握り方では左手首の掌屈はあまり入らないため、トップでクラブは目標よりも左を差すレイドオフですが、左手首は掌屈ではなく、フラット、むしろ背屈に近い傾向なのも彼の特徴と言えます」

通常、アマチュアがフィッツパトリックのようにインサイドにテークバックを行った場合、ダウンスウィングでは逆に手とクラブが、テークバックの反動でボール側に押し出されて「アウトサイドイン」軌道になりやすいという。

「そのためレッスンでは『NO』と言われるケースが多いですが、フィッツパトリックの場合は、トップから切り返しにかけて「腕の脱力と軟らかさ」を上手に使ってクラブを重力で自然落下させることができているので、クラブがアウトサイドから降りることなく、緩やかな軌道で下ろしてこれています。アマチュアの方でも体が硬い人や、クラブを手だけで高く上げてしまう人にはクローズスタンスでクラブと手を背中側の深いポジションに入れる意識をもつと、トップまでしっかりターンできるようになる効果が期待できます」

フィッツパトリックがよく練習や、アプローチでおこなっている「クロスハンドドリル」も手を深い位置に上げるイメージを出すのに効果的だという。

「ポイントはややハンドファーストの形を取り、そのポジションを変えずに右脇がやや締まった状態のままでテークバックすること。右脇が空いてしまうと手上げになり、体のターンも浅くなるので気をつけましょう。うまくできるとややインサイドアウト軌道でドローボールが打てます」

クロスハンドでちゃんとボールにヒットさせるのは難しいので、トップまでのイメージ作りの練習として素振りだけでも効果があるという。

「2つ目の特徴はフォワードプレス、足は右へ、手は左へと、手足でそれぞれ反対方向に動かしてから始動するのが特徴的です。これはヘンリック・ステンソンなどにも見られる動きで、静から動へのスタートをスムーズにしながら、右足へのウエイトシフトを早めにおこなうことで、その後のトップ〜ダウンにかけての左足へのウエイトシフトを早くスムーズにおこなえるというメリットがあります。スポーツボックスAIのアドレス時のデータ(単位はインチ、始動直前を0の位置とします)を見ると、最初の写真で骨盤は0.2左、手は−0.4右にあります。2枚目の写真のデータを見ると、骨盤が0.2左から−0.2左で、僅かにマイナス(右方向)に数字が変わるのに対して、手は−0.4右→−0.2右と、骨盤とは逆方向のプラス(左方向)寄りに動いているのがわかります。彼はこの始動でハンドファーストを強調させる事で、先述の深いテークバックに入りやすくしているのです」

そして3つ目の特徴が左足つま先をやや開いている点。

「これは先ほどのクローズスタンスとストロンググリップが関係していて、この状態で左足つま先を閉じてしまうと、ダウンスウィング以降の下半身の回転が止まるので、身体の右サイドが下がって過剰にシャフトが寝るのでフェースが返りやすくなってしまい、チーピンなど左へのミスが起こりやすくなります」

そこで左足つま先を開くことによって、下半身の回転がインパクトまで止まることなくスムーズにおこなえるようになるため、つねに下半身リードでフェースと手を返さずスクエアなフェースの向きを長く保てるようになるという。

「ドライバーとアイアンでスウェイ量が異なるのも彼の特徴です。ドライバーはトップで胸が−4.3(右)、骨盤が−2.6(右)と右足にしっかりと乗っていくデータが表れていますが、アイアンは胸−0.1(右)、骨盤1.1(左)と、ほとんど右足に加重せずその場でターンしています。むしろやや左軸寄りのトップです。右へのスライドが多くなると入射角はアッパーブローになりますので、「アッパーブローに打ちたいドライバーは右足にしっかり加重して、ダウンブローに打ちたいアイアンはその場でターンして入射角を打ち分ける」というプロ特有の技術です。彼のようにドライバーとアイアンでスウィングに変化をつけるプロは、最近の代表例だと飛距離アップに取り組んだブライソン・デシャンボーなどがいます」

アドレス、グリップ、スタンスそれぞれに特徴があるマシュー・フィッツパトリック。オーソドックスなスウィングにとらわれず、打ちたいショットや身体の特徴から逆算して作り上げた彼のスウィングは、まさに全米オープン勝者にふさわしい強い個性と意思が表れたスウィングと言えるだろう。