新しいゴルファーを地域で一丸となって作り出して、育成する「オール九州ゴルフプロジェクト」。イベントの仕掛人のひとりである矢野経済研究所・三石茂樹氏が現地取材してレポートする。

福岡地区のゴルフ産業横断型プロジェクト「オール九州ゴルフプロジェクト」は福岡地区のゴルフ練習場、ゴルフスクール、ゴルフコース(ショートコース)、ゴルフショップにて構成されており、具体的には現在、

・大野城スカイゴルフセンター(福岡県大野城市)
・グランドゴルフセンター(福岡県糟屋郡・福岡空港の近く)
・ハミングバードゴルフガーデン(福岡県大野城市)
・TSHOT小郡(福岡県小郡市)
・マキトゴルフガーデン(福岡県八女郡)
・大岳ショートコース(福岡県福岡市東区)
・ゴルフ5太宰府インター店(福岡県大野城市)

以上のメンバーによって構成されている。ミッションは「新規ゴルファーの“共創”」だ。

地域のゴルフ練習場及び練習場に付帯しているゴルフスクールは、大都市圏に比べて施設数が多い割にはゴルファーの絶対数は少なく、どうしても「既存顧客の奪い合い」に終始する傾向が強かった。このような産業構造だと、どうしても「新規顧客の創出、創造」という発想になりにくく、それが国内におけるゴルフ産業の持続的な発展に向け、「足枷」となっている面があった。

そこで、「地域の業界関係者が横連携して新しいゴルファーを創出して育てよう」という「種まき」的な意味合いの強いプロジェクトを提案。これは当社(矢野経済研究所)が日本プロゴルフ協会(PGA)との市場再活性化実現に向けた戦略立案サポートの中で生まれたものだ(画像A参照)。

いきなりゴルフ場を体験させるという「逆転の発想」

このプロジェクトは発足してすでに2年以上が経過している。当初は新規ゴルファー創出プログラム「PGAゴルフデビュープログラム」の展開強化を目的に結成されたが、2020年の新型コロナウイルス感染拡大によりプログラムそのものの展開が難しくなってしまったこと、また2020年後半からは図らずも結果的に若年齢層を中心とした新規ゴルファーが創出されたこともあり、プログラムそのものが「宙ぶらりん」のような格好となってしまっていた。
「コロナ前」のゴルフ産業にとっての至上命題は「新規ゴルファーの創出」だったが、「コロナ後」は図らずも新規ゴルファー増加が現実のものとなった。しかしながらそれが実現したらしたで新たな課題が出てきたのだ。その課題というのは2つ。

ひとつは「エチケットとマナーの問題」。新規ゴルファーがグループで来場してくれ、楽しく球を打っているのだが、それが度を越してしまうと既存のゴルファーからするとうるさくなてしまう。またそれを注意する存在もない。
もうひとつは「早期リタイアの懸念」。ゴルフを始めてくれたのはいいけれど、球が上手く当たらなくて飽きてしまったり、コロナが収束して生活がもとに戻ったらゴルフを止めてしまうのではないか、という心配だ。

2015年に実施した「ビギナー、早期リタイアゴルファー実態調査」によると、ゴルフを始めて1年以内でやめてしまう「早期リタイアゴルファー」は、「ゴルフコースを体験することなく、練習場で球を打ち続ける人」ということがわかった。逆に考えるとゴルフを始めた早い段階でゴルフコースを体験した人はゴルフ継続率が向上する、ということになる。

ちなみに私のようなバブル終焉期に社会人になった世代が社会人になりゴルフを始めた頃は、会社の上司や先輩から「初任給でクラブセットを買え」「トラック1台分の球を練習場でひたすら打て」「そこそこ球が前に飛ぶようになる」、そうしたらゴルフ場デビューを解禁してやる的なことを言われたものである。いまの時代だったら完全パワハラ案件だが、当時はそうした「会社内のヒエラルキー、コミュニティ」の存在により「新規ゴルファーが創出される」文化があった。つまりゴルフを始めたビギナーがまず足を運ぶべきは「ゴルフ練習場」であり、いきなりゴルフ場に足を踏み入れることは基本的に許されなかったのだ。

もちろんいまでも「ゴルフ練習場」である種の「修行」をおこないステップアップを果たした後にコースデビューを果たすというのは「王道」ではあるが、そこまでの過程の中で「心折れて」ゴルフクラブを置いてしまう初心者が多いのもまた事実。ほかにも、ゴルフを始めた人が「ゴルフの楽しさ」を実感できるまでに平均してどのくらいの時間がかかるのか? について調査したことがあるが、その時は「平均2年10か月、スコア115」という調査結果であった。
ゴルフを始めて約3年、スコアでいえば「ダボペース」で回れる腕前を身につけなければ、いまの日本のゴルフ文化のもとではゴルフを「楽しい」と感じることができない、ということである。

なんとかもっと手短に手軽に「ゴルフの真の楽しさ」を実感してもらうことはできないものか……。そんな時にプロジェクトメンバーから上がったアイデアが「初心者、未経験者にいきなりゴルフ場を体験させてしまう“ゴルフ場体験機会の早期創出”」だった。

