「ゴルフ科学者」ことブライソン・デシャンボーの「教科書」であり、50年以上も前に米国で発表された書物でありながら、現在でも多くのPGAプレイヤー、また指導者に絶大な影響を与え続ける「ザ・ゴルフィングマシーン」。その解釈者でインストラクターでもある大庭可南太が、前回に引き続きTPI(Titleist Performance Institute)の取り組みについて紹介する。

みなさんこんにちは。ザ・ゴルフィングマシーン研究家で、ゴルフインストラクターの大庭可南太です。さて今週も、先日参加してきましたTPI(Titleist Performance Institute)のセミナーの内容から、PGAツアーでのショートゲームについての考え方を紹介したいと思います。

「Drive is Show, Put is Money」はウソ!?

TPIセミナーの3日目に教壇に立ったジェームス・シックマン氏は、PGAツアーでも多くのプロのショートゲームコーチを務め、パッティングやアプローチの書籍も出されている有名コーチです(私は知りませんでしたが笑)。

冒頭からシックマン氏が指摘されていたのは、「Driver is Show, Put is Money(プロはドライバーで観客を魅了し、パットでお金を稼いでいる)」というのは完全な誤りであるということでした。

ツアーの中継を見ていると、長いパットを沈めた映像が多くなりますし、結局パットで最終的なホールの成績が決まるので、どうしても強い選手はパットが上手いと思いがちなのですが、実際にデータを見るとそうとは言えないというのです。

みなさんご存知のスコッティ・キャメロン氏が、30年以上前に初めてパッティングにおけるボールの動作解析にハイスピードカメラを使用して、様々な科学的分析を行ってきましたが、それでも8フィート(約2.4メートル)のパットが入る確率は50%にしかならないというのです。

これは名プレーヤーでも、機械を使ったテストでもそうなるということで、例えばパットの名手として知られるルーク・ドナルド(2011年に世界ランク1位)のストロークゲインド・パッティング(PGA平均に比べてどれだけパットで優れたかの指標)は、「+0.7」でした。

これはこれでかなり驚異的な数字なのですが、さきほどの8フィートのパットで言えば、平均的には入る確率が50%なので、二人に一人は外すということになります。つまりプロAは一打で入れ、プロBは二打で入れるということですので、平均打数は1.5になります。

これを一打で入れると、その選手はそのパットで「0.5打稼いだ(平均より上回った)」ことになります。ルーク・ドナルドの場合、毎ラウンド3ホールに2回くらい一打で入れたということになります。すると1ラウンドあたり、他の選手に比べて0.7打パットでスコアを縮めていたという統計になるわけです(本当はもう少し難しい計算をしていますが単純化しました)。

しかし同じ8フィートでも、上りの真っ直ぐと、下りのスライスラインでは入る確率がかなり変わってきますので、パットが少ない人というのは「良いラインにつける」能力と、「3パットをしない」能力が高いということになり、つまり「カップインする一打前のショットの精度」が高いことが本質的に重要だというわけです。

というわけで、パー4でグリーンオンさせる2打目、あるいはパーオンを逃したのであればアプローチの3打目の精度が大事になりますが、ラフからグリーンを狙ってバーディチャンスにつけるのは昨今のPGAのセッティングではかなり難しいため、結局ドライバーでフェアウェイキープをすることが重要になります。

つまりPGAの選手は統計上、ドライバーと、グリーンオンさせるショットでスコアを稼いでいるので、「Driver is Show, Put is Money」なんてウソだよ、ということになります。もちろん「勝ったときはパットが良く入った」ということはあるにせよ、シーズンを通じてそれをよりどころに良い成績を収めるのはムリだというわけです。やっと前置きは終わります。

ウェッジゲームの「カルチャー(考え方)」とは?

そこでいわゆるグリーン周りのショットが上手な人が何をやっているかを調べると、フルショットと完全に切り替えて違うことをやっているというのです。つまり、ウェッジゲームの独自の「カルチャー(文化、考え方)」を作ることが重要だというのです。

そのウェッジゲーム専用の概念をフィネスウェッジ(Finesse Wedge、Finesseは「技巧」などの意味)というのですが、大事なことは本人にとって「Forgiveness=やさしい」、つまり成功確率の高いショットであることと、「Versatility=多才」、状況に合わせた高さや柔らかさを出せることだというのです。

では具体的にフルショットの場合と何が違うのかですが
(1) ハンドファーストにし過ぎない
インパクトをクリーンにするためにハンドファーストにするとウェッジのバウンスがなくなってしまうので、ほぼシャフトが地面に垂直な状態でインパクトするイメージを持つ(球を低くしたい場合を除く)

(2) 左足体重
どれほど高さを出したくても、右足体重ではすくい上げるヘッド軌道になるため、ほぼ全ての状況で左足体重。高さはロフトで出すもの

(3) 左腕は「スパゲッティアーム」
これも面白い表現なのですが、左腕はぶらーんと伸びているが決して硬さはない状態であるべきで、さながらスパゲッティが左肩から垂れ下がっているくらいのイメージ

そのようなセットアップのイメージを持った上で、ボール位置でインパクト軌道の緩急、フェースを開く・閉じる、スタンスのオープン・クローズなどの変化をつけることで、ほぼどのような状況にも対応できるということでした。

そしてアプローチショットでも、「高さを出して止められることが絶対条件」。そもそもTPIのテストコースも地面が「固まった砂」のように硬く、その表面に密度の濃い洋芝が貼り付いているような状態なので、どうしてもボールが強く出てしまいがちです。カート道から柔らかくアプローチするのって難しいと思いますが、究極的にはそういう技術が必要なのだと思います。

ちなみに「ザ・ゴルフィングマシーン」では、主にフルショット時のパワーを伝えやすい構造について書かれていますので、かなりしつこくハンドファーストを推奨する内容になっていますが、アプローチになると話は変わってくるという点で非常に興味深い内容でした。

来週はもう少し実践的な内容をご紹介したいと思います。