みなさま、ソチ五輪のフィギュアスケート観戦はいかがでしたでしょうか? 様々な五輪特集やテレビ番組などでまだまだ感動の余韻に浸っている方、また、すでに心は3月末に開催の世界選手権に移行している方もいらっしゃるかもしれません。私は「ソチ五輪を何とか現地で観戦したい!」という野望を抱き、1年前から粛々と計画を始め、いろいろな方のお世話になりつつ何とかチケット、ホテル、フライトなどの手配・調整に成功! 人生初の五輪観戦に参加して参りました。(渡辺佳子)

 観戦はフィギュアスケートにしぼって、ペアから男子シングル、アイスダンス、女子シングルまで。聖火に近い「アイスバーグ」というリンクに通い、悲喜こもごものドラマを目のあたりにしてきました。19時に競技スタート、上位選手の登場は22時近くというタイムスケジュールは、終わってホテルに戻ると深夜過ぎという日々。現地でもこの毎日はきつかったわけですが、5時間時差でこの時間帯の競技を見る、日本でのリアルタイム観戦は相当過酷でしたね。それにも関わらず多くの方が生中継で試合を観戦していることに驚きました。でも、羽生結弦選手の金メダル決定の瞬間、浅田真央選手の涙が笑顔に変わった瞬間などはやはりライブで観ているからこそ感動もひとしお。記憶に残る映像でしたよね。

 現地リンクではバックステージの様子はわかりませんし、顔の表情まで見えるほど近い席ではなかったので、帰国後にテレビ放送の録画を見て、ああこんな表情だったんだ、とか演技後のインタビューではこんなことを言っていたんだと、またそこでしみじみしました。

 けれどその一方でテレビでは伝わらない現場ならではの体感があるものだなぁと思った面もあります。ですので今回は、みなさんももうすでにご存じの競技の技術的な総括は極力少なくし、主に現地で見たからこそ感じられたこと、気づいたこと中心に書いてみたいと思います。そして、3月26日からさいたまスーパーアリーナで開かれる世界選手権(通称:ワールド)や、近未来の展望についても、一部、触れてみたいと思っています。


○ 男子はクワド標準装備の戦い。だからこそ大事だったトリプルアクセルとルッツ

 帰国以来、男子の戦いを振り返る番組をいくつか見ましたが、「4回転が勝負の決め手」という論調を中心に据えているものが、主にテレビ番組では多かったように思います。もちろん、ショートから4回転を入れなければ上位に入れなかったのは事実。でも上位陣は誰もが4回転を標準装備してくる試合だからこそ、そこから先の差をつけるには、次に得点の高いトリプルアクセルと3回転ルッツがらみのジャンプが大きな意味を持ちました! この2種のジャンプを単独、あるいはコンビネーションでしっかり回転不足なく着氷し、GOE加点をもらって決めることが、上位の勝負の決め手になっていたと思います。

 その点で羽生選手のショートは、4回転トウループを完璧に決めた後、後半にトリプルアクセルと3回転ルッツ+トウループのコンビネーションを難なく決めたところが強かった。今季ここまでの課題だった最終スピンも、しっかり最後まで軸を保って回り切り、まさに「完璧」といってよい仕上がり。年末のグランプリ・ファイナルの時点で、スピンをミスしても90点後半が出ていたので、あの演技での100点超え(101.45)は予想できました(でも今になってよく採点表を見ると、2つめのスピンはレベル3になっていて4が取れていないのですね。GOE加点もこのスピンと最後のスピンは1点台にのっていません。羽生選手は本来はスピンが上手なので、演技後にまだまだ課題があるというようなことを話していたのはこのあたりなのかなと思いました。もしここを修正してきたらどこまで得点が伸びてしまうのでしょうか!?)。