もちろん初心者、未経験者にゴルフ場のスタート枠を使って18ホールプレーしてもらうことは現実的ではない。その日プレーするほかのプレーヤーに迷惑が及ぶのはほぼ確実であるし、何よりプレーする本人たちにとっては「楽しさ」よりも「辛さ」のほうが勝ってしまうだろう。それなら、最終組がプレーを終えたホールを使い「ゴルフコースの雄大さ」や「クラブハウスの豪華さ」「レストランでの食事」「浴室の広さ」などといった「ゴルフ場だけがもつ優良コンテンツ」を体験してもらうことで、「ああ! 私もいつかここでプレーしてみたい」という欲求を喚起すれば、その後のゴルフ継続(またはゴルフを始めてもらうきっかけ)に繋がるのではないか。

プロジェクトメンバーのアイデアをベースに具体的なカリキュラムや集客方法などを考え、ゴルフ未経験者及びゴルフコース未経験者を対象とした「ゴルフコース体験会」のフォーマットが固まった。

2021年12月18日、第1回目の体験会実施

2021年12月18日(土)に福岡県福岡市博多区の「志賀島」という島の手前にある「大岳ショートコース」にてプロジェクトとしては初となる「ゴルフコース体験会」を開催、カリキュラムは以下のような構成とした。

【1】座学

ゴルフ場でプレーをおこなう際の「マナー・エチケット」についての講義を実施。ゴルフにおけるマナー・エチケットというととかく「あれをしてはダメ」「これをしてはダメ」という制約面ばかりが強調されがちだが、まずは「何故ゴルフをプレーする上でマナー・エチケットを遵守しなければならないのか」という根幹的な説明をし、そこから紐づく各種エチケット・マナーについて説明をおこなった。ゴルフコースを訪れて帰るまでの一連の流れについてはインターネット動画(Youtube)を使って視覚的に理解を深めてもらうようにした。

【2】アプローチ&パター体験、レンジでのワンポイントレッスン

8名ずつのグループに分かれ、「アプローチ&パター体験(レッスン)」とゴルフレンジでの「ワンポイントレッスン(アイアンショット)」を実施。実際の芝の上でのショットやグリーンでのパッティングを体験したことがない参加者にとっては「新鮮な驚き」だったようで、みんな夢中になってボールを打っていたのが印象的だった。

【3】4ホールの実践体験

大岳ショートコースの1番〜4番ホールを使用して実際のホールを体験。1ホール目は球を打たず、コース内の「ティーイングエリア」「フェアウェイ」「ラフ」「バンカー」「OB杭」「グリーン」について歩きながら説明をおこなった。

2ホール目ではティーショット体験。実際にティーイングエリアから好きな番手でティーショットを打ってみる。そして3ホール目でアプローチ体験。グリーン手前30ヤード程度のところから実際に芝の上でアプローチショットを打ち、カップインまで実践。そして4ホール目で、まるまる1ホール、ティーイングエリアからティーショットを打ち、カップインするまでを体験してもらった。

参加者からは「寒かったけど楽しかった」「コースに出ることに壁を感じていたけれど、今日の体験でコースに行ってみた気持ちが強くなった」などの声を頂戴した。上述したように天候面には決して恵まれたとは言えない1日だったが、参加者の楽しそうな顔、嬉しそうな顔を見て「いろいろ大変だったけれどやってみてよかった」と心から感じた次第である。

今後の課題は「やりっぱなし」にしないこと

実際に開催してみて強く感じているのが「やって終わりにしてはいけない」ということ、「やる側のマスターベーションで終わらせてはいけない」ということ。
参加者も、ゴルフ体験をしてお土産をもらってしばらくの間は「ゴルフ熱」が上がるかもしれないが、そのまま「ほったらかし」にしておけばその熱も早い段階で冷めてしまう可能性が高く、結局「コースデビュー」を果たさずに終わってしまう可能性も否定できない。参加者の生活の「なるべく真ん中寄り」にゴルフが存在するよう、プロジェクトとして二の手、三の手を講じていく必要性を強く感じている。具体的には、「その後のゴルフライフ」に関するアンケート調査を実施したり、インスタグラムなどSNSにて「ゴルフコース体験会」のアカウントを作成、参加者がその後のゴルフライフに関する投稿を行ったり、ゴルフに関する悩みを相談したり、ゴルフに行く仲間を募ったりできる「その後の受け皿」を構築するなどが必要だろう。

大切なのは「やりっ放しにしないこと」、そして「実施の効果を把握できるようにすること」。まだまだ暗中模索の状態が続くとは思うが、参加者の楽しそうな姿を生で見た限りでは、今回の「未経験者をイキナリゴルフ場に連れて行っちゃう」という企画は十分に「アリ」なのではないかと感じている。

もうひとつ重要なことは、現在のゴルフ場は「とても忙しい」状態と言える。そのような中、大した儲けにもならない今回のような「将来に向けた種まき」的な施策に理解を示して、門戸を開放してくれるゴルフ場が果たしてどの程度存在するのか。いや、「どの程度存在するのか」ではなく、私自身がどのようにして「ゴルフ場側の理解と賛同を得るためのアクションを起こせるのか」ということが重要であると感じている。

今後は九州地方のみならず他の地方でも未経験者を対象としたゴルフコース体験会を展開していく計画であるが、来年は全国のゴルフ場を「口説く」という仕事が新たに加わりそうである。「コロナ後」を見据えた「日本のゴルフの多様化」実現に向けて果たしてどこまで貢献できるのか。私にとっての来年の大きなチャレンジテーマとなりそうである。