ジャック・ニクラスがホストを務めるザ・メモリアルトーナメントで14年の年間王者ビリー・ホーシェルが1年2カ月ぶりの優勝を挙げた。ニクラス夫妻と最愛の家族に祝福され満面の笑み。前週チャールズ・シュワッブ・チャレンジで予選落ちを喫した悔しさをバネに勝ち取ったツアー7勝目はいろいろな意味でスペシャルな勝利だった。

18番グリーンサイドで妻ブリタニーさんと3人の子供がパパの優勝シーンを見届けた。末っ子長男のブルックスくんは興奮の余りまだグリーン上のプレーが残っているのに号泣し始め、長女リリアンちゃんと次女レイちゃんは小さな手で盛大な拍手を送って父の勝利を称えた。

「特別なことは何もせずパーオンして2パットで上がることだけをやり抜いた。ジャック(ニクラス)やタイガーがやってきたことを見習って冷静なマネジメントを心がけた。家族の前で勝ったことがないので今回も勝てないのかな、と思った瞬間もあったけれど、こうして優勝することができて本当にスペシャルだ」

前週は予選落ち。勝ったのはツアーで唯一のチーム戦チューリッヒ・クラシックで2位に入ったときタッグを組んでいたサム・バーンズ。朋友が大逆転で勝利の美酒に酔いしれていたときホーシェルは「悪いプレーではなかったのにどうして予選を通れなかったのか?」を考えた。その結果閃いたのが「せっかち封印」作戦。

「もともとせっかちですぐに決断してしまうクセがある。どこを狙ってどういうマネジメントをおこなうのか? それを考える時間をいつもよりほんの10秒か15秒長くした。構えた後はいつも通りだけれどその前の時間をせっかちになり過ぎず冷静になるように心がけた」

その結果3日目に65の好スコアで2位に5打差をつける圧勝ペースを築き上げた。「5ストロークのアドバンテージをもって最終日を迎えるのは初めて。でもそういう想像は何度もしたことがある」と最終日も落ち着いたプレーでクラッチパットを沈め続け、15番でおよそ15メートルのイーグルパットをねじ込み圧勝した。

14年のツアー選手権に優勝してから17年のAT&Tバイロン・ネルソンに勝つまで3年間勝てない時期があった。当時「なぜ勝てなかったのか?」と問われたホーシェルが記者の前で号泣したことがある。

それは妻がアルコール依存症と戦っていた時期に重なっていたからだ。妻が施設で治療を受け療養している間、ホーシェルは生まれて間もない長女の面倒を見ながらツアーで必死に戦っていた。AT&Aで復活優勝を飾ったときには妻自らSNSで依存症との戦いをカミングアウト。それまで妻の件に関して沈黙を守っていたホーシェルは「彼女は最高の妻であり母親」と言って涙を流したのだ。

会場に自分の身長ほどのマイクラブを持ち込んだブルックスくんは父の跡を継ぐべくゴルフに熱中しているという。華やかな家族の笑顔を見ると夫婦に辛い過去があったことが想像できない。

「メジャーで成績を残せていないことが歯がゆい」というホーシェルは目前に迫った全米オープンで今度こそ「特別なことをしない」ゴルフで戴冠を目指す。