 しかしながら、僅差で2位となったパトリック・チャン選手と、金メダルをかけての一騎打ちとなった翌日のフリーでは、その羽生選手も複数の転倒があり、緊張のせいかスケートがうまく滑っていませんでした。最初の4回転サルコウでの転倒は想定内でしたが、その後の、彼にとっては簡単なはずの3回転フリップで転倒したのには驚きました。帰国後に、羽生選手自ら「3回転フリップの失敗は中学1年生以来」と話しているのを聞き、それだけ金メダルを意識したフリーの演技は普通のことをするだけでも大変なのだなと改めて感じました。対するチャン選手も、スケーティングはさすがの滑りで、冒頭の4回転+3回転のトウループは王者らしい完璧なスタートだったのに、かえってそこで金メダルを意識してしまったようで、その後のジャンプにお手つきやステップアウトなどの着氷乱れという痛いミスが連続してしまいました。ということで、羽生選手が逃げ切ったわけですが、今回は金メダルも銀メダルも、「ノーミスでベストな演技をした人が上位に残る」という五輪らしい結末ではなかったため、国内外から「非常に残念な結果だった」という声が多く囁かれることになってしまいました。

 そして正直、私もそう思ったのですよね。何となく不完全燃焼な気持ち。でもあの晩、ホテルのウェイクアップコール担当までが興奮して「ユズル・ハニュー、すごい!」と内線電話の向こうから言ってくれるわ、翌日のメダル授与セレモニーでは、若いロシア女子たちからキャーキャーと歓声があがるわ、羽生選手の地元ロシア人へのアピール度は半端ないものがありました。おみやげ屋のおばさんまで、こちらが日本人と知ると「日本の若い男の子すごかったわねぇ」と言ってくれたほど。限りないスター性を感じました。

 羽生選手はこれから、金メダリストにふさわしい資質を身につけていくのだと思います。個人的には、せっかくカナダにいるのですから、さらにスケーティング技術を磨いて欲しいなと思います。でもその前に、きっと世界選手権に向けてショートもフリーも完璧に見せて終えたいと闘志を燃やしていることでしょう。今季の羽生選手は、グランプリ・ファイナルに続き五輪と、大きな大会を相次いで制覇。これで世界選手権も制して五輪シーズンの3大会3冠となれば、これまた大記録達成です。1995/1996シーズンにグランプリ・シリーズがスタートして以来、この3冠は(私調べですが)ロシアのアレクセイ・ヤグディンしか達成していないのですから(2001/2002ソルトレイク五輪シーズン)。

 メダル争いとは別のところで、五輪男子のフリーで円熟した演技の美しさが際立ったのは、高橋大輔選手とジェレミー・アボット選手でした。清らかな川の流れのように、リンクをいっぱいに使いながらの、よどみのないスケーティングと上半身が醸し出す柔らかな表現は、心にしみいるものがありました。アボット選手はショートの冒頭の4回転で激しい転倒をした翌日の痛む体をおしてのフリーでしたし、高橋選手は、相当ひどかったに違いない脚の怪我と闘いながらの演技でした。2人とも気を強く持ってあれだけのパフォーマンスを見せてくれた。その姿は私のソチ五輪の記憶の中でひときわ輝いて、いつまでも残っていると思います。

 個人的に注目していた若手選手の中では、4回転を持たないジェイソン・ブラウン選手が、ショートを終わった段階で6位に食い込んでいたのは素晴らしかったと思います。フリーでは、彼らしい伸びやかさが出ずミスもあって順位を9位にまで落としましたが、今後のジャンプの鍛錬によって常に上位を争うメンバーになれる素質を感じさせました。

 同じく若手選手の、中国のハン・ヤン選手の総合7位! これは大健闘だったと思います。リンクのショートサイドの端から端まで跳んでしまいそうな特大トリプルアクセルを武器に持つハン・ヤン選手は、4回転トウループを単独でもコンビネーションでも跳べますし、何よりスケーティングが壮大で、これから確実に伸びると思うホープの1人。近い将来、羽生選手を脅かす存在になりそうです。