スタジオジブリのプロデューサー鈴木敏夫さんのインタビューは予定の時間をオーバーしていた。終わらなければいけないが、肝心なことを聞いていない。宮崎駿さんとの関係だ。(佐藤譲・京都大学)

■自分の立脚点が分からなくなる

鈴木さんはプロデューサーとしてクリエイターたちを支えている。自分より優れた才能を持った人を世に出す、世に問うからプロデューサーをやっているのだと教えてくれた。でも、プロデューサーは自分以外の人を活かす仕事だ。自分で何かを為そうとは考えないのだろうか。もう一度聞いてみる。

 

「それはありえないと思っているんだよね。多くの人が指摘しているように、人は人との関係で何かをやると思っている。映画だろうが、漫画だろうが、音楽だろうが、必ず誰かが介在する。やっぱりその中で生まれるもの。人間の世界っていうのはね、1+1が3になったり、10になったりする。逆に、マイナスになることもあるけどね」

鈴木さんは現在、TOKYO FMで「鈴木敏夫のジブリ汗まみれ」というラジオ番組のパーソナリティーを務めている。鈴木さんが様々なゲストと対話したものを収録する番組だ。この番組は用意してきた言葉が無い。鈴木さんは目の前にいる相手との関係性を大事にし、その空間でしか紡ぎ出せない言葉で話す。だから、面白い。「おれなんかはね、ともすると自分の立脚点というのが分からなくなっちゃうから困るんだよね」。
自分で何かをするよりも、他人との関係性を重視する。だから、自分がどこにあるのか分からなくなるのかもしれない。

■鈴木敏夫は汗をかかない

ラジオ番組のタイトルに入っている「汗まみれ」という言葉。鈴木さんはこの言葉を好んで使う。いつから使い始めたのかと尋ねると、本棚から雑誌を取り出してくれた。

「昔、こういう本を作ったことがあるのよ」。それは『あしたのジョー』で知られる漫画家ちばてつやさんを特集した雑誌。そのなかのとある頁で、こんなに頑張ってきたよ、ということを伝えようと書いた。

「それでね、汗まみれという言葉は、ある意味でおれからは一番遠い言葉かなって思って」

汗をかくというのは行動するということ。鈴木さんはよく「今の若者、今の映画は汗をかかない」と言うが、実は鈴木さん自身が汗をかかない人間じゃないのですか、そう伝えると、「よく分かってるなぁ」と嬉しそうに笑った。会うまでは「考えるより行動する人」という印象もあったが、話しているうちに「行動するより考える人」なのだと分かった。


汗をかかない鈴木さんとは正反対なのが宮崎さんだ。宮崎さんは距離を置かない。行動する。
「宮崎駿はね、対象に近づいていって同化する。やっぱり作家だよね」。宮崎さんも鈴木さんと同じく堀田善衞さんのことが好きだ。ジブリが出版した堀田さんの著作の帯に宮崎さんがコメントを寄せている。

「堀田さんは、海原に屹立している巌のような方だった。潮に流されて、自分の位置が判らなくなった時、ぼくは何度も堀田さんにたすけられた」

鈴木さんが堀田さんを好きなのは分かるが、宮崎さんが堀田さんを好きなのが分からない。そう鈴木さんに尋ねると、「そうだね。勘違いに違いないよね」。続けて、こう宮崎さんを評した。「宮崎駿ってね、誤読の天才なんですよ」。

「宮崎駿がある本を読む。で、話を聞くと面白いんだけど、実際にその本を読んでみるとそんなことどこにも書いていないの。つまりね、その本を読んで刺激を受けて、自分で想像する。そういうことが好きな人。だから天才」そして、自分のことをこう評した。「おれなんか、どっちかというと、読解の方が好きだからね。作家の素養がない」。

■進化する宮崎、追い越そうとする鈴木

鈴木さんは分からないものにぶつかるとその答えを見つけたくなる。問題を提起して、解答へとたどり着くのが好き。そんな鈴木さんに、ずっと付き合っていて宮崎さんのことは分かるか、と尋ねた。すると、嬉しそうにこう言う。

「進化していく。それをどうやって先回りするかがおれのテーマ。ずっと続いているゲームだよね。むちゃくちゃ面白い。捕まえようと思ったら、また変わってるんだもん。増幅していく。肥大していく。そこが面白いよね」。進化する宮崎駿。それを追い越そうとする鈴木敏夫。そして、その様を面白がるもう一人の鈴木敏夫。

誰よりも宮崎さんの監督作品を待ち望んでいる鈴木さん。現在、新たな企画について、宮崎さんと話しているようだ。次回作について考えていると、ワクワクするという。宮崎駿はどこへ行くのか、知りたくて仕方ないのだ。「もう60歳でしょ。60になってこんなこと考えていられるってのは、幸せかなって。そう思っています。それもこれもね、宮崎駿という才能に出会えたから。本当にそう思う」。

■ジブリの屋上にて


「ありがとうございました」。長いインタビューを終え、お礼を言うと、「こんなインタビュー珍しいよ。たいがい、つまんないことばっか言われてさ。今日だってやだなーって実は思ってたの」。隣の部屋の声、聞こえていました・・・。

写真を撮るためにいい場所がある、そういわれて屋上に連れて行ってもらった。そこは屋上なのになぜか森のように鬱蒼と植物が生え、気持ちのいい風が吹き抜けていた。別れ際、鈴木さんは言った。「面白いよ、世の中は」。僕の代わりに猫が「にゃお」と答えた。


この記事はgooニュースと大学生向けのジャーナリスト育成プログラム「スイッチオンプロジェクト」のコラボレーションによるものです。