ひとつのテーマを二人の論者が違った視点からアプローチして、その本質に切り込むgooニュース×Voice連携企画「話題のテーマに賛否両論!」。今月のテーマは新型インフルエンザ対策です。

新型インフルエンザ対策・過剰騒ぎの裏にある無責任:藤代裕之(ジャーナリスト)

WHOは検疫に否定的

国内に患者が広がった新型インフルエンザ。成田空港などでの水際作戦、出張自粛、マスク装着と売り切れ、そして風評被害による宿泊キャンセルや商店街の臨時休業。死者が一人も出ていないにもかかわらず、「冷静に行動を」と呼び掛けながら事態を煽り立てるマスメディアによって、「パンデミック」がつくられている。

厚生労働省は、メキシコでの新型インフルエンザの流行、WHOが世界的流行の警戒水準を「フェーズ3」から「フェーズ4」に引き上げたことを受け、鳥インフルエンザ発生を想定した「新型インフルエンザ対策ガイドライン」に基づき対策を行なった。成田・中部・関西の各国際空港でメキシコ・米国・カナダから到着した旅客機の機内検疫を実施。舛添厚労相は「水際で全力阻止する」とぶち上げた。

テレビでは、防護服にマスク姿の検疫官が、サーモグラフィーを搭載したビデオカメラを手に機内をチェックする映像が繰り返し流された。

五月八日夕方、カナダからアメリカ経由で帰国した高校生と教諭が成田の機内検疫で発熱を訴え、国内初の新型インフルエンザ感染者となり、機内で周囲に座っていた人々も成田空港近くの宿泊施設に足止めされる停留措置がとられた。マスメディアは空港から、ホテルから、病院から生中継し、水際作戦成功の「大本営発表」を伝えた。が、数日後、兵庫県で高校生の多数の患者が報告され、渡航歴がなかったことから水際作戦の崩壊が明らかになる。

なぜかマスメディアでは紹介されることはなかったが、水際作戦の有効性については、当初から専門家のあいだで疑問の声が上がっていた。

厚生労働省検疫官で『厚生労働省崩壊』の著書がある木村盛世氏は、ウェブサイトで「『空に国境なし』の現代、国内に入ることを防ぐことはできません」「私たち人間は過去何度も新しい型のインフルエンザから攻撃されました。そこで学んだことは、水際での食い止めは不可能であり、学校閉鎖・集会の禁止・デパートなどの閉鎖は全く意味がないということです」と、その無意味さを指摘している。

日本感染症学会・新型インフルエンザ対策ワーキンググループも緊急提言「一般医療機関における新型インフルエンザへの対応について」を行ない、厚労省のガイドラインは水際撃退作戦を想定した行政機関向けガイドラインで、実際に流行した場合には対応が異なること、数年前のSARSとは異なり、発症前から感染性をもつため、封じ込めは困難であることなどを指摘。「宇宙服のような防護服に代表されるような対策を目の当たりにして『我々の病院では新型インフルエンザ対策は困難なので新型インフルエンザの患者は受診させない』として最初から対策を放棄してしまう病院が多数出ることが予想される」と注意を促しているほどだ。

WHOもまた検疫の効果に否定的見解を示しており、国際基準にも逆行している。普段は国際基準が大好きなマスメディアはなぜか水際対策に疑問を挟まなかったが、その対策アピールの防護服が先の緊急提言にあるように、一般的な医師に診療放棄をさせてしまう原因になってしまうなら、本末転倒ではないか。

あるいは検疫や感染症の専門家でなくとも、水際作戦が抜け穴だらけの可能性があることは予想できるはずだ。

新型インフルエンザは潜伏期間が一週間ほどあるといわれており、発熱していなくても感染している可能性がある。この場合、自覚症状もないだろう。もちろん、発熱があるなど体調が悪化している人が自主的に申告するかどうかも確実ではない。簡易検査の段階で、あれだけマスコミに騒がれホテルに足止めされるのだ。「面倒くさい」と思う人がいないとは言い切れない。

またグローバル化にともない、人々は気軽に飛行機で移動できるようになっている。マスメディアが連日動きを報道した国際三空港以外にも、国内の地方空港から国際便が飛んでいる時代だ。韓国や中国を経由して欧米へ旅行していないとはかぎらないし、トランジットの空港で感染地域からの人々と接触していないと誰が確認するのか。

医療資源の無駄遣い

このようなマスメディアのその場凌ぎの報道が何をもたらしているか。それは「医療資源の無駄遣い」だ。

対策グループの緊急提言にも書かれているが、二十世紀の新型インフルエンザは国内で二回の流行を引き起こしている。ウイルスは一度沈静化して再び活動し、二度目の被害が甚大なことが多い。つまり新型インフルエンザとの「戦争」を乗り切るためには、目前の対策だけでなく、中長期で考え、医療資源をどの程度配分すべきかを考えておく必要がある。

しかしながら、水際作戦でそうとうの「戦力」を浪費した。ゴールデンウィークで多くの海外渡航者が空港を利用していたこともあって、検疫官待ちで数時間も機内待機したり、検疫官が空港内を右往左往した姿が報道されるや、厚労省は不足する人員を補うため、自衛隊や全国の大学病院などから応援を得て態勢を強化した。全国の保健所でも大量の人員を投入、帰国者の健康状態を追跡調査した。

報道によると、国立感染症研究所の専門家が厚労省の会議で「これ以上検疫に人的資源をつぎ込むと国内の医療対策がおろそかになる。徐々に減らすべきだ」と助言したという。厚労省のアドバイザーで、新型インフルエンザ患者の治療にあたっている神戸大学大学院の岩田健太郎教授も、「心筋梗塞などの治療がおざなりになるのは本末転倒。重症度に応じた治療にするべきだ」と訴える。

明確な方向転換ができず、水際作戦は約一カ月続いた。なぜか。五月十一日の参議院予算委員会で「季節性インフルエンザと毒性は変わらない」と対応を緩和するよう求められた舛添厚労相は「手を抜いて死んだらどうするのか」と反論している。この発言が大きなヒントになる。
つまり誰も責任を取りたくないのだ。

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